タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆耕作放棄地の現状

啓介は日本に来た頃、コンビニでReynoldsラップはどこにあるかと尋ねて「当店では取り扱っておりません」と答えられたことを思い出した。アメリカ人はアルミ箔のメーカ名を商品名にしてしまっているのだ。米国でもホンダがモーターサイクルがすべての呼称だったり、日本でも車の警笛をブランド名のクラクションとか言ってるな、なんて思っていたら、軽トラのホーンが鳴った。荷台に飛び乗ろうとして落ちてしまったバースデーの腹を抱えて放り上げて乗せてやってから、啓介はサンドイッチを掴んで荷台のフラップを片手で掴んで飛び乗った。サンドイッチを持つ手を使ったから、サンドイッチを少し潰してしまった。

舗装道路から雪解けの泥道を抜けて車はまず末広の山荘に寄った。啓介は荷台から飛び降り、靴のまま家に上がるとリズがテーブルの上の布団の中で死んだように寝ているのを見つけた。もしかして食う物も食わずにやってきたのかもしれないと思うと気の毒になった。

食欲が眠気に負けてしまったのだと啓介は思った。それにしてもあのように馬を扱うなんて彼女は何者なのだろうと思いながら彼はサンドイッチを彼女の枕元にそっと置くと、そのまま外に出て、軽くエンジン音を鳴らしている軽トラの荷台に飛び乗った。車は苦しそうに喘いで車道に出ると、そこからは安心した様なエンジン音をたてて、白樺林を割るように走り下りた。白樺が赤松に代わり、それからカラマツ林を抜けると、広い農地が表れ、軽トラは農地の横の茂みに止まった。

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八ヶ岳の主峰赤岳の白い峰は朝日を反射してほとんど赤く、彼らの後方にそびえて、目の前では南アルプスの山々が大きな白い塊となって彼らに迫って来るようだった。ドアが開いて、末広と敏夫が降りると、バースデーが荷台から飛び降りたので啓介も続いて飛び降りた。

皆が降りると敏夫が末広に「こんな一反歩ばかりの畑が20個以上あるですよ」と言った。啓介を見て「全部農振地域内だからどうもならん。タダで使ってくれし」すると「タダってわけにもいくめえ」と末広が答えた、敏夫は「農地法はどうするですか」と尋ねた。
「農業をする」
「でもパネルを敷いたら作物はできないんじゃないですか?」啓介が尋ねると。「出来る。日陰が好きな作物を作る」
「キノコとか?」啓介が言うと「そうだね!」敏夫の顔が明るくなった。
「でも誰が栽培しますか」
「こいつがやる」と言って啓介の肩をたたいた。
啓介は同意せずに、あいまいに笑って見せた。
「ケイちゃん。山に来るんか」敏夫が大笑いしていった。
携帯が鳴った。「どこにおるんや」平井の声がと途切れとぎれに聞こえた。
「山梨です」
「例のスキー場の代理店の件か?」
「そうです」
「会社がどうなるか分からんのにどうするんや」
「平井さんはどうしますか?」
「知らん」
「百姓やったらどうかと思うんですが・・・」
啓介が言うと「あほ抜かせ」吐き捨てるように言って平井が電話を切った。
電話を掛けながら二人から離れて行った啓介が電話を折りたたんで二人の所に戻って行くとまだ二人は話し合っていた。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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