2月中旬、経済産業省主催で「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」が開催された。現在、大腸がん検診受診率向上と糖尿病性腎症重症化予防の2つの領域で、成果連動型かつ複数年契約の本格的なソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)が複数自治体で導入見込み(執筆時点では予算案提出段階)だ。これは日本ではまだ前例がないことだ。大手金融機関やクラウドファンディング事業者が資金提供者候補として関心を高めている。(幸地 正樹・ケイスリー代表取締役)

ソーシャル・インパクト・ボンドの仕組み。ケイスリー社作成の図

SIBとは、民間事業者によるサービスの成果目標を行政と予め合意の上、その成果達成に向けたサービスの事業資金を民間資金提供者から調達し、サービスを実施するもの。そして、予め合意した成果目標を達成した場合、行政から資金提供者へ支払いが行われる仕組みである。2010年に英国で始まった後、欧米を中心として16カ国60案件220億円以上が実施されている。

行政がSIBに取り組むことで何が変わるのか。大きくは次の3つだ。
「高い成果は見込めるが投融資が困難なリスクのある民間サービスのチャレンジを促進」
「関係者で成果指標を共有しモニタリングすることによる成果向上」
「高い成果が見込める事業者の成長」

――である。

これらによって社会全体の生産性を高め、様々な社会的課題の解決を促進することができる。筆者が中間支援組織として多くの自治体とSIB導入可能性の検討を進める中で感じることは、行政、事業者、資金提供者など様々な関係者が「成果とは何か」、「成果を向上させるためにはどうしたら良いのか」などを継続的に議論することで考え方が成果志向となり、仮にSIB導入まで至らない場合においても、大きな変化が生まれていると感じている。

SIBだけを見た場合、その金額規模や案件数は少なく、社会全体へ与える影響も少ないのではないかという意見もある。しかし、SIBによって効果的かつ効率的なサービスが実証され、リスクが低減されることで、有効なサービスの更なる規模拡大や行政サービスに組み込まれることなどによる社会へのインパクトは非常に大きなものになると考えられる。

先にも述べたが、SIBを推進するプロセスそのものが、行政、事業者、資金提供者それぞれを成果志向にすることである。これらの波及効果を含め、成果志向が浸透していない現在の日本において、SIBを推進する意義は大きいと考える。

ただし、SIBはあくまでも社会的課題の解決を促進させるためのツールの一つであり、目的や状況に応じて使い分けることが重要である。SIBは多様な関係者による複雑な調整が必要であり、通常の投資や融資など、より簡易な手法で実現できる場合はSIBを利用する必要はない。

民間資金だけでサービスを提供できるわけではなく、初めに行政が最終的に支払う予算枠を確保する必要があり、関係者全員に強いコミットメントが求められる。魔法の杖ではないのである。

それを踏まえてもなおSIBを活用した方が望ましい事業も多く存在することは確かであり、そのためにも、SIBが当たり前の選択肢として検討できるような状態を目指している。

冒頭の報告会では、平日日中にも関わらず157名が参加し、20%以上が中央省庁や地方自治体の関係者であった。

SIB関連イベントとしては過去最大規模であり、全国からの問い合わせ増加などを含め、成果を求める行政の関心は高まっている。ただの「政策ブーム」で終わらせないためにも日本初の案件で確実に成果を出し、様々な課題を洗い出しながら、健全な成長を促したい。

■「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」のイベントレポート

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