タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆馬の手入れ
末広はグリニッシュの前足の横に屈みこみ、「はい、足上げて」と言うと馬は前足を上げた。
末広はその前脚を逆手に持って、蹄の裏から泥や小砂利を鉄ピで掻きだした。
「馬は中指一本で立っているんだ。蹄は中指の爪なんだよ。爪の垢を掻きだしてやってるんだ」
と末広が説明するから、啓介は自分の右手を握って、中指を突きだしてみた。
「お前なんで俺にファックユーやってんだ」
「あっ、すみません」
末広は笑いながら啓介に、イースターの前足を指差して、目でやってみろと言った。
啓介は馬の首を優しく叩き、それからゆっくりと屈んで小さな声で「足上げて」と啓介が言うとイースターは足を上げた。
啓介はその蹄の泥を掻きだし、反対側に回って逆の足の小砂利も同じように掻きだした。末広はもうグリニッシュの左後脚を持ち上げていた。
右後脚はどうするのかと見ていると、末広は馬の右側には行かず、左側から馬の右足の前にクロスして左足を持ってきている。
啓介はイースターの右前脚の掃除を済ませて、後ろに回り、後脚を持ち上げるようなしぐさをすると、グリニッシュは後脚で空を軽く蹴った。
啓介は驚いて立ち上がり「蹴りますよ」と末広に言った。「蹴ってるんじゃない。脚を掴ませようとしてるんだ。もう一回、今度は旨く掴め」
馬はいやいやをするように右足で二回空中を蹴ったが、啓介は倒れそうになりながら脚を放さなかった。キャッチャーが揺れるナックルボールをやっと捕球したような体勢で、なんとか前に倒れずに堪えていた。末広がやってきたので啓介は脚を放すと、今度は馬の方が脚を出してきた。
前脚より後ろ足の方が何倍も難しいと啓介は思った。
末広は啓介に一輪車で乾草を持ってくるように言いつけると、自分はグリニッシュにブラシをかけ出した。馬は気持ちよさそうに身震いし、腰を少しかがめて放尿しだした。牝馬だとわかった。甘い小便の臭いがたちこめた。
啓介が乾草を運んでくると、グリニッシュが馬糞を落とし始めた。グリも牝馬だった。
馬糞は青草の臭いを強くしたような臭いは啓介にとって嫌な臭いではなかった。乾草を馬の前にそれぞれ落とすと、末広はその一輪車に馬糞をシャベルで積んだ。イースターもボロをするから一緒に「馬場の横の堤の前に捨てて来てくれ」
その言葉が終わるか終らない内にイースターがボロを落とし始めた。末広はイースターのつなぎ場に入って、「ちょっと寄れ」と馬に言って自分が入るスペースを作ってから、シャベルでボロをすくって一輪車に積み上げて、啓介に顎で堆肥場をもう一度指示した。
文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。
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