夢の実現性を競い合う「みんなの夢アワード」(主催:公益財団法人みんなの夢をかなえる会)。毎年、全国から数百人がエントリーし、審査を勝ち抜いたファイナリストが数千人の観衆と審査員、約50社の協賛企業を前に自らの夢をプレゼンする。
会場からの投票で、「日本一」の夢を決め、最高のプレゼンテーターには100万円の夢支度金や協賛企業から最大限のサポートを得ることができる。優秀なソーシャルビジネスには、最大2000万円の出資交渉権が授与される。
今年は2月20日に7回目の同アワードが舞浜アンフィシアターで開催される。開催を前に、シリーズ「ファイナリストの今」と題して、過去のファイナリストたちの近況を紹介する。取材したのは、みんなの夢アワード5で、「途上国の子どもたちに映画を届ける」とプレゼンし、グランプリを獲得した教来石小織さん。
■アディダス・ジェラートピケ・・返礼品を人気ブランドへ
下北沢駅から徒歩6分。閑静な住宅街にあるマンションの一室に、「みんなの夢アワード5」のファイナリスト如月音流(きさらぎねる)さんが経営する株式会社イクスシードのオフィスがあります。
惚れ惚れするような美貌の持ち主の音流さんは、北海道稚内市にあるラーメン屋の息子として生まれました。高校卒業後は飲食の道に進もうと、調理師専門学校へ。卒業後は実家のラーメン屋を手伝いながら、当時流行っていた携帯電話のデコメールのサイトを運営していました。それが東京の会社の社長の目に留まり、東京へ。
東京に出てきた音流さんは、自分らしく生きるために、手術をして女性へと生まれ変わります。その後は「おねえタレント」してメディアに出演する一方で、IT実業家としても活躍。2015年に行われた夢アワード5では、記事をSNS上でシェアすることで寄付できるメディア「OLIVE(オリーブ)」についてプレゼンされました。
セレブのような容姿なのに、大のゲーム好きというギャップがたまらない音流さん。個人的に大好きな方です。久々に音流さんにお会いできると、取材の日、わくわくしながらオフィスのインターフォンを鳴らしました。が、すぐに応答がありません。2分ほど待っているとドアが開きました。中を見ると、「すみません。卵落としちゃって」と、床を拭いている古市さんの姿が。
坊主頭が似合う古市さんは、イクスシードの役員。慶應大学出身、コンサルタントを経てイクスシードに参画した優秀な古市さんは、オフィスのキッチンで夕飯を作っているところでした。
音流さんへの取材中も、「落とした卵を活用したいので、今日はすき焼きにします」とデスクの上ですき焼きを作り始める古市さん。自由な雰囲気の社風だからこそ、クリエイティブな仕事ができるのでしょうか。古市さんからバナナとリンゴ、栗をいただいたりしながら、音流さんの今についてお聞きました。(記事:教来石 小織)
――みんな夢アワード5から二年経ちますね。今夢アワードを振り返られていかがですか?音流さん(以下、音流)
:いい思い出というか、楽しかったですよね、とにかく。いろんな面白い方に会えたし。プレゼンを作ったり覚えたりするのは本当に大変でしたけど。プレゼンを練りながら自分の原点を振り返ったことで、自分の事業をやる意味が改めてわかったんです。あの日、日本武道館でプレゼンした時が、スタートラインに立った瞬間だったような気がします。
――今年「OLIVE(オリーブ)」以外にも何か始められたみたいですね。
音流:ファッションで南相馬市を応援する、ふるさと納税サイト「noma-style(ノーマスタイル)」を立ち上げました。
――立ち上げのきっかけって何だったんですか?
音流:南相馬市の方と出会ったのがきっかけでした。南相馬市は、震災の時に福島第1原子発電所の事故で、農業や漁業が大きなダメージを受けた市です。何かうちでも支援できないかなと考えている時に、ふるさと納税に行きつきました。
――すみません……。ふるさと納税って、名前はよく聞くんですが、恥ずかしながらどういうものかわかってないので教えてください……。
音流:ふるさと納税というのは、自分が応援したい市区町村に寄付をすることです。自分が住んでいる町や生まれた故郷じゃなくても寄付できるんです。
都会とちがって人口が少ない地方の自治体でも税収を増やせないかというアイデアから始まりました。
自治体によっては、返礼品として、その土地の特産品や旅行券を受け取れるところもあります。たとえば長崎県平戸市に2万円以上の寄付をすると、伊勢海老に勝るとも劣らないとも言われているウチワエビを約1.5キロもらえます。
長崎県島原市だと、かに三昧セット。ご当地名物のフルーツを送ってくれる自治体もあります。
――税金もお得になってその土地の美味しいものももらえるなんて……。そんな素晴らしい制度だったんですね。
音流:ふるさと納税のことが知られるにつれ、納税者は年々増えています。平成28年度は129万5千人になりました。そんな中、南相馬市は、震災前よりも寄付が2割減少したんです。原発の風評被害が根強くて、地元産品の返礼品に抵抗感を示す人が多かったんですね。
――なるほど……。
音流:そこで私たちが考えたのが、南相馬市の返礼品を地元産品にするのではなく、有名なブランド品にすること。「アディダス」や「ジェラートピケ」、「マンハッタンポーテージ」などが賛同してくださって、返礼品提供で南相馬市と合意しました。
――それはとてもいいアイデアですね!
音流:寄付をしてくださった方から、「はじめてふるさと納税を知るきっかけとなりました。これから南相馬市のことも知るきっかけとなってよかったです」というメッセージをもらった時は、始めて本当に良かったと思いました。
「小学生の時に旅行で行った思い出の地です。翌年に他界した父との最後の旅行になってしまったので、支援したいと思いました」というメッセージを見た時はスタッフみんな目を潤ませていましたね。
――「noma-style」は、やはりタレントでもある音流さんが露出して宣伝されていくんでしょうか?
音流:いえ。「noma-style」に関しては、私は黒子に徹していきたいと思っています。主役は南相馬市の皆様ですので。
良いブランドの返礼品を集めたり、サイトを運営したりして、ふるさと納税を通して多くの方に南相馬市のことを知ってもらうきっかけになればと思っています。
――素晴らしいです。
音流:夢アワードの時に、OLIVEととことん向き合うことで、自分がやりたいのは、ITを使って誰かの支援につながるビジネスの仕組みを作ることなんだと気づきました。
性的マイノリティで迫害された経験があるので(笑)。OLIVEにもnoma-styleもそれを実現した事業です。自分のミッションにもつながることなので、全力で軌道に乗せていきたいですね。
――最後に、音流さんが思う、夢を叶えるのに必要なことって何でしょうか?
音流:特にないですね。自分がやるだけだと思います。
――かっこいい。今日はありがとうございました!栗もごちそうさまでした!
如月音流(きさらぎ・ねる):
株式会社イクスシード 代表取締役社長
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