「『作った人に直接会えたことがすごい』という声をよく聞きますが、作り手の顔が見える信頼関係でつながっていることが本来は当たり前であるべき」——こう話すのは、この春、フェアトレードファッションブランド「ピープルツリー」を運営するフェアトレードカンパニー(東京・世田谷)の母体NGO「グローバル・ヴィレッジ」の代表となった胤森(タネモリ)なお子さん。胤森さんはフェアトレード業界で働き17年が経過した。商品の先に顔が見えない盲目的な消費に警鐘を鳴らす。(聞き手・Readyfor支局=大竹 萌音・オルタナS支局スタッフ)

ピープルツリー自由が丘店でインタビューを受ける胤森なお子さん

——胤森さんがフェアトレード業界に入ったきっかけを教えてください。

胤森:20年くらい前に、一消費者としてフェアトレードのことを知ったことが始まりでした。当時、たまたま手にしたカタログがピープルツリーの母体であるグローバル・ヴィレッジのカタログで、物を買うことで支援に繋がるフェアトレードの仕組みに魅力を感じました。

それから、買い物をするだけではなくボランティアとしてイベントのお手伝いなどをしていたところ、ピープルツリーの中に新たなポジションが加わることとなり、人材募集をしているという話が耳に入りました。

当時、勤めていた会社が業界再編で人の移動が激しく、たまたまその先の自分のキャリアを考えるようになっていた時期でした。それまでは仕事とは別にプライベートで途上国支援やボランティアを行っていたものの、仕事として関われるのであればやってみよう!と思い、1998年末に方向転換してフェアトレードの業界に入りました。

——胤森さんがフェアトレードの業界で17年間続けてくることができた理由はありますか?

胤森:私がピープルツリーで仕事を始めた頃は、創設時のボランティア組織からフェアトレード事業を法人化して5年目で、ビジネスとしてやっていこう!という段階に入り始めていた時期でした。商品開発や広報に力を入れていたら、10年くらいで売上も人数も3倍に成長しました。

こうして「フェアトレードを単なるチャリティーではなく、ビジネスとして成功させるんだ」というマインドに変わっていく姿を一緒に追いかけ続けて、気付いたら17年経っていました。

また、共に仕事をする仲間やお客様を含め、フェアトレードに関わる人たちは、やり方や考え方が違う人がいながらも共通の想いを持っていることも続けてこられた理由です。

「貧しさに苦しむ人がいる現状はおかしい」「環境への影響を省みずに物が作られることはおかしい」といった疑問を同じように持っている仲間が、こうした状況を変えるためにそれぞれの場所で頑張っているということは励みになりました。

そして何よりも、現地の生産者さんが仕事に一生懸命取り組み、同じ目的に向かって進んでいるというのは、フェアトレードの仕事を続けていく上での原動力です。

インドのフェアトレード団体、クリエイティブ・ハンディクラフトの生産者さん

——この春よりピープルツリーのスタッフからグローバル・ヴィレッジの代表になったことで気持ちの面で変わったことはありますか?

胤森:ピープルツリーの胤森としてフェアトレードのお話をする時は、ピープルツリーの活動や商品を紹介することが中心になっていました。しかし、グローバル・ヴィレッジは元々ピープルツリーの母体として環境や人権問題について情報発信することから出発した組織だからこそ、フェアトレードそのものを伝えていくというミッションがあると思っています。

ピープルツリーはフェアトレード専門のブランドとしてよりよい商品を作り、売る。一方で、フェアじゃない実情をどうやって変えていくかということを多くの人に伝えて行動を促すのがグローバル・ヴィレッジの役目であり、その活動を強化していきたいです。

——この度、クラウドファンディングでフェアトレード生産者さんとバイヤーを繋げるために日本へ招待する資金を集めていますが、このプロジェクトの大切さを教えてください。

胤森:フェアトレードの会社の中にいると、生産者さんたちと繋がっているということが当たり前になっていました。

しかし、過去に生産者さんを日本にお呼びしてセミナーなどを行った際、参加者から「作った人に直接会えたことがすごい」という声をよく聞きました。そのときに、作っている人が誰だか分かり、信頼関係で繋がっているということが本来は当たり前であるべきなのに、みんながびっくりするようなことになっている状況に疑問を持ったんです。

残念ながら今の経済システムでは、利益や効率を最優先にした結果、「どこで、誰が、どんなふうにつくっているのか」が見えない状況になってしまっています。

当たり前であるべきことをもっと当たり前にするためには、もっと多くの人にこの状況を変えることに参加してもらわなければならないと思いました。

そこで、フェアトレードの生産者さんを大手企業のバイヤーが集まる展示会に招待することに決めました。生産者さんの顔が見える関係をもっと普通のビジネスに取り入れることで、生産者さんたちの仕事を増やすサポートにもなります。

——胤森さんがこれまで生産者さんの技術力や会社の成長を見てきた中で、最も印象に残るエピソードはありますか?

胤森:これまでピープルツリーがクオリティやデザイン性を上げるために多くの試みをしてきた中で「デザイナーズコラボレーション」という企画は最も印象深かったです。

2007年から始まったこの企画のきっかけは、ファッション誌『VOGUE JAPAN』の特集で、著名なデザイナー4組がデザインした服をピープルツリーの生産者がつくり、一流モデルが着るというアイディアでした。ピープルツリーの社内でも、凝ったデザインの服物を作ることに対して「本当にできるのか?」「商品を作ったところで売れるのだろうか?」といった疑問の声が上がるほど大きな挑戦でした

しかし、せっかく掴んだチャンスだからこそ、是非それを実現させよう!と社内にプロジェクトチームを作り、最終的には形にすることができました。

無事に形になった時には、プロジェクトチームのスタッフが「私たちの生産者さんがここまでできるとは思わなかった」と驚いたほどで、それまでのピープルツリーとはデザインの難しさが格段に高かったからこそ、本当に凄いことにチャレンジしたんだなと思いました。

これは、生産者さんもピープルツリー側も頑張ったからこそ実現できたことであり、心に残る出来事です。

雑誌「VOGUE JAPAN」2007年6月号に掲載されたデザイナーズコラボレーションのドレス

——最後に、クラウドファンディングへの意気込みをどうぞ。

胤森:「フェアトレードを当たり前にしたい」という想いを出発点として、作り手と買い手が繋がるフェアトレードをもっと身近に感じてもらえるようにフェアトレード生産者さんを日本に招待します。この活動に1人でも多くの人に参加してもらえたらと思います!応援よろしくお願いいたします。

胤森さんが挑戦するクラウドファンディングは、2017年5月31日23時までに90万円達成することを目指しています。ご支援よろしくお願いいたします。

プロジェクトページは下記をクリック

[showwhatsnew]

お知らせ オルタナSでは、社会問題の解決につながる活動を行う若者を応援しています。自薦・他薦は問いませんので、おすすめの若者がいましたらご連絡お待ちしております。記事化(オルタナS/ヤフーニュースほか)に加えて、ご相談の上、可能な範囲で活動の支援をさせていただきます。お問い合わせはこちらから

キーワードから記事を探すときはこちら