小児がんを経験した子どもたちは、退院して通常の生活に戻ってからも学校生活のこと、恋愛、就職…様々な不安や悩みを抱えて生きているといいます。小児がんやそれに準ずる病気を経験した子どもたちが当事者同士で集い、互いの経験や思いを共有する場づくりを行うNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)
小児がん経験者の子どもたちが集まれる場を
福岡を拠点に活動する認定NPO法人「にこスマ九州」。小児がんやそれに準ずる病気を経験した子どもたちが当事者同士で集い、互いの経験や思いを共有する場づくりを行っています。
「社会では“小児がん”というとすごく大変な病気、死んでしまう病気というイメージがまだまだ先行していると感じます。医療が発達した今、小児がんは必ずしも命を落とす病気ではなくなってきました」。そう語るのは、団体代表の白石恵子(しらいし・けいこ)さん(42)。「九州がんセンター」(福岡市)に勤務する白石さんは、臨床心理士として数多くの小児がんの子どもたちと触れ合ってきました。
「命を落とす病気ではなくなってきた一方で、治療後の子どもたちが社会でどのように生きていくのか、困った時に頼れる場所はあるのか…。気軽に相談できる人や場所がないという問題も出てきています」と白石さん。「にこスマ九州」では、小児がんの経験者が集まるキャンプ「にこスマキャンプ」や、経験者とその家族が一緒に1日を過ごす「家族の集い」、17歳以上の経験者が悩みを話せる「にこトーク」等のイベントを主催しています。
社会に根付く、小児がんへのネガティブなイメージ
がんセンターでは日常的に小児がん患者と出会いながら、しかし一方で「一歩外に出ると当事者と出会うことは滅多にない」と白石さん。そのため「学校でクラスの友達が小児がんと聞いたとき、何か特別扱いをしなければならないと感じる方も少なくない」と指摘します。
「小児がん経験のある子どもたちのなかには、内服で継続治療を何年もしていたりして免疫力が弱くなっていることから予防のためにマスクをしている子がいるのですが、『うつる病気だからマスクをしているのかと思った』といわれたという話を最近聞きました。小児がんはまだまだきちんと理解されていないんだなと感じます」
「子どもが小児がんで入院してきたばかりの親御さんと接していても、かなりネガティブなイメージを持たれていると感じる」と白石さん。
「メディアで取り上げられるのはほとんどマイナスなケースなので、必要以上に大げさな感覚があるとは感じています。大人のがんも同じですが、病気になったからと言ってすぐに死ぬわけではないし、何もできないわけではありません。配慮が必要なことはありますが、治療中も寝たきりで何もしていないわけではなくて、本人が本人らしくいる時間もあります。小児がんの子どもたちも院内で多分皆さんが思われる以上に遊んでいるし、勉強もしています。そういうイメージがまだまだ少ないと感じています」
治療が飛躍的に進化した一方で、社会に出てからどう生きていくかという課題も
「治療の飛躍的な進歩もあって治療成績は昔にくらべてずっと良くなりました。小児がんで一番多いのは急性リンパ性白血病という血液のがんですが、7〜8割は治る時代になってきています」と白石さん。
「ただ、治る病気になってきた一方で、10年、20年経ってから治療による影響が身体の症状に現れる『晩期合併症』というものがあります。多くは生活の質(QOL)に関わるものですが、なかには初めにかかったものと別のがん(二次がん)など生命にかかわるものもあり、注意が必要です」
「さらに心の問題として、小児がんを経験した子どもたちが社会に出て行く時に、たとえば就職や恋愛、結婚や出産などで抱える不安や悩みをどうサポートしていくかといった課題が出てきています」と新たな課題を指摘します。
「17歳以上の小児がん経験者が集まって思いを共有する『にこトーク』では、小さい頃に小児がんを経験した子が彼氏ができて『小児がんの経験を相手にいうべきだろうか』という不安だったり、就職の際に会社に病気のことを伝えた方が良いのかといった悩み、治療のために大量の放射線を受けた女性が妊よう性(妊娠のしやすさ)がないことを、自分とパートナーの間では理解していても、パートナーの親御さんにどう伝えるべきかといった相談をされる方もいます」
「体のことは病院へ行くことができるけれど、心のことは気軽に相談できる場所がなかなかありません。私たちのような団体の存在が、何か彼らの支えになればと思っています」
「がんが普通の病気になれば、もっと生きやすい社会になるのでは」
小児がんをはじめとするがんを過剰に受け止めすぎず、患者へは配慮しながら付き合って欲しいと白石さん。
「がんだからといって特別扱いしてほしいわけではなくて、今まで通り、これまでと同じように接してほしい、という話は患者さんからよく耳にします」
「なぜかがんになると、皆さん相手に聞いていいのかをすごく悩まれると思っています。たとえば『うちの子が熱が出た』とか『主人が糖尿病でね…』というと『大丈夫?』という反応だと思うのですが、がんになると病気のことを聞いていいのか多くの人は悩みますよね。やっぱり何かタブーに触れてはいけないような雰囲気になると思っています。がんが社会でもって『普通の病気』になってくれたらと思っています」
「『がん=死』というイメージや、ひと昔前の痛い痛いと苦しむ治療のイメージ、副作用のイメージがまだまだ強いと感じています。もちろん痛みや苦しみがないわけではありません。しかし、小児がんは治療して、そのまま社会に出られる時代にもなってきています。がんがもっと普通の病気になれば、もっと生きやすい社会になるのではないでしょうか」
当事者と話をすることで自ら殻を破った一人の若者
これまで携わった小児がん経験者のなかで、特に印象に残っている方について聞いてみました。
「『にこトーク』に1度きてくれた若い女の子が印象に残っています。彼女は学校を卒業してから就職できず、自宅にいることが多くなっていました。主治医の先生が何度か私たちの活動に誘ってくれていたのですが、なかなか来ることができず、やっと初めて顔を出してくれたんです。自分の思っていることを一生懸命話している姿が印象的でした」
「それまで彼女は、小児がんになった自分のことを『社会から差別されている』と感じていたようです。しかし、同じように小児がん経験者であるみんなの意見を聞いて『あっ、私は悲劇のヒロインじゃないんだ。なんでもしたいことをやっていんだ、できるんだ』と思ったそうで、このトークに参加した後、すぐに就職して、その数ヶ月後には『東京に行きたい』と周囲の心配をよそに一人暮らしを始めたんです」
「『にこトーク』に参加して話をしただけで、『私はがんだからできない』という呪縛から解き放たれたんですね。輝いて社会へと羽ばたいていった彼女を見てよかったと思う一方で、医療者としては『医療現場での私たちの努力は一体なんなんだろう』とさみしくも思ったりするのですが、仲間の存在があること、他の人の経験やアドバイスを聞いてみること、それは本当にすごく大きな力があるんだということを改めて感じさせてくれた出来事でした」
小児がん経験者が集まる場を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「にこスマ九州」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×にこスマ九州」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、毎年開催している小児がん経験者の交流キャンプ「にこスマキャンプ」の資金として使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、カメラ、帽子、旅のしおりなどキャンプのモチーフ。これらを円で描き、出会う人たちとのつながりや思い出が、小児がんを経験した子どもたちにとって大きな力になるんだというメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、7月15日~7月21日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・小児がんを経験した子どもや若者が当事者同士で交流し、経験を分かち合える場を〜NPO法人にこスマ九州
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。
【JAMMIN】
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