厚生労働省の報告によると、2016年の児童相談所における児童虐待相談対応件数は12万件以上。心理的虐待や身体的虐待、ネグレクトや性的虐待が含まれています。様々な事情があって家庭で生活ができなくなった子どもたちを保護し、一緒に過ごす中で「奪われた子どもの時間」を取り戻してあげたい──。そんな思いから、岡山県で子どもシェルターと自立援助ホームを運営し、様々な事情から家庭を持たない子どもたちへ支援を行うNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■子ども用緊急シェルターと自立援助ホームを運営

「子どもシェルターモモ」事務局および児童養護施設等を退所した子ども・若者たちのための「アフターケア相談所『en』

岡山を拠点に活動するNPO法人「子どもシェルターモモ」。弁護士が主体となって立ち上げたNPOで、おおむね15歳から20歳までの子どもが利用するシェルターと2つの自立援助ホームを運営しています。

「子どもシェルター『モモの家』は”今すぐ助けて欲しい”という緊急性の高い状況にある子どものための避難場所。自立援助ホーム『おおもと荘』(男子用)、『あてんぽ』(女子用)は、子どもの自立支援を目的にしたホーム。いずれの施設も、岡山弁護士会と連携し、入居の際には一人の子どもに必ず一人の担当弁護士がつき、法的な部分を含め、自立までの支援・援助を行っている」

そう話すのは、「子どもシェルターモモ」事務局の西井葉子(にしい・ようこ)さん(31)。

■法の谷間で苦しむ子どもたちをサポート

お話をお伺いした西崎宏美さん(左)と西井葉子さん(右)。モモの事務局にて

入居している子どもたちに対して、法的な支援が何故重要なのかを問うと、「子どもシェルターモモ」副理事長の西崎宏美(にしざき・ひろみ)さん(73)から、次のような答えが返ってきました。

「児童福祉法で守られる子どもの年齢は18歳未満が対象。一方で成人と認められる法的年齢は20歳以上なので、児童福祉法で守られる年齢を超え、かつ成人でもないちょうど18〜19歳の年齢の子どもたちが福祉的支援を受けられない現状がある。虐待を受けたり、ネグレクト(育児放棄)の家庭にいる子どもが親元から逃れたりといった理由で児童相談所の判断で一時保護が必要となると、児童相談所で2週間から2ヶ月の保護を受けるが、これも対象は18歳未満。18歳を過ぎてしまうと、こういった子どもの行き場はない」

さらに現在の児童福祉法では、高校を中退した場合には児童養護施設を出なければならないと定められているのだと言います。

子どもシェルター「モモの家」のリビングルーム。マンガや絵本、ボードゲームなど、子どもが楽しくくつろげるものを取り揃えている

「18歳というと、世間では自分でものを考え、意思をしっかり伝えられる年齢と見られるが、基本的な愛着が育っていない子どもたちには、ここがなかなか難しいのが現実。サポートが追いついておらず、そんな子どもたちが法の谷間で適切な支援を受けられずにいるのが、福祉政策の現実。こういった子どもたちが社会に出ると、どうしても裏社会に入りがちになってしまう。きちんと生活力をつけて、健全な社会生活ができるようにサポートしたい」と話します。

■「当たり前」は通用しない日常

自立援助ホーム「おおもと荘」で開かれたクリスマス会の様子

「子どもシェルターモモ」では、それぞれの施設に入居する子どもたちがそれぞれ、自己決定したことを本人の意志で進めていけるよう、担当の弁護士と相談しながら、法的な裏付けも含めてサポートするだけでなく、常駐するスタッフ一人ひとりが子どもと真剣に向き合い、時間をかけて子どもとの間に「信頼関係」を築くよう心がけています。

花火で遊ぶ子どもたち。親の虐待や育児放棄によりこういった「当たり前の日常」を経験せずに生きてきた子どもたちに、心安らぐ時間と楽しい思い出を提供したい、というのが「子どもシェルターモモ」の願いだ

「『腐っている食品を食べさせられた』『鉛筆で頭を刺された』『壁にぶつけられた』『酔っ払った親に椅子を投げられた』…。入居している子どもたちは皆、悲惨な状況を経験してきている。虐待などで傷つき、家庭の温かさを知らない子どもたちは、たとえ避難してきたとしても、”当たり前の環境”に馴染むことが難しい。児童養護施設を転々とした子どもたちは、誰にも気持ちを受け止めてもらえず、大人のことが嫌い、という気持ちを抱いていることがほとんど。入居した時、極端な子は包丁を持ち出して暴れたり、暴力的な態度をとったりして『ここの大人はどこまで自分を受入れてくれるのか』と試すことがある。けれど、どんな子であっても、信頼できる大人と関わることができれば、必ず変わる。自分たちが育ってきた環境とは全く違う環境で育った子どもが目の前にいるんだということを理解し、畏怖の念を持って接することが大切」(西崎さん)

■家庭を知らない子どもたちに「家族の雰囲気」を伝えたい

ホームを退所した子どもやボランティアとの交流の場として食事会を行っているモモ。子どもたちが主催で、みんなの「ばぁば」である西崎さんのサプライズ誕生日会が開催された時の一コマ

「子どもシェルターモモ」が何より大切にしているのは、家庭を知らない子どもたちに実家のように感じてもらえるような「家庭的な雰囲気」だといいます。

「常に顔は合わせていなくても、同じ空間を共有し、近くに安心できる大人がいるんだということ。家庭を感じてこなかった子どもたちだからこそ、そんな雰囲気を肌で感じ取って欲しい。

ここにいる子どもたちは、ずっと児童養護施設で過ごしていたり、実家と呼べる場所がなかったり、実家がどんなものかも、知らない子どもがほとんどです。だからこそ、私たちは彼らにとって、実家と呼べる存在でありたい」(西崎さん)。

■子どもたちの「奪われた時間」を取り戻すために

自立援助ホーム「あてんぽ」で開催したお好み焼き&もんじゃ焼き&たこ焼き会での一コマ。子どもたちが率先して焼いてくれた

お花見をしたり、夏休みにプールや旅行へ行ったり、誕生日やクリスマスを祝ったり…。多くの人が子どもの頃に経験する、ごくごく日常的な家庭の風景ですが、虐待のある家庭環境で育った子どもたちは一様にこういった「家族での楽しい経験」が皆無に等しい、と西崎さんは指摘します。

「子どもたちの『奪われた時間』は、戻らない。虐待を受け心に傷を負った子どもたちは、その過去を背負って生きていかなければならないが、その『奪われた時間』を返してあげられるのもまた、大人の役割。幼い頃に体験できなかった楽しい経験が、私たちが関わる子どもたちには必要だと感じている。経験を通じて豊かな心を育むだけでなく、『楽しみを分かち合う』ということも、感じ、学んで欲しい」

自立援助ホーム「おおもと荘」でバーベキューを行った時の様子

「子どもシェルターモモ」では、シェルターや自立援助ホームに入居する子どもたちと共にクリスマス会、花火や海水浴など季節のイベントを楽しんだり、時には一緒にたこ焼きパーティーをしたり、家庭菜園で地元の人たちと触れ合ったりといった時間を大切にしています。

ホームを巣立った子どもたちの中には、家庭を築き、父親や母親になって、子どもを連れて遊びに来る卒業生もいるといいます。

ふらっと立ち寄って何気ない話をしたり、「美容院に行くから、その間預かってほしい」「病気になってしまったから、少しだけ子どもの面倒を見てくれないか」と頼まれることもあるそうで、その関係はまさに「実家」と「親子」関係そのもののようだと取材していて感じました。

■子どもたちに「楽しい経験」を届けるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「子どもシェルターモモ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

1アイテム購入につき700円が「子どもシェルターモモ」へとチャリティーされます。集まったチャリティーは子どもに「楽しい経験」を届けるイベント開催のための費用になります。

「JAMMIN×子どもシェルターモモ」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、他にパーカーや手提げバッグ、キッズ用Tシャツなどもあり)

JAMMINがデザインしたTシャツに描かれているのは、13時までの時刻が刻まれた様々なかたちの時計。それぞれの時計は異なる時刻を指しています。時計一つひとつは子どもたち一人ひとりを、そして「13時」という、本来であれば存在しない時刻は「新しい時間を刻んでほしい」という「子どもシェルターモモ」の思いを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、2月26日〜3月4日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、「子どもシェルターモモ」の活動詳細を、写真付きで紹介しています。ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。

シェルターと自立援助ホーム運営を通じ、子どもの「奪われた時間」を取り戻す〜NPO法人子どもシェルターモモ

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

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