インターンやアルバイトでNPOに関わりを持っていた学生が企業に就職するとある違和感を覚えるという。NPOのように社会性の高い理念を掲げる企業も増えてきたが、視点の違いから、入社後に居心地の悪さを感じてしまう。「NPOインターン」のあり方から若者に選ばれる企業を考える。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■企業とNPOで異なる「人に寄り添う」
都内の私立大学に通っていたA子さんは学生時代に寺を開放することでまちづくりに取り組むNPOでインターンをしていた。人好きなA子さんはそのNPOで約3年間働き、地域住民らと交流しながらスキルを培ってきた。
就職活動では、ある建設会社から内定を得た。その会社では、「人に寄り添う」ことを理念に掲げていた。NPO活動を通じて、人に寄り添う大切さを実感していたA子さんは迷いなくその会社で働くことを決めた。
しかし、A子さんは入社して2年後にその会社を去ることになる。「人に寄り添う」という言葉は同じでも、企業ではクライアント中心に語られ、違和感を覚えたのだ。NPOが掲げた「人に寄り添う」は、協賛企業だけでなく、地域社会に暮らす住民から今はまだ生まれていない将来世代など多様な人を指していた――。
A子さんのようにNPOで働いた経験を持つ学生が企業に入ると違和感を覚えるケースは少なくない。10年前から大学生向けにNPOインターンシップのコーディネートを行うNPO法人アクションポート横浜の高城芳之代表理事(36)はその要因について、「意思決定への関与が無いから」と分析する。
「なぜその人にこの商品を売らなければいけないのか。なぜこの手続きを踏まないといけないのか。特に大きな組織になるほど、意思決定に関われなかった仕事をしないといけなくなる。腹落ちせずに働くことで、居心地の悪さを感じてしまう」
進路に悩む学生へ、高城氏は「広い視野で見ることが重要」とアドバイスを送る。「副業がしやすい時代になってきたこともあり、働きながらプロボノをする社会人も増えてきた。大手だけでなく、意思決定に関わりやすい中小を見ることも大事」。
ただ、どんな道を選ぶにしても、他責は禁物と断言する。「どこまでリスクを背負えるのか、しっかり自分と向き合って」と一言。高城氏は明治学院大学を2006年に卒業後、新卒でNPOに入った。当時、周囲にはNPOで働く友人・先輩はいなかった。親からも心配はされたが、「やりたいことをやった方がいい」と覚悟を決めた。
■企業に合わなくても「つながり」生かせる
高城氏は毎年500人弱の大学生をNPOとマッチングさせてきた。NPOインターンの良さについて、「色々な生き方を知れる」ことにあるという。
「企業でインターンすると、出会う人は社員か取引先がメインになる。でも、NPOインターンでは、職員、協働先の企業・団体の担当者、地域のおじいちゃんやおばあちゃん、子どもなどたくさんの人に出会える。人の数だけ生き方を知れて、世間体や常識に縛られなくなる」
インターンを通して多様なつながりができるので、「たとえ辞めたとしても、培ったつながりを生かせば次が見つかりやすい」と言う。
一方で、NPOインターンの課題も把握している。企業とのミスマッチもその一つだ。そこで、高城氏は5月に団体を立ち上げた。その名も、NPOインターンシップラボ。関東でNPOインターンシップを受け入れている5つの団体と一緒に設立した。
NPOインターンシップが学生や地域に与える影響などについて話し合う。高城氏は、「NPOを経験した学生が企業とミスマッチを起こすケースはよく耳にする。どうしたら防げるのかも議論したい」とする。
キックオフイベントは9月15日に駒澤大学(東京・世田谷)で開かれる。トヨタ財団の助成を受け、シンポジウムを主催する。基調講演のテーマは、「NPOインターンシップが地域で果たす役割」で、分科会では「本当に若者や地域は変わるのか」などを議論する。
全国の団体と協働しながら、NPOインターンシップのあり方を時代に応じて変えていく。高城氏は、「多くの人に集まってもらい、NPOでインターンする意義や成果について話し合いたい」と話す。
【NPOインターンシップ キックオフシンポジウム】
とき:9月15日(土)14時~17時半
ところ:駒澤大学 1号館301教室(東京都世田谷区駒沢1-23-1)
第一部 基調講演「NPOインターンシップが地域で果たす役割」
第二部 分科会
テーマ①:想いを活かせるプログラムの作り方
テーマ②:プログラムを支える運営資金~誰が出す?どう集める?~
テーマ③:NPO×学生のホンネ対談~本当に若者や地域は変わるのか!?~
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*オルタナS編集部では、学生時代にNPOで働いた経験を持ち企業で働き違和感を覚えたという人を探しています。よろしければ取材させていただけますと幸いでございます。