去年、ビル・メリンダ・ゲイツ財団がポリオ(小児まひ)ワクチン開発で3800万米ドル(約40億9000万円)の支援を発表した。このことは、SDGsのその先に見えるこれからの時代のひとつの象徴的な出来事であるのだが、それは、もちろんその40億という金額ということではない。支援先が武田薬品工業であったということである。(鵜尾 雅隆=日本ファンドレイジング協会代表理事)

日本ファンドレイジング協会の鵜尾代表

ゲイツ財団は、武田薬品工業がワクチンを開発し、途上国に提供することで、生み出す社会的インパクトに期待をした訳である。SDGs の一つの重要なポイントは、世界の課題を分類し、約300の目標指標を明確化し、行政やNGOだけではなく、企業も含めたさまざまなプレイヤーが共同で、その指標を実現していこうということにある。

今の世界の課題には、行政、企業、NGOが関わる中でトライセクターの生み出すイノベーションが必要となってきている。この潮流の中で生み出されている「寄付と社会的投資」の重要な2つのトレンドがある。

一つ目が、欧米の先進的な財団を中心に生まれている新たなパラダイムである。これは、社会的課題の解決が進むのであれば、支援先をNGOや社会的企業に限らず、医薬品開発をする企業やエネルギー産業など、新しい技術革新を生み出す企業にもウイングを広げていこうとする流れである

生み出したいインパクトを明確化し、指標化するようになると、その目標を実現する「プレイヤー」が誰であるかということは二次的になってくる。今回のゲイツ財団の武田薬品工業の支援も、「ポリオ撲滅」という目標のためには、製薬企業への資金投下が最適と判断したということになる。

目標の明確化は協働を加速

二つ目が、SDGs で企業や行政に浸透しつつある成果志向のパラダイムである。「自分たちの社会貢献や社会的課題の解決事業と成果の関係」に対する関心の高まりである。

企業のCSR部門が、「自分たちがやっていることの生み出す変化は何か」ということを気にし始めている。これは、日本のみならず世界のトレンドといっていい。そうした中で寄付や社会的投資も、「より成果を生み出す事業・事業体はどれか」という問いへの答えを求められるようになってくる。

短期的な成果志向は、社会イノベーションにとってむしろ逆効果で、数値化しにくい本質的な変化というものも多い。だが、社会セクターの特徴でもあり、この成果志向のトレンドが行き過ぎると中長期的に世界の課題解決の促進に悪影響を及ぼす懸念もある。

しかし、一つだけ確かなことは、数値であれ、定性的なものであれ、社会的課題の解決で目指す「目標指標」を明らかにしていくことは、間違いなくトライセクターの協働を加速化させる。

それは「指標という共通言語」を持つことによるコミュニケーションスピードの加速化であるとも言っていいと思う。SDGs時代の日本の寄付・社会的投資は、この「社会的課題の共通言語化」を通じた社会の巻き込み方を探究していくステージに移行していくことになるだろう。

(雑誌「オルタナ」47号「社会イノベーションとお金の新しい関係」から転載)

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鵜尾雅隆(うお・まさたか):
日本ファンドレイジング協会代表理事。国際協力機構、米国Community Sharesを経て、ファンドレイジング戦略コンサルティング会社ファンドレックス創業。日本ファンドレイジング協会の創設に携わる。米国ケースウエスタンリザーブ大学非営利組織経営管理学修士、インディアナ大学The Fundraising School修了。著書に『ファンドレイジングが社会を変える』など。

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