世界有数の地震大国である日本。さらに近年は、台風や大雨による洪水、土砂災害など、地震以外の自然災害も多発している。こうした災害を完全に防ぐことは難しいが、被害をできるだけ小さくするための減災はできる。そこで考えたいのが、日本の将来を担う子どもたちへの防災教育だ。そんな中、「音」という視点で新たな防災教育支援を始めた企業がある。（オルタナS関西支局特派員＝近藤 浩己）
上演開始を待ちわびる子どもたち。教室の教壇でも気軽に上演できるよう、セットはコンパクトに作られている
業務用音響機器、映像機器メーカーのTOAは10月23日、災害時の音をテーマとしたオリジナル人形劇「カンカン塔の見張り番」を、福井県鯖江市の立待小学校で初開催した。
防災分野での新しい社会貢献活動の一環で、この日は小学1年生、2年生を対象に上演。演じたのは人形役者1名と、生伴奏の音楽家1名。臨場感あふれるセリフまわしと、アコーディオンやラッパ、シンバルといった楽器を使って臨場感をさらに高めるストーリー展開に、参加した小学生は時に声を上げながら、食い入るように劇に見入った。
■「危険を知らせる音」に気づく大切さ
人形劇の開始前、見慣れない人形やセットに興味津々の子どもたち。人形役者の「TOA音の防災シアター“カンカン塔の見張り番”はじまりはじまり〜！」の声とともにアコーディオンの生演奏が始まると、身を乗り出してステージを見つめた。
物語は、架空の「どうぶつ村」を舞台に、主人公の子うさぎ「ベルくん」が、火事や雨など、村に起こるさまざまな事件を、いろいろな楽器を使い分けて“音”で村人たちに知らせ、村の安全を守るという約20分間のストーリー。火事に続いて入道雲が近づくなど、立て続けに事件が起こると、どの音を鳴らすべきなのか迷うベルくんに、「鐘だよ！」「違う、太鼓だよ！」と子どもたちが声をかけながら、正しい音をベルくんに教えていた。
そんなとき、見知らぬ船が近づいてくるのを見つけるベルくん。おおかみの襲来だと思ったベルくんは、おおかみ襲来時の音を必死で鳴らすものの、数十年ぶりに聞くその音が何の音かわからず、村人たちは行動を起こさない。「どうすれば気づいてくれるのかな？」子どもたちはベルくんと一緒になって考え、答えを探した。
コミカルな人形の動きと、人形役者とベルくんのユニークな掛け合いで、どんどん物語に引き込まれていく子どもたち
「僕たちの世界にはカンカン塔はないけれど、大きな音で危険を知らせるスピーカーはあります。でも、スピーカーがあるだけじゃ安心できません」。人形劇の終了後、TOA広報室の吉村真也さんは子どもたちに語りかけた。
「おおかみが来たことを知らせる音を鳴らしても、村のみんながすぐに逃げなかったように、危険を知らせる警報は、その音が何の音かわかって、行動をして初めて意味があります。だから、普段と違う音が聞こえてきたら『何の音かな？』と耳をすませてよく聞いて、そのときにどんな行動をとるのかを考えてくださいね」
吉村さんの言葉に子どもたちは素直にうなずき、大きな拍手に包まれてイベントは幕を閉じた。
■音のインフラを活かす防災活動
広域に音を届ける高性能スピーカーや非常用放送設備など、音に関わるさまざまな防災関連商品を提供しているTOA。今回の「TOA音の防災シアター」は、地域の人たち、中でも子どもたちに音について考える機会を持ってもらうことを目的とした新しい社会貢献活動だ。
劇の終了後、災害時の「音」に気づく大切さを話すTOA広報室の吉村真也さん。人形劇の世界に引き込まれた後だけに、子どもたちも真剣に耳を傾ける
吉村さんは「音のインフラが整っても、その音を聞いた人たちが適切な避難活動を起こす意志を持たなくては備えは十分と言えません。
本業の商品提供だけでなく、災害時に音に注意を払うこと、自ら避難行動をとる重要性を広く伝えながら、社会の安全・安心に貢献していきたい」とコメント。「避難後の生活などについての防災イベントは多いが、避難の際のトリガーとなる場面にスポットを当てたイベントは少ない。人を適切に災いから遠ざける「減災」の取り組みが必要です。音のメーカーとして全社で協力しながら、子どもたちが音を意識するお手伝いができれば」と意気込みを語った。
「人形劇とアコーディオン」という昔から慣れ親しんできたエンタメによる、新しいスタイルの防災教育。子どもたちが人形劇で学び、感じたことを家族や友達に伝えていけば、日本人全体の防災力も高まっていくかもしれない。
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