伊藤忠記念財団は3月3日、平成28年度の子ども文庫助成の贈呈式を開いた。子どもたちの読書啓発活動を行っている団体・個人が助成を受けた。伊藤忠記念財団では1975年から2179の団体・個人へ助成してきた。同財団の理事長を務める小林栄三氏(伊藤忠商事会長)は、「先人の見識を本の読み聞かせを通して、子どもたちへ継承していることは、日本社会の永続的な発展を支えてきた」と草の根の文庫活動を称えた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同日、伊藤忠商事本社で、贈呈式が開かれ、助成を受けた団体の代表者が集まった。平成28年度は188件の応募があり、審査の結果、72件の助成と、子ども文庫功労賞の3名の表彰を行った。
助成内容は3つある。1つは、児童書及び図書に関するもの(紙芝居、書架、読書支援機器など)の購入資金として30万円を助成する、「現金助成」。2つ目は、伊藤忠記念財団が選書した100冊セットを贈呈する「図書現物助成」。3つ目は、子ども文庫を20年以上運営し、子どもの読書啓発活動に貢献されてきた個人に賞状と副賞(30万円及び記念品)を贈る「子ども文庫功労賞」。
功労賞を受賞した野々瀬協子さんが文庫活動を始めたきっかけは、戦時中の体験があった。国民の生活は極度に窮迫し、子どもの本は出版されなくなり、手にするのは大人向けの本だけ。「子どもの本に飢えていた」と振り返る。
子どもの本に再び出合ったのは、長男が生まれてから。書店で手にした絵本の素晴らしさに夢中になった。転居してきた千葉市には、周囲に書店や図書館がなく、移動図書館車も来ない。
子どもたちに良い本をふんだんに読ませたいと願い、1976年、石井桃子著『子どもの図書館』に触発され、団地の自治会の中にファミール文庫を立ち上げ現在に至っている。今では、子どもだけでなく、親の居場所にもなっているという。
■「日常を取り戻したい」熊本で継続
「子どもたちの日常生活を取り戻したかった」――。こう話すのは、熊本県阿蘇郡で家庭文庫「絵本館木いちご」を運営する後藤良子さん。後藤さんは保育士として働くなかで、言葉が子どもの人格形成に大きく影響すると感じ、2008年に文庫活動を始めた。
第1・3の水曜日の夕方と第2・4土曜日の午前に開いてきた。主に0~2歳の親子連れや小学生、中学生が集まるという。
後藤さんは昨年4月に起きた熊本地震での被害は遭わなかったが、隣町では、道路や鉄道が土砂で寸断され、水やガス、電気が止まるほどの被害を受けたという。
震災後、後藤さんは、子どもたちが日常生活を取り戻すことが大切だと考え、休むことなく、いつも通り文庫を開いてきた。絵本を親子で読んで、温かい時間を過ごしてもらうことが私の役目だと思って活動を続けたと言う。
小林栄三理事長は、「世の中の永続的な発展には、先人たちの見識を継承することが必要だが、その一つが子ども向けに本を読み聞かせること」とし、平和の基礎を築くために文庫活動の貢献は「ものすごく重要」と話した。
また、功労賞の受賞者が資金に余裕がなく、自宅を解放して子ども文庫を始めるなど身銭を切ってまで文庫活動を続けてきた話を聞き、「感銘を受けた」と言い、「文庫で地域にコミュニティーができ、相手を思いやる気持ちを育んでいる。これが、共存の発展につながる」と話した。
平成29年度の子ども文庫助成は4月から募集を開始する。
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