伊藤忠商事は7月25日、小学生を対象にした「夏休み環境教室」を開いた。当日は、同社社員の子どもと港区内の小学生約100人が絶滅の危機に瀕しているアマゾンマナティーの生態系や温度と空気の関係性について学んだ。(オルタナS編集長=池田 真隆)
1992年から開催し、今年で26年目となる環境教室では、生物多様性と気候変動について子どもたちに教えた。生物多様性に関しては、アマゾン川に住むアマゾンマナティーの生態系について説明した。地球で唯一の草食性水生哺乳類であるマナティーの一種、アマゾンマナティーは、アマゾン川のシンボルともいえる動物。
過去、工業用途として乱獲されたことで、国際自然保護連合(IUCN)から絶滅危急種として指定されている。危急種の定義は絶滅危惧種の一歩手前で、絶滅の可能性が高い種に与えられる。
伊藤忠商事では2016年から環境保全の一環として、保護したアマゾンマナティーを野生へ復帰させる取り組みなどを支援している。ブラジルにある国立アマゾン研究所と京都大学野生動物研究センターが行う、保護したアマゾンマナティーをアマゾン川上流のプルス川に放流する活動に対して、同社は3年間で1500万円を拠出した。
当日のゲストとして、京都大学野生動物研究センターから菊池夢美氏が登壇した。菊池氏はアマゾンマナティーの研究を行う第一人者である。
菊池氏は、アマゾンマナティーが絶滅の危機に瀕している背景について、「乱獲や密猟がある」と説明した。1935年から1954年にかけて、約4000~7000頭が乱獲された。アマゾンマナティーの皮膚は硬く、工業用製品として需要があったからだ。絶滅危急種として指定された後も、食用として密猟されることは続いているという。
菊池氏は、アマゾンマナティーの保全は遅れていると明かす。その理由は、アマゾン川特有の濁り。「肩まで腕を入れると、目視することはできない」(菊池氏)。
そのため、川の中に入らないとアマゾンマナティーを見つけることが困難で、「何頭生息しているのかも正確には分からない」と言う。さらに、保護した後に放流しても、追跡調査をしていないことが多く、無事に野生復帰できているかは不明だ。
同研究所では、放流後の動きも追跡するため、尾ビレと背中に「データロガー」と呼ばれる装置を付けている。これによって位置が把握でき、行動範囲や就寝時間などの行動パターンをデータ化することも可能になった。
絶滅の可能性が高いアマゾンマナティーを保全していくために、「まずはアマゾンマナティーの状況を理解すること、そしてどうしたらいいのか考えたことを周囲に伝えていくことが大事」と子どもたちに伝えた。
続いて登壇したのは、日本で唯一アマゾンマナティーを飼育している動植物園「熱川バナナワニ園」(静岡県)の神山浩子・専務取締役と神田康次・企画・展示担当 係長。同園では、アマゾンマナティーの「じゅんとくん」を48年間飼育している。
名前は今年に入ってから一般公募した。アマゾンマナティー生息国であるブラジルの共用語のポルトガル語で「一緒」という意味のじゅんとに決めた。現在、じゅんとくんは54歳で、体長は240センチ、体重は300キロ。
1日にニンジンやキャベツ、レタスなどの野菜を3回に分けて食べる。夏季限定で、水草のホテアオイも食べている。1日の量は12キロに及び、1回の食事に2時間かけるという。
毎週1回は水槽の水を抜いて、床やガラス、壁を掃除する。このときに、じゅんとくんにも垢すりを行っている。
同園には、50種約700の動物と約5000種類の熱帯植物がある。今年9月でオープンから59年を迎えるが、「珍しいものを見ていただきたいという一心で初代園長が集めた動植物を展示しているが、近年は絶滅の心配がある種類も多く、そのような状況についても考えるきっかけになって欲しいと思いながら経営をしている」と神山氏は話す。
じゅんとくんにエサやりすることもでき、そのときには、来場者にアマゾンマナティーの保全の重要性についても伝えている。
ゲストの講義後には、アマゾンマナティーの小型模型を流木に置き、背景を色鉛筆で描くワークショップを行った他、第二部では、液体窒素を使って南極の世界や温度変化の現象を身近に体験し、子どもたちは楽しみながら生物多様性や世界の気候について学ぶ盛りだくさんの一日となった。
伊藤忠商事では隣接する伊藤忠青山アートスクエアで、9月8日から10月31日までナショナル ジオグラフィックのプロカメラマンにより撮影されたアマゾンの写真展を開催する。(入場無料)同社は「ぜひたくさんの人に訪れて頂き、アマゾンの自然環境やマナティーの生態・保全に興味を持つきっかけにしてほしい」と話す。
[showwhatsnew]*キーワードから記事を探すときはこちら