認定NPO法人ACE(エース、東京・台東)で「ピース・インド プロジェクト」を担当している田柳優子さんは、インドの子どもたちが児童労働から抜け出し、教育を受けられるようになることを目指し活動しています。この度、コットン生産地で働く子どもたちが学校に通えるよう、母親が安定した収入を得るための少額融資や貯蓄トレーニングに必要な活動費などをクラウドファンディングで集めています。現地での活動の様子や、活動に対する思いを聞きました。(聞き手・READYFOR支局=榎本 未希・オルタナS支局スタッフ)

認定NPO法人ACE 子ども支援事業インド担当の田柳優子さん

――田柳さんが児童労働の問題に興味を持ち、現在の活動を始めたきっかけを教えてください。

田柳:大学生の時に、インドで様々な背景を持つ子どもたちと出会い、疑問を抱いたことがきっかけです。長期休みにインドのNGOのインターンとして2か月間、西インドのVadodaraにあるストリートチルドレンを保護する施設でボランティア活動をしました。

子どもたちの生活面の手伝いをしたり、学校に行っていなく昼間も施設に留まる子どもに簡単な英語や算数を教えたり、イベントを企画したりしていました。

施設には、物乞いをして生活していた子ども、親に問題があり家族と一緒に過ごせない子ども、それから働いていた子どもなど色々な事情を抱える子どもたちが入居し、生活していました。

当時の私は安全な住居に住んでそこから学校に通えれば、彼らの問題は解決すると思っていました。でも、違ったんです。生活に馴染み施設から学校に通うようになる子どももいましたが、中には施設から脱走して路上生活に戻ってしまう子どももいました。

その中の1人の男の子は、保護されて間もなく姿を消し、心配していたところ大きな怪我をして再び保護されてきました。シンナーを吸っていて交通事故に巻き込まれたそうです。

自分とコミュニケーションをとっている時は楽しそうにしてくれる子どもたちだったんですが、その裏側にある子どもたちの抱えているものを解決できないことに「私は、こんなにも何もできないのか」という無力さを感じました。

施設は、駅付近に寺小屋のようなものを置き、ストリートチルドレンに対して空き時間に訪れるよう呼びかけていた別のNGOと連携を取っていたので、あとから考えると脱走した子どもの状況を把握しながら、子どもの自主性を尊重してゆっくりと働きかけを行っていたのだと思います。

でもその時の私は、子どもたちの問題へどう対応することが正解かわからず、もやもやしていました。完全に子どもが働くことをやめるのは無理なのではないか、とも当時は思っていました。

学生時代の国際協力の場で出会った子どもたちが、現在も忘れられないと語る田柳さん

日本に帰国し、インドの子どものことをもっと知りたいと思いインドへのスタディーツアーを探したところACEと出会いました。

その時に訪れた施設は、2014年にノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティさんが創設したNGO団体が運営するリハビリ施設でした。そこでは児童労働から助け出された子どもたちが生活していました。

この施設では学校への就学の支援の他に、心理的なケアを行うカウンセリングや将来の自立のための職業訓練も行っていました。「ただ学校に通わせようとする」のではなく、子どもたち1人ひとりの状況に合わせて働きかけをしていると感じられる施設でした。

このスタディーツアーで児童労働の問題をさらに知り、その後ACEの活動にボランティアやイベントで関わりました。大学卒業後は関係のない企業に就職したのですが、やっぱり途上国の子どもたちのことが気になる!と思い転職してACEのスタッフになりました。それが、私がACEに入って活動を始めたきっかけです。

――Readyforのプロジェクトページを見ると、現地の方との信頼関係があり、現地の方に寄り添いながら活動している様子が伝わってきます。現地の方と信頼関係を作りながら、どのように活動していますか。

田柳:前提として、私は2015年にACEスタッフになり、2010年から行っているこのプロジェクトには途中から関わるようになりました。今までインド現地スタッフや他のACE担当者が村の方たちとの信頼関係を築いてくれたのが大きいです。

インドは世界第一位のコットン生産国で、私たちの支援地はコットンの生産が盛んな地域です。コットン栽培には農薬や殺虫剤がたくさん使用されるのですが、そんなコットン畑で子どもが学校に行かず雇われています。

児童労働のない村を村の人々と一緒につくっていくために、「児童労働があることが当たり前」という認識を変えるよう、家や畑の訪問、集会などを通じて村の人々との話し合いを持っています。

他には、公立学校に通えるようになるための補習学校の運営や、学校へ通うことができなかった女の子に基礎教育と仕立て屋になるための技術を教えるセンターの運営、親への収入向上支援を行っています。

村で家庭訪問をするときは、訪問先の方は仕事を中断させて時間を取ってくれるので、相手には必ず時間を取ってもらっていることのお礼を伝えることから話をし始めます。それから、なるべく世間話のような内容から話を自然にその日話したいことに移すようにしています。

人と会話をする上で当たり前のことではあるんですが、限られた時間で聞きたいことや伝えたいことがあると、意外と難しいんです。また当然ですが、村のことや家庭のことは村の人たちの方が知っているので、「知らないから教えてほしい」という姿勢で話を聞くように心がけています。

村の方たちが話す言語は支援地があるテランガナ州の公用語のテルグ語なので、現地スタッフに英語に訳してもらい会話をしています。根気強く通訳で付き合ってくれる現地スタッフにも感謝しながら活動しています。

支援地域のお母さんたちとの一枚

――現地のインド人スタッフと協力しながら活動を進めているのですね。家庭訪問ではどのような話をするのですか。

田柳:家族の仕事や就学状況を聞いたり、子どもには働かずに勉強したり遊んだりすることが必要だ、ということを伝えようとしています。

初めて活動地に行った時、働く子どもの家族と話していて「じゃあこの子が学校に行って働かなくなったら、働いていた分のお金はどうするの」と聞かれました。よく聞かれる質問ですが、その時は言葉に詰まってしまい、なんと返したら良いのか分かりませんでした。

今も正解はわかりません。そもそも家庭の支出や収入を把握できていないこともあるので一緒に考えたり、農薬の影響で体調を崩している子どもの家族には金銭的なものには代えられない命に関わる問題だということを訴えたりします。

でも言葉以上に効果があるのが、子どもたちの変化だと感じています。働いていた子どもが学校に行くようになると、それまでうつむき加減だった表情が明るくなったり、人の目を見て会話できるようになったり、身なりに気を付けて髪をとかすようになったり。

目に見えて変化が起きるんです。子どものそんな変化を見て、おとな達は子どもが勉強したり遊んだりできるようになることの大切さを感じるようです。

おとなは自分の子どもに辛い思いをさせたいわけではありません。自分の子どもに変化が起きれば他の兄弟も学校に通わせてみようかと考えたり、近所の子どもに変化が起きれば自分の子どもも通わせてみようか、と考えるようになります。

子どもが労働をやめることによる変化を実感ができると、「自分がどのように働けば、行動すれば、子どもが学校に通い続けることができるか」と考えるようになるようです。これが今現地では広がっています。

支援している村で家庭訪問を行う田柳さん

――そうなのですね。活動を進めていくときにどんなことが大変でしたか。

田柳:一人ひとりの状況に合わせるのが大変だと感じます。「児童労働をしている子ども」といっても1人ひとり状況は異なり、支援方法は異なります。子どもだけでなく、家族の状況も様々で、母親への収入向上支援も、本人の希望、経験や新しく始める仕事を継続できるのかを確認して見極めて支援する必要があります。

時間をかけて対応したい一方、時間にも限りがあります。私たちが同じ村で活動をするのは4~5年とプロジェクト期間を区切っていますし、何より子どもはどんどん成長するので学校に行ける年齢のうちに労働から抜け出せるようにしなくては、という焦りもあります。

学校に行けないまま義務教育年齢を過ぎてしまった兄や姉が、自分の弟や妹が教育を受けられるようになって喜んでいる姿を見ると、嬉しい半面、複雑な気持ちになります。

でも、そういったことを経験したお兄さんやお姉さんは自分の子どもを働かせず学校に通わせる可能性が高いと思われるので、そんな将来に期待をしています。

――ありがとうございました。インドの子どもたちが労働から抜け出し、学校に通い、そのまた子どもたちは、学校に行くのが当たり前になるといいですね。最後にクラウドファンディングへの意気込みをお願いします。

田柳:今、私が児童労働の問題に取り組んでいるのは、インドへ行く機会があり子どもが働いている現状を現地で見たからですが、そうでなければこんなに関心を持てていたかわかりません。

なので全ての方に、いつでも児童労働の問題のことを考えて生活してほしいとは言えません。ですが、自分の身の回りのあらゆる物が児童労働に関わっているかもしれない、ということは知っていただきたいです。

今回支援をお願いしているプロジェクトに関わるインドのコットンも、もう1つのACEの活動地であるガーナで作られたカカオも製品となり確実に日本に入ってきている物ですが、子どもたちの手によって作られたものかもしれません。遠い国だけの問題と思われがちな児童労働の問題ですが、日本で生活する私たちの消費行動とつながっているのです。

自分が買ったその服をたどるとどんな現状があるのか。たくさんの人にこのクラウドファンディングを通して児童労働の問題を知っていただき、買い物をする時にコットン製品の先にいる子どもたちのことを少し考えてくださる方が増えると嬉しいです。

ぜひ周りの方へSNSでのシェアなどで情報を広げてください。さらに、私たちの活動に共感して寄付してくださるとありがたいです。

5月31日までに400万円のご支援の達成を目指しています。一緒にインドの子どもとお母さんの笑顔をつくってください。ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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