現在、世界においても石炭燃料を主とする火力発電所の閉鎖や、計画中止を進める国が相次いで出てきている。ベルギー、カルフォルニア、スコットランドが脱石炭を達成し、G8のうちイギリス、フランス、カナダは、段階的に石炭火力発電所を廃止することを約束した。(松尾 沙織)
そして中国やインドを中心に、世界中での新設計画は60%も減少しており、100以上のプロジェクトが凍結、代わりに自然エネルギーへの転換が急速に進んでいる。
そういった発電所へ投融資する金融機関も、化石燃料からのダイベストメントを宣言するところも続々と出てきている。昨年発表されたArabella Advisorsの報告書によると、パリ協定から1年経つ間に、機関投資家及び個人による化石燃料企業からのダイベストメントは76ヶ国、総計約560兆円に到達したと報告している。さらには、ニューヨーク州やニューヨーク市、世界銀行グループのダイベストメント宣言が報じられた。
2015年パリ協定で決定された、世界平均気温上昇を”2度未満”にする目標を達成するには、石炭火力の新設計画は「認められない」といたるところで言われている。各国が自然エネルギー政策を次々と打ち出しているなか、日本では石炭火力発電所新設計画が全国40ヶ所以上で進んでいる。
なかでも、東京湾外沿いでの新設計画は目立つ。現在、千葉県の袖ヶ浦、蘇我、神奈川県の横須賀において4基の石炭火力発電所計画が進んでいるのだ。
千葉県千葉市蘇我町の沿岸部に建設予定の設備容量107万kWhの石炭火力発電所は、2024年運転開始を目標に、現在建設計画が進行している。これは中国電力(株)、JFEスチール(株)の共同出資によって設立された千葉パワー(株)によるものだ。国際NGO団体 350 JAPANの調査によると、このプロジェクトには、大手銀行が資金提供していることもわかっている。
周辺住民によれば、これらの計画は十分な住民の周知や理解がないままに進んでいるという。そういったことに危機感を感じた市民団体「蘇我石炭火力発電所計画を考える会」によって、現在チラシのポスティングや勉強会が開催されている。
2017年10月14日に、Foe Japan と蘇我石炭火力発電所計画を考える会主催「(仮称)蘇我火力発電所建設計画説明会&見学ツアー」が開催され、発電所計画地に近隣するマンションの住民に既存の火力発電所の被害状況や計画に対する被害状況を取材した。
既にこの場所には火力発電所があり、これに対し粉塵被害を訴える住民も数多くいる。過去1972年には、公害対策を求める住民によって「千葉市から公害をなくす会」が結成された。当時の千葉市民の2割にあたる7万5千人もの人々が賛同し、「公害防止基本条例制定」の直接請求がなされたが、却下され、1975年に住民らが提訴。「あおぞら裁判」が開廷した。1988年、千葉地裁は川崎製鉄の排出する大気汚染と、住民の健康被害の法的因果関係を明確に認め、原告側が勝訴。川崎製鉄(現:JFEスチール株式会社)に対し損害賠償を命じた。
2005年には同社による排水データ改ざんもある。こういった背景もあり、住民らは声を集めるためアンケートを実施。発電所新設において、周辺住民300人のうち9割が大気汚染を不安視すると回答をした。
住民からは「子どもの健康が気がかり」「ベランダが真っ黒になり、窓を開けておくと家中がザラザラになる」「臭いが気になり洗濯物を干すのをためらう」などの声が上がっている。実際にツアー参加者の中でも、敏感な人は肺が苦しくなったり、周辺の石炭の匂いにむせ返す人もいた。
新設が計画されている発電所の5キロ圏内には、学校、運動場、サッカー競技場、病院、住宅街があり、多くの人々が生活をしている。千葉市環境保全課の資料によれば、市内の喘息児童数は過去5年で7%ずつ増えている現状もあり、住民の中にはさらなる健康被害を懸念する声は多い。
今回新設の発電所では、「超々臨界圧(USC)」という技術が採用されている。最新型高効率発電とされているが、LNG火力発電に比べ、およそ2倍の二酸化炭素を排出する。住民から温暖化につながることへの懸念の声も上がっている。
決して市内の電力量が不足しているわけではない。現存する発電所でつくられている電力は、そのうちのおよそ3割が千葉県内で使用され、7割は東京や埼玉などの県外で使用されている。すでに県内の電力は十分に賄えており、東京都も自然エネルギー推進や、全体の使用電力量を減らす意向(2030年までに東京のエネルギー消費量を30%削減)を示しているなかで、供給を増やす必要性について疑問に持つ住民も多いと言う。
このように火力発電所を新たに建設することに対し、反対意見を持っている住民が多いなかで、環境影響評価法等に基づく環境アセスメントの手続き(※)は進行している。今後蘇我の会は、建設企業や自治体への大規模なアクション、より多くの人への周知のために活動していきたいと語る。
※3月に意見を提出し配慮書が終了、今後方法書がに出る予定
日本の環境大臣でさえも「石炭火力発電所新設は許されない」とし、蘇我発電所計画においては「再検討」を求めている。こういった状況の中で計画を進めることが、果たして企業含め、近隣住民、地域、国の利益につながるのかといえば、そうとは言い難いのではないか。
まちづくりの観点でも、本来であれば影響が大きいエネルギー政策は周辺住民、周辺企業の合意あって進めるべきものなのではないか。まちも国も地球もみんなのものだ。企業は、SDGsのアジェンダ12「つくる責任」や、11にある「住み続けられるまちづくり」を考え、「ともにまちをつくる意識」を持ってほしいと願うばかりだ。