営業管理システムを販売するセールスフォース・ドットコムが考案した社会貢献モデルが世界550社以上に広がっている。同モデルは、製品、株式、就業時間の1%を使って非営利団体を支援するもの。このシンプルな仕組みは、業種に縛られることなく応用されており、ビジネスと社会貢献を統合した取り組みとして浸透している。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

セールスフォースの社会貢献モデルについて話す上田氏(左)と遠藤氏=東京・丸の内にある同社で

同社は1999年、米・サンフランシスコで創業。23カ国に支社を持ち、社員は24000人に及ぶ。2004年にはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。2017年度の売上高は1兆円を見込む。ソフトウェア業界では、マイクロソフト、オラクル、SAPに次いで4番手に位置する。

同社は、「1-1-1モデル」と呼ばれる社会貢献活動を行う。これは、製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を非営利組織の活動支援に使うもの。製品は無償で提供し、株式または利益などリソースの1%相当の資金的な援助をし、社員には働く時間の1%をボランティアに充てるよう奨励する。

1999年の創業以来、このモデルに則って社会貢献活動を行ってきた。創業者のマーク・ベニオフ氏は、企業に社会貢献の文化を根付かせるには、利益が出てからではなく、創業当初から経営戦略のDNAに組み込まないといけないと考えた。

こう考えた背景には、前職時代の苦い経験がある。ベニオフ氏はオラクルに勤めており、社会貢献部門を立ち上げた発起人。部署は立ち上げたが、社員に社会貢献の意識を十分に根付かせることができず退社した。この経験から、社会貢献が焼き付いたビジネスモデルを追求していた。

同社では、これまでに製品を提供した団体数は2万7000を超える。創業から18年間で、非営利団体に助成した総額は150億円ほど。日本法人の社員の87%以上が10時間以上のボランティア活動を行っている。

社員の意識を高める制度も充実している。入社前の研修では、新卒・中途に関わらず2日目でボランティア活動を行う。グローバル全体で年間のボランティア時間が100位以内に入ると、それぞれの社員が選択した団体へ1万ドル寄付ができるという制度もある。

ビジネスと社会貢献を統合したこの仕組みは、今では550社の企業が参考にするほど、世界に広がっている。

■国内800団体へ提供

日本法人は創業翌年の2000年に設立され、社員数は1000人を超える。非営利団体へは10ユーザー・10ライセンスまでは無償で提供し、それ以降から通常価格の2-3割で販売している。

導入しているのは、社会起業の支援を行うNPO法人ETIC.(東京・渋谷)や児童労働問題に取り組む認定NPO法人ACE(東京・台東)など800団体に及ぶ。

日本で非営利団体向けに営業活動を行うのは、アジア初の「非営利セクター専任の営業職」という肩書を持つコマーシャル営業 第5営業本部に務める上田圭祐氏。本業とは別に、学生向けにキャリア支援を行うNPO法人鴻鵠塾(こうこくじゅく、東京・豊島)の代表理事でもあり、2枚の名刺を持つ。

上田氏がボランティア活動に充てる時間は年間700時間に及び、世界2位になったこともある。

日本には約5万の非営利団体があり、この市場を狙うが、半数以下が年間の事業収入500万円に満たない。導入している800団体のうち、有料は1割ほど。今年度の前期はノルマ未達に終わった。環境は厳しいが、売上高は拡大しているという。

社会貢献は人材育成の面で有効になっているようだ。同社が新卒採用を始めたのは2014年からで、ほとんどが中途採用。様々な分野のビジネスプロフェッショナルが面接を受けに来るが、ディレクターの遠藤理恵氏は、「企業戦略の一つに社会貢献を組み込んでいることに魅力を感じて、優秀な方がこの会社を選んでくれている」と言う。全員とまではいかないが、「一定数でいる」とのことだ。

なぜここまで同社は社会貢献に力を入れるのか。その解は、ベニオフ氏のこの考えから伺い知ることができる。「自分たちの会社はシェアフォルダーではなく、ステークホルダーのためにある」。こう社員に伝えているという。

遠藤氏は、「社内にはオハナカルチャーがある」と説明する。オハナとはハワイ語で、血のつながりがなくても、心はつながっているという意味を持つ。遠藤氏は、「この価値観を持っているから、周囲のコミュニティーに対してボランティアをするのは当たり前のこと」と言い切る。

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