ぼくたちは、どうしたらロラン島のような社会を作ることができるのだろうか?
取材を通して、ずっと考えていた宿題だった。
本連載の最終回では、この宿題に自分なりの答えを出してみたい。
「世界はどうしたらピースになるのか?」
もちろん答えはひとつではないが、最も大切だと思えたロラン島の本質に迫る。(EPOCH MAKERS代表=別府 大河)
世界は、本当はもっと鮮やかで、美しいものだと思う。
だけど、今この世界には醜いものが多くて、ぼくには世界が少しだけくすんで見える。
デンマーク人は原発に疑問を持てば草の根運動で政治を動かし、ロラン島ではいち早く再生可能エネルギーに注力するなど、理想の未来へ向かって着実に前進している。世界一幸せな国だとも言われている。
ぼくは、そんな島が、この共生する国が、とても美しいと感じた。
では、日本とデンマークの根本的な違いは何なのだろうか?
一番の原因は「教育」にある。
ふとそう思ったのは、ロラン島の子どもたちが森の中で、ありのままにはしゃぎまくっていた姿を目にした時だった。
デンマークの教育は、学歴社会と無縁どころか、中学2年生まで学校に試験がない。
しかも教育費は無料で、何度だってやり直せる。
競争の概念が希薄なので、上も下も存在せず、自然と一体となってすくすくと育っていく。
ロラン島在住15年、中学2年生の一児の母であるニールセン北村朋子さん(第4回で取材)も大きく頷いてこう言う。
「ものすごくビックリしたんですが、本当に小さい頃から「将来の理想像は?」「幸せって何だろう?」「そのために今やるべきことは?」ってよく話すんですよ。
子供のレベルに合わせて、いろんな人と、いろんな角度から」
世界一幸せな国と呼ばれるのも、未来について考える習慣が根付いているのもよく理解できる。
翻って、日本はと言えば、そういった話を少なくとも学校で議論することは多くはなく、半ば嘲笑する空気感さえあるいように感じる。
「息子は本当にのびのび、自由に育っていますよ。
先生も大人も子供に対してノーとはできる限り言わず、どんな意見や質問にも耳を傾けます。
この前も「なんで人は生きるんだろう?」「自分で死ぬのはなんでダメなの?」って真剣に聞かれて(笑)。
まだ小6なのに…って思いましたけど、これがデンマークの教育なんです」
デンマークには「森の幼稚園」という、子供を自由に育てる教育を象徴するような場所がある。
ぼくがロラン島で訪れた「森の幼稚園」では、20人ほどの子供たちが大声を上げながら、枝や落ち葉を両手に抱えて、森を駆けずり回り、転ぼうが足をぶつけようが、ケラケラと笑いながら立ち上がり、また森の遊びに没頭する。
そこに、ポツンと扉のない高床式の小さな小屋があった。
ある子供がその中へと入って行ったが、なかなか帰って来ない。
興味本位で近いづいて中を覗いみてると、なんと布団が敷き詰められていた。
近くにいた先生に聞いてみたところ、そこは外で昼寝する小屋だという。
なんと子供たちは森のど真ん中で、屋外で昼寝を取っているのだ。
そこで目にした数々の常識はずれな光景に、ぼくはあまりの衝撃に、しばらく呆然としてしまった。
雨が降ろうが、風が強かろうが、真冬だろうが、大自然の中で他の子供達と一緒に遊ぶ。
木も枝も葉っぱも土も、すべて遊び道具。
女の子も躊躇なしに木に登ったり、ターザンをしたり。
疲れて眠なったら小屋で昼寝。トイレも外。
もしも寒かったら、キャンプファイヤーで暖をとる。
自然と共に、他の子供たちと自由に育てるこの教育は、すでに成果を上げているのだという。
森の幼稚園を卒業した子供は、身体が丈夫で、コミュニケーションが他の子より上手だという。
大人から「あれをやれ」「これはやるな」としつけられるのではなく、自分の身体を通して学びながら、ゆっくりと学んでいく教育がここにはある。
デンマーク発祥の「森の幼稚園」は、すでに世界中で普及し始めている。
宮城県東松島市が公立学校にこの概念を導入するなど、日本も例外ではない。
森の幼稚園で見た、子供たちの弾けんばかりの無邪気な笑顔は、今でも鮮明にぼくの脳裏に焼き付いている。
無限の可能性を秘める子供の教育こそ、遠いようで一番の近道なのかもしれない。
これまでのロラン島の成果も、「共生」の精神が根付いているデンマークの国民性も、原点はここにあるのかもしれない。
本連載は、今回で最後となった。
たとえ浅くても、デンマークに留学した大学生という視点から、「ロラン島」という存在を日本に伝えたい、そして世界が前進するきっかけになれば、と夢中で取材してまわった。
人類が物質や境界線から自由になれれば、無駄な争いごとはなくなっていく。
たとえば、「エネルギーの有限性」から解放されると、もうちょっと世界はピースになると思うんだ。
その思いは、確信に変わった。
あなたは、今どんな風を感じていますか?
どんな風に乗って、どんな世界へ行きたいですか?
希望の風は、北欧の島から。
やさしい未来へ向かう穏やかな風は、今日もロラン島から吹いている。
*この連載「希望の息吹は、小さな北欧の島から」は、EPOCH MAKERSから転載しています。
著・別府 大河:
EPOCH MAKERS代表。デンマーク留学中、ウェブメディア「EPOCH MAKERS」を立ち上げ、英語を駆使して取材し、日本語で発信。帰国した現在も運営を続けながら、四角大輔アシスタントプロデューサーとしても活動中。
連載『希望の息吹は、小さな北欧の島から』
第1回:自然エネルギー100%自給率600%、世界中が注目する「ロラン島」
第2回:2050年、脱化石燃料!?デンマークのエネルギーの歴史と未来
第3回:節電すればするほど儲かる!デンマークの電力システムが資本主義の常識を覆す
第4回:「作物と共にエネルギーを収穫する」ロラン島の実態とは?
第5回:ロラン島のリーダーに聞く、「大きな循環の中で、日本人は何を想像し行動すればいいんですか?」