昨今、研究データを一般公開することで学術研究を発展させる「オープンサイエンス」が国際的な発展を見せている。これからの日本の環境化学分野の発展に向けて、どのように「オープンサイエンス」に取り組むべきか? このほど、ゲストに、第一線で活躍している研究者を迎え、今後の具体的なオープンサイエンスの取り組みについて議論を行う討論会が開かれた。(松尾 沙織)

主催者は一般社団法人日本環境化学会。同団体は、1990年に設立され、現在では個人会員約850名、賛助会員60法人からなる。学会は、環境と化学物質との関わりについての情報交換と普及および学問、技術の進歩発展を目的に、機関誌の発行、環境化学に関連した諸問題についての講演会や、研究者の発表の場である討論会を開催している。

静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップで開かれた

今回の討論会では、大気、水質、土壌、生物、廃棄物、食品、生活用品などの分野で、動態、分析、反応、物性、毒性、衛生、情報、観測などの観点から、化学物質による汚染や環境計測・保全・改善等に関する研究成果の発表を行った。

そもそもオープンサイエンスとは、内閣府が出した資料によれば、「公的研究資金を用いた研究成果について、学界はもとより産業界および社会一般から広く容易なアクセス・利用を可能にし、知の創出に新たな道を開くとともに、効果的に科学技術研究を推進することで、イノベーションの創出につなげることを目指した、新しいサイエンスの進め方」と定義されている。

■世界でも盛り上がりを見せるオープンサイエンス

最近では、研究データをある分野だけに留めず、公共財産として扱おうという動きが、世界各地でも見受けられるようになってきた。2008年の国際科学会議(International Council for Science: ICSU)World Data System事業の創設から始まり、EUがオープンサイエンスガイドライン「Horizon2020」を発表、2015年にはOECDが加盟国に対し、オープンサイエンスに関する調査を実施、成果と各国の取り組みを発表する等、様々な取り組みが始まっている。

さらに、ICSU が主導する持続可能な地球社会の実現を目指す、国際協働プラットフォーム「Future Earth」という研究の枠組みでは、様々な立場のステークホルダーが参加し、地球環境保全のプロジェクトに関わることができる体制もつくられた。

日本では、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から発表された「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関する基本方針」に、「研究データのうち、エビデンスデータ(学術的証拠となる)は公開することを推奨する」と明記されており、国としてもオープンサイエンスを推進していく意向だ。

集会では、外部から招いた3人の登壇者が、オープンサイエンスに対するそれぞれの視点でプレゼンをし、最後に参加者を交えたディスカッションが行われた。

一人目の登壇者として、持続可能な社会についての記事を扱うフリーライターである筆者が、オープンサイエンスの可能性や、市民が必要とするデータ、その使途について説明した。

登壇した筆者

オープンサイエンスが促進されることのメリットは、一つに関連研究が加速し、余計な研究費用や時間を節約することができる点だと言われている。そうすれば、より早く効果的な結果を出すことができ、余剰予算によって、次の研究に取り組みやすい。

二つ目に、データの一般的な開示により、多角的な視点からの意見や知識が集積されることで、そこから思ってもみない革新的なアイディアが生まれやすくなり、多くのイノベーションに繋がる点がある。また、市民の化学物質による環境汚染についての認知が広がり、興味を育てることもできるだろう。それは、新たな事業を増やすことや研究者の育成にも貢献する。

また最近では、学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」などで資金調達をする研究者も出てきており、今後資金調達がしやすい土壌をつくることにも貢献するのではないか。これは研究者にとっても良いことだと言える。

この続きは⇒市民はどういったデータを求めているか?

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