今日、あなたが食べたチョコレートは誰が作ったものだろうか。1990年代、スポーツメーカーのナイキに対して、消費者は不買運動を起こした。この動きは、同社が製造委託している東南アジアの工場で児童労働が発覚したことが起因となった。甘いチョコの裏側に隠された苦い現実を追う。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
日本に輸入されるカカオの8割がガーナ産だ。同国のカカオ生産を支えるのは、小規模農家。その中には、家庭を支えるために、学校に通わずに働く子どもも少なくない。その数は90万人に及ぶ。
子どもたちは学校に通わないため、読み書きができず、大人になっても就ける職が限られる。自分たちが教育を受けなかったことで、教育に対するプライオリティは低く、子どもができても学校よりも、働き手となることを優先させる。こうして、貧困の連鎖は続く。
ガーナで起きているこの問題の難点は、貧困家庭では子どもも重要な働き手であることだ。その子が学校に通ってしまうと働き手がいなくなり、家計に響く。しかし、不当な条件で強制的に働かされている子どももいて、緊急的な問題でもある。
このような状況でどのようにして児童労働根絶に動けば良いのか。認定NPO法人ACE(エース、東京・台東)の白木朋子事務局長は、「生産農家の収益を上げながら、健全なコミュニティーをつくりあげていくべき」と説明する。
カカオの生産地域には、移住労働者が多く、生産方法を把握していない者もいる。そのような労働者は非効率な生産をしながら家族総出で働いているという。
そこでACEでは2009年から、ガーナ・アシャンティ州の生産地で、コミュニティー全体で児童労働のない持続可能なカカオ生産を行うプロジェクトを行ってきた。コミュニティー内で生産方法を教え合い、児童労働をしていないかの監視をしてもらっている。この結果、2015年までに同州の450人の子どもを児童労働から救った。
同団体では、このほど児童労働で作られていないカカオの安定供給を目指し動いている。「世界的に見ても、児童労働のないチョコレートは希少」(白木氏)。同団体が管理するコミュニティーで生産したカカオを日本の商社が買い取り、菓子メーカーに販売する。
ただ、仕組みはできたが、買い手の問題がある。菓子メーカーが、児童労働のないカカオを購入しない理由は何か。白木氏は主に2つあると指摘する。一つは、コストの問題。ACEのコミュニティーで作ったカカオは国際フェアトレード認証を受けているため、通常のカカオ豆のコストに加えて、1トン当たり200ドルのプレミアムを支払う必要がある。そして、もう一つが味や製造工程の変化を危惧していること。
従来と異なるカカオを使うとなると、味を含めたあらゆる工程の見直しが必要となるからだという。現に、同団体のコミュニティーでは1千トンの生産量があるが、日本の商社が買い取った量はわずか50トンに過ぎない。「菓子メーカー側が、エシカルな商品が売れるという確証を持っていない」(白木氏)ことで、供給が伸びない。
企業を変えるカギは誰が持っているのか。白木氏は、「消費者の声」と力を込める。2015年、森永製菓がACEのコミュニティーで作られたカカオを使った国際フェアトレード認証付きのチョコレートを販売した。しかし、ファミリーマートで取り扱っていないことで、消費者が問い合わせた。こうした消費者の声から、ファミリーマートでの取り扱いが始まった。
白木氏は、「消費者の声を待つよりも、企業の社会的責任として、児童労働のないカカオを使ってほしいが」と強く前置きしながら、「価格・味だけでなく、フェアであるかが商品を選ぶ基準の一つに加えてほしい」を消費者に訴えた。
2020年には、世界的にカカオの生産量が100万トン不足すると予測されている。安定供給のためには、効率良く、そして、サステナブルな生産が必要だ。
現在、ACEは児童労働のないカカオの生産をコミュニティーで実現していくため、クラウドファンディングで11月16日までに500万円の資金調達に挑戦している。
・ACEが挑戦中のクラウドファンディングはこちら
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