伊藤忠商事は12月4日から、2018年の干支である「戌」をテーマにした大展覧会を伊藤忠青山アートスクエアで開く。20~30代を中心とした若手アーティストによる作品が約140点展示されている。一足早く、アートで新年を祝う。(オルタナS編集長=池田 真隆)

施設内に展示している原画作品は一部非買品を除き購入可能

干支にちなんだ展覧会は2015年の未(ひつじ)年から行われてきて、今回で4回目。展覧会の名称は、アートで祝おう2018「ワン!ダフル ニューイヤー展」。

伊藤忠商事が若手アーティストの「次世代育成」として、この時期に会場を無償提供し、発表の場をつくっている。出展する機会が限られている若手アーティストにとっては、「顧客・ファンづくりの場」として好評だ。

今回、若手アーティストに声をかけた美術展の企画を行う八犬堂(東京・世田谷)の大久保欽哉氏は、「アートだけで食べていける人はまだまだ少ないのが、今の日本。時間もお金もかかる展示会に出られる回数は限られている。なかには、年に2回だけの人もいる。若手にとって作品を人に観てもらい、購入してもらうことで、アーティストとしての自覚が芽生え、作品づくりへの意識が高まる」と話す。

同施設には、多様な人が訪れるので、若手アーティストには多くの影響を与えているという。「立地柄、普段からギャラリー巡りをしていない人も来るので、より広い層に作品を見てもらえる。この展覧会がきっかけで固定ファンがついたというアーティストも少なくない」(大久保氏)。

今回、伊藤忠グループのファミリーマートと伊藤忠紙パルプが特別協力し、次世代育成になる新たな企画として展示した約140点を対象に、「次世代アーティスト戌年年賀状コンペ」を実施。審査によって19人の作品が選ばれた。

その作品は「次世代アーティスト年賀状」として、全国のファミリーマート・サークルK・サンクス店頭のカタログ申込書及びパソコン・スマホで注文可能。約18,000店舗で受け取ることができる。

「次世代アーティスト年賀状」に選ばれた作品

同コンペで大賞を受賞したのは唐澤絵里さん。作品名は、「萌え出ずる」。梅の花に向かって元気よく跳ねる柴犬を絵具で描いた。新年を祝う意味を込めて、上に向かい伸びる枝葉にし、ベーシックな犬の代表として柴犬を選んだという。目の前のものにまだ届かないけれど、もうすぐ届くという新年への想いを込めた。

大賞を受賞した唐澤さん

唐澤さんは画家として活動しながら保育士としても働いている。普段は、子どもをモチーフにすることが多い。新しいモチーフを探していた時期に、この展覧会の依頼を受け、挑戦してみようと出展を決めた。大賞を取ったことを機に、「ほかのモチーフを描くことにも本格的にチャレンジしてみようと思う」と話した。

大賞の唐澤絵里さんの作品は、全国のファミリーマート、サークルK、サンクスの店舗で3枚1組のパック年賀状として販売される。(一部例外の店舗があります)

犬のポチとポチ袋をテーマに描かれた山根さんの作品

山根旭さんの作品は「ここ掘れここ掘れポチ袋」。お年玉袋をもらった柴犬が必死で中に入っているものを探す様を描いた。アクリル絵の具で画用紙に描いた。山根さんの作品は、ストーリー性を感じさせる表現力が評価され、過去の作品も含めて展示されている。

山根さんの作品「バードケージ」

福島県出身の山根さんは一浪の末、武蔵野美術大学造形学部日本画学科に入学した。高校2年生で美大に進学することを決めて、現役のときには夏休みや冬休みの長期休暇に東京に来て、予備校に通う生活を送った。浪人時代は上京し、予備校に通った。

現在はアルバイトをしながら絵を描いている。出展する頻度は2カ月に1回ほど。「この機会に、一人でもファンになってくれる方と出会えたらうれしい」と話した。

展示されているのは絵だけでなく、立体作品もある。東京藝術大学美術学部彫刻科4年の瀬戸優さんは土器の作品をつくった。粘土を乾燥させて800度の釜で焼いた焼き物だ。

陶器作品を出展した瀬戸さん

作品名は、「Time traveler –Egypt」。エジプト文字が刻まれた正方形の台座の上に、イタリアングレーハウンドの頭部を置いた。仏像彫刻の技法である「玉眼」を使い、目の部分に半球のガラスを入れた。ガラスの裏側に黒い瞳を描いた。こうすることで、光を照らすと、目が輝いているように見える。

瀬戸さんは、「会えないモノに会いたい」という心理から、人の手が入っていない自然や野生動物をモチーフにすることが多い。今回のテーマである犬を「会えないモノにするために、時間を操ることにした」と口にする。

古代エジプト文明のときに生きていた犬を調べ、その犬を造った。作品名を、「タイムトラベラー」としたのも、「この作品を見た人がその当時の時代へタイムトラベルしてほしいという意味を込めた」からだ。

瀬戸さんは来年、東京藝術大学大学院への進学を予定している。大学院の卒業後は、「彫刻で食べていきたい」と力を込める。売れる作品をつくるためには、アーティストとしての腕を磨く以外にも、「客や販売業者との関係性を構築する力」が必要だという。

学校では作品のつくり方を中心に習うので、「売り込むためのスキル」は自分で動いて身に付けるしかない。そのため、2年前から大学に通いながら、彫刻家のもとでアシスタントとして修業を重ねており、こういう展覧会でも自ら客に話しかけ、行動力を学ぶ。

本展では様々な作品の他に、昨今の流行に合わせて、各所に「インスタ映え」を意識したフォトスポットをつくった。若手アーティストたちで大きな板に天使の羽を絵具で塗った。板の中心に立って撮影すると、羽が生えている写真を撮ることができる。

季節に合わせたフォトスポットを若手アーティストたちが描き上げた

今回の展覧会は12月17日まで。期間中には、若手アーティストが講師を務めるワークショップが行われる。

12月9日14時~15時:毛糸で犬をつくるワークショップ
12月10日、16日14時~16時:オリジナル缶バッジをつくるワークショップ
申込先:03(5772)2913 先着順

会期中は若手アーティストたちも在廊するので、次世代を担う「金の卵」を探しに訪れてみてはいかがだろうか。

伊藤忠青山アートスクエアの公式サイトはこちら


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