トヨタ財団は12月16日、トヨタNPOカレッジ「カイケツ」の成果報告会を開いた。今年5月から、トヨタ自動車の問題解決手法を学んだNPOの経営幹部がその成果を発表した。「うつ」「多文化共生」「子どもの貧困」などの社会的課題の解決へ、悩みながらも前へ進む。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

映像制作を通して多文化共生を目指す牧野さん

映像制作を通して多文化共生を目指す牧野さん

カイケツには、全国から約30のNPO団体の経営陣が参加。5月から毎月1回、トヨタ自動車の問題解決手法を教わった。講師は、トヨタ自動車の古谷健夫・業務品質改善部主査ら同社で品質管理に携わってきた社員が務めた。

多文化共生を目指す任意団体DiVE.tv(ダイブドットティブィ)を立ち上げた牧野佳奈子さんは、「壁を乗り越えていくための基礎体力が付いた」と手応えを話す。目標を明確に設定できたことで、「現実とのギャップに向き合うことになった。このままではダメだと自分に言い聞かせて、新たな方法を考えるようになった」。

同団体は、映像制作を通して、日本人と外国人のコミュニケーションを促進する。日本にルーツを持つ外国人をボランティアとして募集し、彼/彼女にも映像制作に協力してもらうことが特徴。「外国人がいる地域で問題が起きると、『だから外国人は嫌なのだよ』という声を減らしたい。暗い面だけでなく、明るく楽しい外国の文化を発信していきたい」(牧野さん)。

牧野さんは、「動画制作ディレクターの育成強化」を目標に定めた。DiVE.tvでは、牧野さん以外にアルバイトが4人。ボランティアは30人弱いるが、撮影したことがない人がほとんど。そのため、ディレクターの作業内容をまとめたマニュアルを作成した。

牧野さんはこの計画をA3用紙にまとめ、報告した。用紙には、現状把握、目標設定、対策立案などをきれいに整理し、「目標とそのための道筋が明確になった」と言うが、「実行が上手くいかない」と明かす。

撮影技術が高かったスタッフがいなくなり、新規のボランティアが集まらず、牧野さんの仕事量が改善されなかった。その結果、牧野さんは編集作業に追われ、営業ができず、資金繰りに苦しむという悪循環に陥った。

「現状に向き合えたことで、より具体的に課題が浮き彫りになった」とする。課題は出たが、ポジティブに捉える。問題解決の手法を学べたので、「次のステップも踏み出しやすくなった」。

■「私の」から「みんなの」へ

うつや引きこもりの若者の社会参加・自立を支援するNPO法人社会復帰支援アウトリーチの代表理事である林日奈さんは、「周囲のスタッフの意見をしっかりと受け止めるようになった」と話す。

社会復帰支援アウトリーチの林さん

社会復帰支援アウトリーチの林さん

同団体では、スタッフの自主性を引き出すための計画を考えた。これまで、企画作りや準備は林さんが一人で行っていた。一人で動いていたため、集客が上手くいかず、ゲストとの打ち合わせも十分にできていなかった。

「これまでを振り返ったとき、周囲の意見を取り入れず、独裁的な組織だった」と告白した。同団体では、支援先の家庭にスタッフが家庭訪問する。そのため、どうしたら社会復帰の手立てになるのか、スタッフが自分で考えて動かないといけない。

林さんは、「一人で始めた活動だが、私一人だけでは、この問題は解決できない」とし、「みんなの組織」として、活動していくように舵を切った。

講師を務めた古谷氏は、「ビジョンとミッション、これがすべてのスタートライン。ビジョンのないところに改善は生まれない」と強調。「不都合な真実にも向き合い、データを示し、問題を解決していってほしい」とエールを送った。