国際環境NGO350.orgの日本支部350Japanは、2017年11月6日から12月12日まで「レッツ、ダイベスト」キャンペーンを開催した。同団体は「パリ協定」に整合した責任のある銀行業務を日本の銀行に求めるため、キャンペーン期間中に、化石燃料や原子力関連企業に投融資している銀行から、預金を「ダイベストメント(投資撤退)」し、これらに投融資していない銀行へと口座を乗り換えた個人や団体を日本で初めて集計した。(松尾 沙織)

ダイベストメントを呼び掛ける350.orgの日本支部のメンバー

団体は、今年の9月に国内大手銀行7行に対し、パリ協定に整合した銀行業務を求めた要請書と1,000人以上の預金者の署名を提出した際に、どの銀行からも十分な回答が得られなかったことから、預金者の声を真剣に受け止めてもらうためにさらなるアクションの必要性を感じ、今回のキャンペーンに踏み切った。

キャンペーン最終日であり、「パリ協定」が採択されてから2周年にもあたる12月12日に、環境省記者クラブにて記者会見を開き、最終結果の発表を行った。 今回のキャンペーンでは、7団体と119人の個人のダイベストメント報告が集まり、その推定総額は4億3,780万円に上った。

以下ダイベストメント表明団体

一般社団法人Earth Company

NPO法人気候ネットワーク

一般社団法人エシカル協会

特定非営利活動法人 A SEED JAPAN

NPO法人セブン・ジェネレーションズ

NPO法人R水素ネットワーク

一般社団法人日本運動療育協会(SPARK協会)

報告されたデータによれば、ダイベストメントされた銀行は、三菱東京UFJ銀行が39人、みずほ銀行が18人、三井住友銀行が14人だった。また、新しく口座を開設した銀行は、ソニー銀行が32人、城南信用金庫が16人、楽天銀行が9人だった。

会見には、350 Japan代表 古野真氏をはじめ、「日本と再生」の監督である河合弘之氏、シングルマザー団体「Mamademo」代表の魚ずみちえこ氏、国際環境NGO団体レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)森林/金融キャンペーンのシニアアドバイザーであるハナ・ハイネケン氏、PRI署名機関である株式会社ニューラル代表取締役社長である夫馬賢治氏が登壇し、それぞれの見識について語った。

同団体は、キャンペーンによって集められたダイベスト人数や金額は、大手銀行に報告し、適切な情報開示、新規化石燃料開発事業への投融資を凍結、再生可能エネルギーの普及促進などのパリ協定に整合した方針を採用するよう呼びかける。

「大手銀行は責任投資原則及び、社会や環境に配慮する融資を促すことを示した赤道原則などに署名しているにもかかわらず、短絡的な利益のために地球全体の未来を危機にさらすような投融資を続けています。賢い消費者や団体の行動が、持続可能なお金の循環を生み出す大きな波となることを期待します」と代表の古野氏は語った。

12月11日、ドイツとオランダのNGOが民間銀行による石炭開発にもっとも関わっている世界的企業120社への民間銀行の融資状況をまとめた調査結果を発表した。調査対象となった400社以上の民間銀行の中で、石炭開発への融資額において、日本のみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)と三菱東京UFJフィナンシャルグループ(MUFG)が世界1位、2位の資金提供者であったことが判明。

2014年から2017年の間、みずほフィナンシャルグループは約1.3兆円、MUFG約1.1兆円を石炭開発に関わる企業に融資していた。

世界経済の脱炭素化を進めるために、金融機関がどのような取り組みを行っているのかに、現在大きな注目が集まっている。気候変動会議が行われた欧米企業における気候変動リスクへの対応について、企業向けコンサルティングを行っている株式会社ニューラルの夫馬社長は次のように話す。

「欧米では、2010年頃からNGOからの強い呼びかけによってスタンスを変える銀行が増えてきているように感じます。ヨーロッパの銀行は一歩進んでいて、気候変動リスクを検討する委員会が社内にできていますし、レピュテーションリスク(※)だけの問題から経営マターとする動きがパリ協定の前からすでに起きています。気候変動で最も話題を呼んでいるのが石炭火力発電ですが、東南アジアでは融資が決まったとしても、昨今の潮流の影響でプロジェクトが途中で止まってしまうことが起きています。インドや中国でも政府が石炭火力に対し厳しい政策を開始した中、同様の事態はこれからも増えてくるでしょう」

※企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度(コトバンクより)

ヨーロッパやアメリカでは、気候変動に対応しないことが経営リスクになるということが常識になっていると夫馬氏は話す。企業の信用リスクをつける格付機関も気候変動の項目を織り込んでおり、すでにS&Pなどでは、気候変動リスクを含んだ格付けを発表している。

こういった意識の高まりのなか、日本の銀行は非常に遅れているとハイネケン氏は話す。

「みずほ銀行とUFJ銀行が石炭火力に多額融資していますが、開発企業120社のなかで、中国と日本の銀行はトップに入ります。融資先企業では、丸紅やTEPCO、Jパワー、中国電力、中部電力、関西電力がありますが、なかでも丸紅が一番みずほやUFJから融資額を受け取っています」

ハイネケン氏によれば、ヨーロッパではすでに、14社の大きな銀行が石炭関連プロジェクトに対する直接的な投融資をやめると宣言しているという。部分的にでも石炭火力に関わっている企業には融資しないとの宣言も出しているが、残念ながら日本の大手銀行からはそういった宣言は出ていない。

サンフランシスコに本部を持つRANは、2000年から銀行キャンペーンを行ってきた。運動の結果、アメリカのシティグループが環境や社会に配慮した方針を設けた。ハイネケン氏は、今後日本の銀行もターゲットにしてキャンペーンを展開していくと言葉に力を込めた。

こういった世界的な潮流となっているダイベストメント運動の必要性について、実際にダイベストメントを行ったシングルマザー団体「Mamademo」代表 魚ずみ氏は次のように語る。

「他国では一市民、若者が気候変動に対しアクションし、世界76ヵ国、800団体がダイベストメントを宣言しています。一人でも行動できるダイベストメントは、自然エネルギー社会へと移行していくための大きな力になると確信しています」

同じくダイベストメントを実行した河合監督は、ダイベストメント運動の意義について次のように語った。

「日本ではまだスケールが小さい運動だが、世界中では大きな動きになっています。銀行は預金者を守るだけではなくて、社会を守らなければいけないんだということを自覚してほしい。ダイベストメントは、そのための重要な運動。そして市民がデモをするよりも、経営者に警告する方が大きなプレッシャーになる。関連企業は銀行からの資金がストップされることがこわいし、銀行も不人気になりたくないわけで、再検討するようになるのでは。ダイベストメントは間接的ではあるが、スケールも効果も大きいので、経済行動を利用した脱原発行動になることを期待します」

国際社会では、石炭火力発電計画は、長期的に見て将来の経済成長につながらないとの見解が持たれている。世界の新規発電所の3分の2は、すでに自然エネルギーが占めている。にもかかわらず、まだ石炭火力に投資し続ける日本は大きな波に乗れていないと古野氏。

電源別の投資額 単位:10億ドル

再生可能エネルギー(大規模な水力を除く)、火力(化石燃料)、原子力、水力(大規模)出典:Bloomberg New Energy Finance

先日世界銀行もダイベストメントを宣言した。世界との足並みを揃えるためにも、日本においても、今後ますますダイベストメント運動を加速させていく必要があるだろう。今回のダイベストメントの報告によって、銀行がどのような姿勢を見せるかを、NGOとともに市民は見守っていかなければいけない。

 

記者会見の全動画はこちら


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