「児童労働に終止符を打つことは、依然として解決の難しい課題である」――これは、ILO(国際労働機関)が4年ごとに発表する世界の児童労働などに関してまとめたレポートに記された言葉だ。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)では2025年までに「あらゆる形態の児童労働を撲滅する」と定めているが、このレポートでは同年になっても、1億2100万人の子どもが働いていると予測している。現在、5~17歳の子どもで児童労働に従事しているのは1億5200万人に及ぶ。ILOが推計を始めた2000年と比べると、児童労働者数は9400万人減だが、直近の4年間では減少数が鈍化している。児童労働の根絶に向けたシナリオを探る。(オルタナS編集長=池田 真隆)
児童労働とは法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のことを指す。義務教育期間に学校に通わせてもらえないため、大人になったときに就ける職が限られてしまう。ILOは昨年9月、児童労働に関する最新のレポートを発表し、ILO東京事務所が1月15日、同レポートの日本語版を公開した。
同レポートによると、全世界で女子6400万人、男子8800万人の計1億5200万人の子どもが児童労働に従事していることが分かった。これは全世界の子ども全体のほぼ10人に1人に相当する割合。児童労働に従事している子どもの半数が、健康や安全、道徳的発達を危険に晒す「危険有害労働」に従事している。
児童労働者数は、ILOが推計を始めた2000年から年々減ってはいるが、直近では減り方が鈍化している。2012年から 2016年までの児童労働者数の減少幅は1600万人と、2008年から2012年に記録された4700万人という減少幅の3分の1だった。
SDGsでは2025年までに「あらゆる形態の児童労働を撲滅する」と定めているが、このペースでいくと、2025年時点でも1億2100万人のこどもが児童労働に従事していることになると予測されている。
■3分の2が家庭内で働く
児童労働に従事している子どもの71%が農業を行う。自給自足農業、商業的農業及び牧畜に関連するものだ。こうした労働は、危険で有害な性質を持っていたり、危険で有害な状況で行われたりすることが多い。
サービス業と工業部門で児童労働に従事する子どもはそれぞれ 2600万人と1800万人。気候変動によって農家の人々が都市部に避難を余儀なくされ、今後、児童労働が増える公算が大きい地域があるという。
ほとんどの児童労働は家庭内で生じていることも分かった。児童労働に従事する子どものうち3分の2超は、寄与的家族従業者として働いている。賃金労働と自営業は児童労働者のそれぞれ27%と4%だけ。
つまり、児童労働に従事する子どものほとんどが、第三者である使用者との雇用関係にはないのだ。家族経営の農場や家族企業で働いている。家族が子どもの労働に依存している現状を把握した上で、児童労働の根絶に向けた取り組みが欠かせない。
■「まず知ることから」
同レポートでは、児童労働を根絶するために政策対応として、より幅広い国家開発への取り組みに統合するとともに、地域の実情にも適応させる必要があるとしている。児童労働を孤立した問題としてではなく、より幅広い社会開発政策に主流化させる必要があるという。児童労働に関する懸念を教育、社会的保護、労働市場及び労働基準に関する政策にも反映させることが特に重要とした。
一方、私たち市民には何ができるだろうか。特定非営利活動法人ACEの広報担当者である桐村康司さんは、「まず児童労働について知ること」が第一ステップと言う。その上で、児童労働で作られた商品を避けようと努めることが大切だと話す。
ただし、認証マークがない商品のパッケージを見ただけでは判別することが難しい。そこで、一つの効果的な方法としては、「企業へ直接問い合わせること」だと挙げる。
かつて、こんなことがあった。チョコレートを販売していたある菓子メーカーの社長宛に、子どもたちが手紙を送った。その手紙には、「児童労働に加担しない原料を使ってください」と記されていた。
そのメーカーが原料を取り寄せていた地域は、児童労働者が多くいる。その手紙を読んだ社長はそのことを認知しておらず、さっそく調べると、児童労働で作られた原料を取り寄せていたことが分かった。そうして原料の仕入れを切り替えたという。
桐村さんは、「消費者が声を出さないと変わらない。NGOやNPOの監視だけでなく、少数の市民の声も企業を変える力になる」と話した。
・「児童労働の世界推計:推計結果と趨勢、2012~2016年」(日本語訳)