障害がある子どもへの読書支援を行う伊藤忠記念財団は、6月17日都立多摩図書館で読書バリアフリー研究会~みんなに読む喜びと楽しさを伝えよう~を開いた。特別支援教育を受ける子どもたちは年々増加しており、2015年5月の文部科学省調査では42万9657人。これは1994年の同省調査の13万1511人と比べると3倍以上になっている。この中には、紙の本では読書が難しい子どもたちも大勢含まれており、一人ひとりの障害の状況に合った読書スタイルの提供が求められている。この研究会は、様々な障害の特性と有効な支援方法を学び、これからの図書館のあり方を考える機会となることを目指している。(オルタナS編集長=池田 真隆)

講演した、野口教授。これからの図書館のあり方について話した

「すべての人が利用できる図書館になるには、ノーマライゼーションを実現することが必要である」――。野口武悟・専修大学文学部教授はこう主張する。ノーマライゼーションとは、だれもが平等に暮らすことができる社会への変革である。

図書館の現状を考えると、障害者だけではなく、高齢者や入院患者、地理的アクセスの困難な方など図書館を利用することに困難な人たちも大勢いる。図書館は施設などハード面のバリアフリー化に加え、柔軟なサービス提供や電子図書をはじめ録音図書、手話や布の絵本、多言語の資料収集など様々なソフト面の必要性を野口教授は訴えた。

河野俊寛・金沢星稜大学人間科学部教授は「読み書き障害」について講演した。読み書き障害は知的発達に遅れはないが、「読字」や「書字」に限り困難さがある状態である。読み書き障害は「ディスレクシア」ともいい、字の読み書きが全くできないわけではない。健常者の平均と比べると、正確さと流ちょうさに課題があり、誤字や誤読の多さや読み書き速度の遅さが学習を妨げる障害である。

「読み書き障害」と河野教授に判定された当事者は、「ずっと努力不足が原因で読み書きができないと自分を責めていました。障害だからやむを得なかったのですね」とほっとした表情を見せるという。

大切なのは読み書き能力を上げることではなく、自分に合った方法で情報を取り入れ、身に付けた知識を基に自分の考えを伝える能力を養うことだ。学校や図書館は学習に遅れが生じないように、早期から各自に合った特別な扱い(合理的配慮)をする必要がある、と強調した。

会場には、学校関係者や公共図書館関係者ら約120人が集まり満員になった

当日、会場には教職員や図書館員を中心に120人近い人が集まった。昨年4月に施行された障害者差別解消法により、公共団体は障害者への合理的配慮が義務化されたことを受け、関心が広がっている。伊藤忠記念財団が全国各地で開催する本研究会への参加者は、年々増加しているそうだ。

また、同財団では、障害によって読書が困難な子どもたちに向け、児童書を電子化し全国の特別支援学校や公共図書館などに配布している。「わいわい文庫」と名付けた電子図書は、パソコン上で肉声による音声訳と速度調整、文字の拡大、読み上げている文節の色表示など、個人の障害の状況に合わせて読書を楽しむことができる。

伊藤忠記念財団の矢部氏(写真右)。1974年の設立から読書支援を行ってきた

矢部剛・電子図書普及事業部長は「障害があるために読書をあきらめている子どもたちが大勢いる。公共図書館など子どもたちへ本を手渡す立場の人たちと力を合わせ、読書のバリアフリー化を進めていきたい」と話した。

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