東日本大震災からもうすぐ6年が経過する。復興公営住宅の建設や沿岸部で高台への住居移転が進むなか、時間の経過とともに複雑化しているのが被災者の「心」の問題だ。福島県の相馬・双葉地区で住民の心のケアを続けている、「相馬広域こころのケアセンターなごみ」(以下なごみ)センター長で精神科認定看護師の米倉一磨さん(43)に話を聞いた。(文・写真:横浜支局=細川 高頌・横浜国立大学教育人間科学部4年)
なごみは、NPO法人「相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会」の事業の一つとして運営されている。同団体は、東日本大震災と福島第一原発事故の影響で相双地域の精神科医療施設が閉鎖や移転を余儀なくされたことを危惧し、地元住民の心の健康を守るため2011年11月に設立された。
原発事故以降、福島県では、避難指示の解除が徐々に進められてきた。今年の3月31日と4月1日には、浪江町、飯館村、富岡町の帰宅困難区域を除く全域と、川俣町山木屋地区の避難指示が新たに解除される。
しかし、古里への帰還や復興公営住宅への移転は、避難先の仮設住宅で形成されつつあったコミュニティーからまた移動しなければならないことを意味する。また、帰還者の半数以上を高齢者が占める地域では、経済活動の低下による不安などがストレスの原因となる。「今後、コミュニティーの移行が進むと、さらにストレスを抱える人が増え、症状が顕在化することが予想される」と米倉さんは指摘する。
被災者を支援している「ふくしま心のケアセンター」によると、平成24年から26年までの間に約2万人からの相談があり、その多くが精神的に不安定な状態から身体に異常をきたす「身体症状」や、一時的なイライラ感など「気分・情動に関する症状」を訴えているという。
震災と原発事故により仕事を失った被災者の中には、アルコール依存症になってしまう人や、避難をきっかけに飲酒を再開してしまうアルコール依存者もいる「誰もが社会の中で自分の役割を求めている。震災と原発事故によってそれまで担っていた社会での役割を失った人の中には、アルコールに走ってしまうケースもある」と米倉さん。
ストレスを抱えるのは住民だけではない。なごみには、行政の職員や地元の消防隊員などからも相談が寄せられる。福島県立医大などのグループが行った調査では、福島県内の避難区域となった自治体で、職員100人のうち15%がうつ病と診断されたという結果も出ている。米倉さんは「震災後は、精神医療へのニーズが急激に大きくなる。しかし現状では、職員の数も予算も足りていない」と懸念する。
震災と原発事故のストレスがすべての精神疾患の原因になっているわけではない。精神疾患の中にも、不安障害やうつ病、アルコール依存症など、時代や社会的背景に影響を受けやすい疾患と、受けにくい疾患がある。
それでも、移住先での環境の変化や家族の分断などでストレスを抱える人もいる。その中には、ストレスが原因で症状が出てくるものもある。心のケアのための一部の事業費は年々減っており、ケアを必要としている被災者へ十分な対策が取れるのか、懸念されている。
米倉さんは「自分の不安を表現できない人がストレスを貯めやすい。ストレスを感じたらすぐに相談できるような場所が提供できるよう、他団体とも連携しながら活動を続けていきたい」と話す。
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