気候変動問題に取り組む国際環境NGO350.orgの日本支部である350 Japanはこのほど、Creators District 神保町で「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンのローンチイベントを開いた。ダイベストメントとは、個人でもできる気候変動対策。地球温暖化を悪化させる石炭や石油関連企業へ投資する銀行ではなく、地球に優しい銀行を選ぶことを推奨している。この動きは世界76カ国800団体に広がっている。(松尾 沙織)

350 Japanが展開する「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンは、一人でもできる身近な気候変動対策の活動として「ダイベストメント」を提案している。これは「インベストメント ( 投資 )」 の反対語で、資金を引き揚げること。

地球温暖化を悪化させる石炭・石油・ガスを含む化石燃料に依存する企業や、リスクの高い原発関連企業へと投資する銀行の口座から預金を引き揚げ、持続可能な社会の実現に取り組む企業へと投資する銀行へとお金を移すことで、自然エネルギー社会への移行に貢献できる。

市民一人ひとりがダイベストメントを行い、発信することで、企業や社会に向けて地球に優しいお金の流れへと意識を向けるよう働きかけるものだ。

「パリ協定」が採択されてから2周年記念の12月12日を最終日と位置づけ、11月6日からキャンペーンを開始し、100人と5団体のダイベストメントを目指して都内近郊にある、複数の場所でイベントを開催するとともに、実際にダイベストメントをした人のパーソナルストーリーを発信する。

そのキャンペーンの始まりを飾るのが今回のイベントだ。報道陣を対象とした記者会見を行ったあと、第一部で東京大学生産技術研究所名誉教授の山本良一氏とWWFジャパン気候変動・エネルギーグループ・プロジェクトリーダーである池原庸介氏をゲスト講師として招き、主催団体代表古野真氏の3名が気候変動問題についてプレゼンを行った。

350 Japanのボランティア2名が、それぞれの「ダイベストメント」体験を語り、第二部では、登壇者を含め参加者全員での懇親会が行われ、ヴィーガン対応のケータリングを片手に親睦を深めた。

第一部で「気候変動の今」に関する特別講演を行った山本良一教授は、「クライメイトエマージェンシー=気候危機」を提唱し、10年以上気候変動問題に取り組んできた。

アメリカとフランスの科学アカデミーで発表された報告書でも、人為的ガスが温暖化の原因になっていると断定している。10月に発行された日経新聞では、日本を「気候変動後進国」と定義していた。同誌によれば、GDPあたりのCO2排出量において、アメリカや中国は減らしてきているのに対し、日本は横ばい。1995年においてOECD加盟国中2位であったものが、2014年には18位にまで下がってしまった。これについて山本教授は、円高による資源価格の安定や国内の省エネ投資が後回しになったことを原因として挙げた。

欧米においては、経済成長を続けながらも着実にCO2を削減している。山本教授は、このような環境保護と経済成長を両立させる経済構造を築けないでいる日本の現状に対し、リーダーの認識が低すぎると警告する。

IPCC報告書によれば、現在1日あたり世界で9,500万トンのCO2排出量があるとわかっていて、これらのCO2の一部は数万年大気中に残留するという。世界気象機関(WMO)は、2016年に世界の平均気温は観測史上最高であり、産業化前と比較して1.1℃上昇した伝えた。NASA、NOAAの独立した解析でも、2016年の世界平均気温は過去最高を記録し、温度上昇のほとんどは過去35年間に起きたことが明らかになっている。

インドでは干ばつが深刻化、3億3000万人に影響を及ぼした

世界の気温上昇に伴い起こりうる海面上昇の予想図

その影響で、初めて南北両半球で海氷面積が激減。夏の北極海氷はこの30年間で40%も減少し、SWIPA Report 2017 では、夏の北極海氷は2040年までに消滅するとも言われている。

アメリカでも今年8月に起きた「ハリケーンハービー」が記憶に新しい。この災害による経済的損失は、最大21兆円になり、2005年のハリケーン・カトリーナの18兆円を上回った。(日本経済新聞 2017.9.4朝刊)

直近の被害状況(教授作成資料より)

「世界ではすでに覚悟を決めて動き出しています。我々も0カーボンを目指さざるをえません。しかし、毎日化石燃料に頼って生活している私たちは、犯罪を犯している意識や自覚がないままです。清水の舞台から飛び降りる覚悟でなければいけないのに、日本はまだ態勢が進んでいないことが問題です。環境大臣は、“非常事態にいる”と言っています。社会制度を変える、ライフスタイルを変える、技術革新を行う、これらを同時にやらなければいけない。ダイベストメントは、特効薬ではありません。しかし、明確に社会にしらしめるプレッシャーにはなると思いますし、政治的な力があると期待しています」と教授は締めくくった。

次はWWF 池原庸介氏による「産業界での環境施策の現状とWWFが取り組む新しい指標」についての解説が行われた。

池原氏は、今後「炭素を排出することが良くないこと」という考えが、経済活動においての“前提”になっていくと語る。それに伴いWWF Japanでは、今後企業に求められるものとして「長期的ビジョンを持っているか」「ライフサイクル全体でCO2排出削減に取り組んでいるか」「再生可能エネルギーの活用・普及に積極的に貢献しているか」の三点を挙げている。また、そういった視点を取り入れた共同イニシアチブ「Science Based Targets(SBT)」(※)によって、長期的削減目標達成を掲げている。

※機関投資家たちが気候変動や温暖化のために情報開示を求める「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)」や、国連グローバルコンパクト、世界資源研究所(WRI)による国際的な共同イニシアチブで、企業がパリ協定に整合した削減目標の設定をすることを推奨するものだ。現在では世界で300社以上が参加し、日本からはトヨタ自動車、ソニー、アサヒグループホールディングス、リコーなど約40社が参加している。

さらにWWF Japanでは、上記3点にきちんと取り組んでいるかを21の指標で採点した「企業の温暖化対策ランキング」を業種ごとに作成。

金融業界においては、65社中、環境報告書類を発行した30社が評価対象となった。報告書発行率は保険業71%に対し銀行業は37%と低く、総合得点で見ても全般的に高得点の保険業に対し、銀行業は低い得点となった。

銀行業の共通した課題は、自社の投融資先がどれくらいCO2排出量があるのかを把握しきれていないことであり、ポートフォリオのリスクマネジメントのためにも、まずそこの見える化をしていくべきだと池原氏は話す。

企業だけでなく国連側も含めた官民連携によって、産業界の温暖化対策を加速させていく目的で作られた、企業イニシアチブの巨大なプラットフォーム「WE MEAN BUSINESS」では、気候変動のための1,077のコミットメントが示され、633社が参加。時価総額 1,751兆円分のアクションが行われている。(2017年11月10日時点)

ここからも、2℃目標やサステナビリティを目指していくといった動きが世界で活発化していることがわかる。ここでコミットしている企業の名前は、WEBサイトや国連の特設サイトにも掲載される。

昨今では、ESG 投資も世界的潮流となっている。日本も2年前に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGに舵を切った。現状においては、機関投資家側の環境評価に対する知見がまだ十分でないことが課題としてあり、それに対し池原氏は、「妥当性のある判断基準の整備とともに、他社のことを評価する前に自社の取り組みを突き詰めることで、他社の取り組みを判断するための“見極める力”を養っていくべきだ」と池原氏は語った。

続いては、350 Japan 代表古野真氏が「ダイベストメントの概要と必要性」についてプレゼンをした。

団体の名前にもある“350”の数字は、大気中の二酸化炭素濃度を表している。元NASA宇宙研究所の所長James Hansen氏によると、安心して暮らせる濃度にするために、350ppm以下に低減する必要があるという。しかし、80万年前の地球に比べ、大気中の二酸化炭素濃度は、はるか急上昇していることがわかっている。また、昨年2016年には403.3ppmを超えたことで、産業革命前に比べ、世界の平均気温が1.1度上昇したと報告された。ドイツ保険会社が出したデータによると、この1℃上昇によって自然災害が3倍に増加したという。

The Guardian 2017によると、3℃上昇で世界の大都市の幾つかが沈み、大阪市で520万人、上海では1,750万人が家を失うという。合計で2億7,500万人に影響すると言われており、5分の4はアジアの人々。

古野氏は「パリ協定の1.5℃目標は、地球を救うという意味であり、途上国の人々が“生き残るか”、“難民になるか”の数字でもあります。すでに1度上昇して被害を受けている人がいます。このために私たちにできることは、化石燃料や石炭に依存する火力発電所新設をゼロにし、既存の発電所を廃止しないといけません」と語る。

そこで具体的にできるアクションが、“ダイベストメント”だ。この運動はアメリカの大学から始まった。運動の背景には、炭鉱におけるダイナマイトを使った破壊的な採掘方法にあった。こういったことが大学の近くで行われていたことから、大学生らが環境破壊は止めるべきだと主張。さらに彼らの大学が炭坑採掘のプロジェクトを進めていた企業に投資していたことが発覚し、大学に対し投資撤退を要求したことから、ダイベストメント運動が広まっていった。

現在ダイベストメント運動は、世界76カ国800団体に及んでおり、資産運用総額にするとおよそ640兆円にまで上る。これは日本のGDPを上回るほどの規模だ。

350 Japanでは、人々にmy bank my future宣言という署名活動などで、化石燃料や原発企業に融資する銀行ではなく、環境に配慮した銀行で口座を開設することを促してきた。大手銀行に対しては、投融資の情報開示、パリ協定に整合した目標を取り入れた投融資方針や、ロードマップの作成を要求。気候変動問題を加速させる化石燃料産業や様々なリスクを抱える原発関連企業に、投融資しないよう訴えていく方針だ。

3人のプレゼンのあとは、ボランティアによるダイベストメントストーリーが語られた。

ボランティアのいずみさんはダイベストメントをした理由について、「気候変動キャンプで台湾にいった時に、日本の投資家によって火力発電所が建てられ、豊かな自然が奪われていることを知りました。また、アメリカのダコタで日本のメガバンクが、地元の人やネイティブアメリカンの反対を押し切って、彼らの神聖な土地とされる場所に石油のパイプラインを通す事業に多額投資していることを、350の活動を通じて知ったんです。銀行に入れたお金が人を傷つけていることを知って、きちんと人にも地球にも優しい銀行を選びたいと思ったからダイベストメントしました」と話す。

また、アンナさんは「キャンプでは、発電所からの廃水で汚染された海や石炭の灰をかぶって枯れる木々を見ました。息をするのが嫌になるくらい空気も汚かったんです。こんなところに人が住んでいるなんてと思いました。実際に健康被害に苦しむ現地の方々や、彼らの子どもたちに対する思いを聞いて、私たちが日々消費する電気という当たり前のものの延長線上ではたくさんのものが傷ついたり、犠牲になっていることを実感しました。今は一歩踏み出すと情報に手がとどく時代なので、日々みなさんが消費するものが、どのような過程を経て私たちの元へ来ているのか、どんどん興味をもって調べてほしい。みなさんが、自分の消費や選択が社会に与える影響を意識して、自分の幸せだけでなく人の幸せも考え、日々の生活の中の多くの選択に少しでも責任を持ってくれたら良いなと思います」と自身の体験を踏まえて思いを語った。

二人の体験談のあとは、質疑応答やスタッフとの交流会が開催され、活発な議論が行われた。

 

世界では、地球温暖化対策に貢献するために大手の銀行をはじめとした金融機関が次々と脱炭素、脱石炭の方針を打ち出し、ダイベストメントを進めている。しかしこういった流れのなか、日本の大手金融機関は、化石燃料や原子力発電所建設に多額投融資をしており、国際環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)が出した「Fossil Fuel Finance Report Card 2017(化石燃料ファイナンス成績2017)」では、日本の三大メガ銀行の気候変動対応は最も低い「Score F」という評価を受けた。

こういったことは市民にとっては見えづらい状況にあり、透明性を求めることを社会全体として取り組んでいかなければならない。

先日大手新聞社のニュースでも、世界各国が掲げる温室効果ガスの削減目標を達成したとしても、2100年までに世界の平均気温3度上昇は避けられないとの報道がなされた。環境保護に対する市民一人ひとりの行動や、企業の倫理的な行動、国の本格的な施策がいよいよ求められてきている。

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