水口剛・高崎経済大学経済学部教授は12月7日、ESG投資の観点からパーム油のリスクについて考えるシンポジウムに登壇した。非財務情報を投資の指標とするESG投資の動きは欧州から日本に伝わったため、「欧州で起きていることを注視する必要がある」とした。欧州では環境破壊につながるパーム油の規制が進んでおり、「日本企業がこのまま使い続けると、レピュテーションリスクにかかわる」と警告した。講演の要旨をまとめた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
財務情報ではなく非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンス)を投資の指標とする「ESG投資」の流れは2006年4月に始まった。国際連合がPRI(責任投資原則)を公表したことで、それに賛同した機関投資家がESG情報を投資の意思決定に組み入れていった。
2017年11月時点で1867の機関が署名しており運用資産の総額は62兆ドル~70兆ドルに及ぶ。日本では2015年9月にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことで注目され出した。
投資する上で2つの判断基準がある。一つは、「個別投資先の評価」だ。ESG情報は、投資家にとって合理的にリスクを測る指標でもあり、収益の機会でもある。
例えば自動車メーカーへ投資する場合、今の時代、電気自動車や水素自動車への取り組みを考慮しない投資家は少ないだろう。つまり、ESG情報のE(環境)に該当する気候変動を考えて投資することが合理的な判断になるのだ。
もう一つは「ユニバーサル・オーナーシップ」。これは、GPIFのように資本市場全体に分散投資する長期投資家を指す言葉だ。例えば、ある投資先の企業が安価な石油を販売したことで利益を得たとする。
当然、地球温暖化が悪化していくのだが、ユニバーサル・オーナーは経済全体に投資することで、自然環境や社会へ与える負の影響を最小化させる。ユニバーサル・オーナーにとっては、経済を維持するためには地球環境を守る必要があると合理的に判断しているからだ。
投資の運用に関しては、「アクティブ運用」と「パッシブ運用」があるが、ユニバーサル・オーナーは「パッシブ運用」で市場環境全体の底上げを行う。
欧州では、ESGリスクとしてパーム油をとらえる動きが加速している。PRIでは、「Investor Working Group On Sustainable Palm Oil」というパーム油に関する投資家グループを立ち上げ、重要課題として位置付けている。
生命保険のAXAグループはパーム油に関するセクターガイドラインを策定。AVIVA Investorもパーム油をESG課題とし、投資先評価に反映した。ノルウェーは今年6月、パーム油を原料としたバイオ燃料の公共調達を禁止した。EUでは2020年までに段階的にパーム油のバイオ燃料を禁止していく。
パーム油の生産地であるマレーシアは、欧州の規制に対して、「EUとマレーシア関係の後退」と批判し、日本へ販路を開拓した。
つまり、欧州で売れなくなったものを日本で販売しているのだ。この動きは、ESG観点から見ると、レピュテーションが落ちて、発電所が使えなくなり、座礁資産になる可能性が高い。海外の投資家がパーム油をどう考えているのかを日本企業は考えなくてはいけない。