日本財団は10月30日、アスリートによる社会貢献活動を推進する取り組みを始めた。サッカー界からは中田英寿氏、野球界からは松井秀喜氏、柔道界からは井上康生氏がアンバサダーとして参画。「社会とつながるスポーツマンシップ」を啓発していくと宣言するが、一体どういうことか。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「スポーツは勝ち負けだけを競い合うものではなく、人と人、国と国をつなげる力がある」――。男子柔道 全日本監督の井上康生氏はアンバサダー代表として記者会見場で語句を強めた。後ろには、中田英寿氏やバドミントンの池田信太郎氏、バレーボールの大林素子氏、モータースポーツの佐藤琢磨氏、バスケットボールの田臥勇太氏ら各競技を代表する豪華なアスリートが並ぶ。
2000年シドニーオリンピックの男子柔道100キロ級の金メダリストは、現役時代に日本柔道を牽引しながら、社会貢献活動にも積極的だった。
2003年から全国で子ども向けの柔道教室を開き、2010年には恩師・山下泰裕氏とイスラエルとパレスチナでの合同柔道教室を実施した。新潟県中越沖地震や東日本大震災では募金活動も行った。
大会で獲得したメダルの数だけでなく、これらの社会貢献活動でつながった人との縁などを含めて、「柔道で多くの人から支援を受けて人生の成功体験ができた。生きる力を見出せた」と述べた。
この取り組みの名称は、「HEROs Sportsmanship for the future(以下HEROs)」。社会貢献活動を行うアスリートが結集し、協力して活動を行っていく。
HEROsのアンバサダーは先に挙げた選手以外にも、ボクシングの村田諒太氏、水泳の荻原智子氏、ボートレースの長嶋万記氏、そして、パラアイスホッケーの上原大祐氏やパラ水泳の河合純一氏らが揃う。全員、社会貢献活動を積極的に行うアスリートである。
HEROsの活動は3種類。一つは、若手アスリートへの啓発。社会とつながるスポーツマンシップについて伝える。二つ目は、社会貢献活動を行うアスリートと団体とのマッチング。そして、社会のためにスポーツマンシップを発揮した選手やチームを表彰するアワード。
記念すべき第一回目の「HEROs AWARD」は12月11日、グランドハイアット東京で開かれる。審査委員は、松井一晃・Sports Graphic Number編集長や間野義之・早稲田大学スポーツ科学学術院教授、タレントの香取慎吾らが務める。
この取り組みを発案したのは中田氏。世界各国のチャリティーマッチに出場し、自身で財団法人を立ち上げマラリア予防などの活動を行ってきた。「個々で取り組むのではなく、一緒になって楽しく盛り上げていきたい」と日本財団へ提案した。社会貢献活動を行うアスリートへの好感は高く、人や地域をつなげる力があるスポーツには社会問題を解決するポテンシャルを十分見込めるが、課題はその活動への認知度にある。
日本財団が実施したインターネット調査では、10代以上の男女1000人に「知っているスポーツの社会貢献活動」を聞いたところ、67.3%が「特に知らない」だった。最も認知度が高かったのは、野球(25.0%)、次いでサッカー(22.4%)だった。
中田氏は海外でプレーした経験から、「ぼくも知らなかったが、チャリティーマッチを開いていたという選手は実は多い。海外では選手が社会貢献活動をすることは当たり前になっている」と話す。この意見に、海外でのプレー経験を持つ田臥氏や川澄奈穂美氏(女子サッカー)は口を揃えた。
例えば、米国の4大スポーツ(野球、アメフト、バスケットボール、アイスホッケー)はどのチームも社会貢献に熱心だ。MLBのデトロイトタイガースは障がいを持つ子ども向けの野球教室を開いているが、驚くのは「試合当日」にも開いていることだ。
日本でもプロ選手による野球教室はあるが、試合当日に開催されたことはないだろう。しかし、同チームでは、社会貢献活動の専門職員を配置し、試合開始前でさえ、子どもや地域住民と触れ合う時間を持てるように調整している。
子ども一人がファンになることで、2から3人の動員につながるともいわれており、ファンづくりの戦略として、こうした活動を行う。もちろん、こうした活動ができるベースには、「社会とつながるスポーツマンシップ」を個々の選手が持っているからに違いない。
井上氏が述べた「勝ち負け」ではなく、「つなげる」力をどうアスリートに伝えていくのか。そして、HEROsはスポーツで日本社会をどう変えていくのか、今後の取り組みに注目だ。
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