いまの時代、企業が寄付をする意義は何か。ソーシャルビジネスやCSVなど、社会問題を解決するためには寄付ではなく事業として取り組む選択肢もある。寄付の啓発活動に積極的な小宮山宏・三菱総合研究所理事長は、「公共を担うために寄付しかない」と言い切る。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「大学が潰れる危機に瀕している。オーケストラだってなくなってしまうかもしれない。研究や芸術は企業活動や社会を豊かにするために必須。財政赤字を抱え、将来世代のお金を使っている今の日本で公共を支えるには、民間の寄付がカギだ」――。小宮山理事長はそう述べた。
ソーシャルビジネスやCSVで社会に貢献することは、「企業の生き残りをかけた戦略の一つ」とし、学問や芸術、文化などを支える「寄付」とは役割が異なると指摘した。「ビジネス的な視点で見るとそれらは必要ないかもしれないが、このままでは社会の暮らしを豊かにしてきた伝統が途絶えてしまう」と危機感を示した。
日本の寄付額は約1.5兆円で、米国や英国と大きく離されている。日本ファンドレイジング協会の調査では2016年の個人寄付額は、日本は7756億円で米国は30兆6664億円、英国は1兆5035億円となった。
個人寄付額の名目GDPに占める割合(2014年)は、日本は0.12で米国は1.44、英国は0.54、韓国は0.50。寄付文化を醸成していくためには、「税金と違い、寄付は自分が応援したいところに出せる。成熟した社会になっていく上では不可欠なこと。寄付を文化にするには最低10年は掛かると思うが、啓発し続けていきたい」と述べた。
小宮山理事長は、12月の1カ月間で寄付を啓発する「寄付月間」の推進委員長を務める。今年は3年目で、賛同パートナーとして全国から500の企業・団体が集まった。12月だけで、100以上の寄付啓発イベントが開かれる。
■小学生もイベントを企画
ビルごと社会貢献を行うのは、トヨタ財団。同財団は12月1日、入居している新宿三井ビルディングで、書き損じはがきや書籍、DVDなどを回収し、買取金額と同額をマッチング寄付する。その他、小学生による子ども向けの寄付啓発イベントや昨年5000句が集まった寄付川柳を今年も実施する。各自治体・企業などの「ゆるキャラ」が公式認定マスコットとなりキャンペーンを盛り上げる。
寄付月間推進委員会事務局長の鵜尾雅隆・日本ファンドレイジング協会代表理事は、「寄付を根付かせて、新しいチャレンジがしやすい社会にしたい」と話す。ここでいう「新しいチャレンジ」とは、前例がない社会貢献活動のことを指す。前例が事業は、行政からの支援を受けられにくい。
例えば、渋谷区とNPOなどが協働して、貧困家庭の子どもへ学習クーポンを配布する取り組みやがん患者と支援者の相談センターを東京に建設する活動などがそうだ。どちらも、クラウドファンディングで資金を民間から集めた。
鵜尾事務局長は、このような成功事例は一部であり、同じ趣旨の活動をしたが資金がなく諦めざるを得ない結果になったケースは多くあるという。寄付文化を醸成することで、今までになかった社会貢献活動を世の中に増やしたいと強調した。
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