伊藤忠記念財団は10月16日、電子図書のマルチメディアDAISY(デイジー)の録音作業を行った。10人ほどの劇団員が協力し、9冊の絵本を録音した。絵本を読んだ子どもが楽しめるように、劇団員それぞれが感情豊かにセリフを読んでいた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

抑揚をつけてセリフを読み上げる劇団員たち

抑揚をつけてセリフを読み上げる劇団員たち

マルチメディアDAISYとは、パソコンやタブレット端末で読書をすることができる電子図書規格の一つ。文字の拡大や音声の読み上げ機能があるので、読みが困難な子どもも、読書を楽しむことができる。

伊藤忠記念財団では、児童書を電子図書化し、毎年、全国の特別支援学校や図書館、医療施設などに無料で提供している。寄贈先は年々増え、2012年度は500ほどだったが、2015年度はその倍となる1022カ所に及んだ。

一般的に、音訳では、読者が自由に登場人物の感情を受け取れるように、音訳者が気持ちを込めてはいけないと言われてきた。しかし、知的障害のある子どもたちは、淡々とした音訳では関心を持てず、話の理解が進まないことが多いと言う。

同財団では、年間に製作するマルチメディアDAISY50~60冊のうち、約20冊の録音を劇団に依頼している。同日、録音作業をするために集まったのは、劇団ジャングルベル・シアターの劇団員。同財団とは、10年ほど前から協力して、子ども向けのイベントなどを行ってきた。

この日、劇団員は、語尾やイントネーションを意識し、シーンを考えて一つひとつのセリフを丁寧に読んでいった。時折、ジャングルベル・シアターを主宰する浅野泰徳さんが、劇団員にダメ出しする。「そこはもっと、ヒソヒソ感を出して」、「声にまどろみを出して」、さらには、「梅干しになった気分で、酸っぱさを出して」という指示もあった。

セリフに抑揚があるので、分かりやすいと子どもたちに人気だ。特に、最近では、医療施設からの問い合わせも増えているという。「この絵本を通して、多くの人の声を聞けることで、普段隔離された環境にいる院内学級のお子さんから特に喜ばれている」(伊藤忠記念財団 矢部剛・電子図書普及事業部長)。

ジャングルベル・シアターを主宰する浅野さん

ジャングルベル・シアターを主宰する浅野さん

この録音に参加する劇団員へも芝居の技術を向上する好影響を与えている。浅野さんは、「大人向けの芝居では、感情を隠した演技をする事も多いのだが、絵本の録音では、子どもたちに物語をより分かりやすく伝えるため、敢えて感情を隠さず、まっすぐな表現で、心をそのまま声に乗せている。それが芝居の勉強になる」と話す。

浅野さんは、「この絵本によって子どもたちの内面の世界が広がっていけばいい」と話す。浅野さんも子どものころから本が大好きで、よく図書館に通っていた。「自分自身が本から多くのことを学んできた。様々な世界を体験し、本の中に友達ができることもあった。紙の本では読めないお子さんたちにも、マルチメディアDAISYを通して、そんな体験を楽しんで欲しい」と語った。

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