千葉県館山市にはこれまで延べ400人の移住支援を行ったNPOが存在する。その名も「おせっ会」。彼らはその名の通り移住を考える人々への窓口としてさまざまなお節介を行っている。今回、理事長である八代健正さんに話を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=内田 夏帆・社会学部メディア社会学科4年)

NPO法人おせっ会理事長の八代健正さん。八代さんにとっての館山の魅力は海だと語ってくれた。仕事の前にサーフィンをすることもあるという

NPO法人おせっ会の設立のきっかけは、館山の商工会議所青年部50周年の節目にあたる10年前にさかのぼる。青年部が設立し、半世紀を迎えたことを機に、館山の今後について話し合った。

館山出身の音楽家のYOSHIKI氏を呼ぶなど記念イベントを行って盛り上げようといった案も出たが、一時の話題性ではなく、次の50年を考えることが重要との結論にいたった。

高齢化・人口減に備えるために、リタイアした団塊の世代向けの移住促進に目を付けた。

しかし、その取り組みを開始して2年間は、「全く手ごたえを得られなかった」と明かす。「館山自体の知名度もそうだが、移住という側面からは全く意識されていなかった」と八代さんは話す。

■退職世代から「子育て世代」に照準

転機は初めての移住者を迎え入れたことで起きた。もともと、移住者のターゲットは退職した世代を考えていたが、そうではなく、「子育て世代」のほうがニーズに合っているのではないかと考えた。事実、初めての移住者も「子育て世代」だった。

館山はその立地柄、ほかの人気な移住地域と比べて、都市機能が充実している。働き口もある。東京にも近い。これらが若者への移住に対するハードルを下げたのではないかと八千さんは語る。

「ぼくたちがお節介を焼くべきは、子育て世代や、これから結婚して子どもを育てていく世代だと思った。そうすることで、まちづくりにつながるはず」

館山のきれいな海。海岸にはサーファーが多く集う

おせっ会は今年に入りすでに2000件以上の移住相談を受けている。その中で特に気にかけていることは、移住してきた人が幸せになれるかという点である。

移住希望者と話し、幸せになれない気配を感じると正直に、移住を勧めないケースもある。特に、移住相談の多い子育て世代は、そもそも移住することへの「リスク」が大きい。

そこで、安易な言葉をかけることは簡単だが、慎重に対応することを心がけている。

八代さんは館山の移住地としての魅力について、「それぞれの理想のライフスタイルが実現できる場所」と言う。館山の「田舎すぎない」部分がゆえに、商売を始めることも可能だし、隠遁生活も、仕事後に運動を楽しむ生活もできる。

おせっ会では市と契約し、移住相談窓口に専門のスタッフを3人配置し、週に6日相談を受け付けている。「安房コン」というイベント(街コン)も開催したり、。空き家の活用も手掛けており、「移住」への支援を様々な切り口から行っている。

館山の次の50年を見据えて始めた「おせっ会」、今後どのように進んでいくのだろうか。最後に八代さんに聞いてみた。

「3点ある。一つは、やはり収益化。二つ目はこの街、移住者、地域の住人関わらず、みんなが幸せだと思えるまちづくりを移住促進の視点からやっていくこと。三つ目は、良い意味で活動の整理をすること。『移住』というざっくりとした切り口でスタートしてしまったからこそ、いろいろなものが入ってきてしまった。今後、実効性のあるやり方に整理する必要があると感じている」

移住相談者に対して、ただ魅力をアピールし誘致するのではなく、館山という地でそれぞれが魅力を発見できるよう、また、自身の理想のライフスタイルが実現できるよう、お節介を焼く、そんな頼もしい存在が館山にはあった。



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