「ドッグセラピー」をご存知ですか?犬に触れたり、犬と遊んだりすることで安心感や癒しが得られるだけでなく、前向きな意欲の向上も期待でき、近年は医療現場だけでなく、教育現場にも取り入れられています。日本でまだドッグセラピーが知られていなかった1999年より「犬を通じて、笑顔を増やしたい」と各地の施設を訪問し、活動を続けてきたNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■老人ホームでは、犬が会話のきっかけに

愛おしそうに犬を撫でる高齢者。2018年3月中旬、京都市内の老人ホームを訪問した時の様子

京都を拠点に活動する「認定NPO法人アンビシャス」。「人と動物が共生するやさしい社会づくり」を目指し、セラピードッグを年間150回以上派遣しています。

3月中旬のある日、京都市内にある老人ホームを訪問するというので、同行させてもらいました。この日、ドッグセラピーにやってきたセラピードッグは8頭。オーナーと共にアンビシャスドッグセラピー活動認定試験に合格し「セラピードッグ」として活動する犬たちです。

この日老人ホームを訪れたアンビシャスのセラピードッグたち

会場となる一室にお年寄りの方々が集まってくると、すかさずボランティアの方たちが「犬は好きですか?」と声をかけ、輪の中へと招き入れます。犬に触れた途端、お年寄りの方の表情が生き生きとしてきます。

「どこにも行かんといてや」とずっと愛おしそうに撫でている人。「ちょっと待ってねぇ」とまるで子どもをあやすように声をかける人。中には「かわいいねえ〜。連れて帰ったろ」というおばあちゃんがいたり…。

「昔、ワシも犬飼うてたんや」「犬は好きやけど、猫も好きやで」…。犬を通じて、スタッフの方たちとも自然に会話が弾みます。

アンビシャス広報の湯浅(ゆあさ)あやのさん(52)は、ドッグセラピー活動について、次のように話します。

「セラピードッグだけを渡して、『はい、セラピーですよ』が成り立つかというとそうではない。老人ホームの入居者は、普段外部の人と接する機会の少ない方も多い。そんな人たちが、会話を楽しむきっかけを作れたら」

■オーナーとの「信頼関係」が、ドッグセラピーの極意

アンビシャス広報の湯浅あやのさん(写真右)。「セラピードッグだけを渡して『はい、セラピーですよ』は成り立たない。老人ホームの入居者は、普段外部の人と接する機会の少ない方も多い。そんな人たちが、会話を楽しむきっかけを作れたら」と話す

セラピードッグたちは、胸で抱かれながら、決して牙を剥くことなく、おとなしくその場に収まっています。

飼い主にはなついても、知らない人に触られたり、たとえ飼い主でも触られて嫌なところを触られたり気分が乗らなかったりすると、「ウーッ」となる犬が多いと思います。まるで見守るように、やさしくじっと撫でられるセラピードッグたち。「犬たちはつらかったり、ストレスに感じたりしていないのか?」つい感じた疑問を、湯浅さんにぶつけてみました。

セラピードッグを介してスタッフとの間の会話も弾み、高齢者の方たちの表情が生き生きと輝いてくる

「たくさんの人に触られるということは、決して楽なことではないけれど、彼らもそれなりに役割を理解し、やりがいを感じてこの仕事をしている。この活動をする上で大切なことは、セラピードッグと、オーナーである私たちが“信頼関係”をしっかり築いていること。トレーニングを重ねて信頼関係があれば、セラピードッグは、たとえ知らない場所で知らない人と接しても、『飼い主はあそこにいる』『飼い主がここにステイしなさいと言っているから大丈夫』と安心感を持ち、リラックスした状態でその場にいることができる。活動を始めて20年になるが、アンビシャスのセラピードッグたちが人を噛んだことはこれまで一度もない」

■トレーニングによって鍛えられた「安心」と「信頼感」

ドッグセラピーは、セラピードッグだけでも、飼い主だけでも、利用者だけでも成り立たない。「三角関係があって初めて成り立つもの」と湯浅さん

信頼関係を築くために、一体どんなトレーニングをしているのでしょうか。アンビシャス理事長の松岡幸子(まつおか・さちこ)さん(61)にも話を聞きました。

「極端な話をすれば、”おすわり”や”お手”を無理にさせるのではなく、犬が状況を理解した上で動けるように訓練すること、そのために共にトレーニングを積む、ということ。“人間が一方的に犬をトレーニングする”という意識よりも人間も”しっかりと犬と向き合う”という覚悟が必要で、犬のトレーニングというよりは、オーナーと二人三脚で、信頼を築くためのトレーニング。たくさんの方が犬に触れるドッグセラピーの現場は、毎回、そして毎瞬が勝負。犬には牙があるので、未熟なトレーニングで現場へ行くと、誰かを傷つけかねない。そうすると、次はないという緊張感で常に挑んでいる」

■犬に触れた人たちの笑顔が、活動のモチベーション

利用者の方と話す、アンビシャス理事長の松岡幸子さん。現場全体を常に把握しながら、スタッフと連携し、利用者の方たちが一人にならないよう声がけをかかさない姿が印象的だった

決して容易ではないドッグセラピーの活動。どうしてこの活動を続けているのか、モチベーションを聞いてみました。

「犬を通じて、誰かを笑顔にしたい、というのが一番大きい。あとは、待ってくれている人たちがいるというのも大きい。犬は、私たちの生活に癒しを与えてくれる存在。こんな素敵な経験を、独り占めしておくのはもったいない。できる限りいろんな場所へ行って、犬に触れてもらって、笑顔になってほしい」(湯浅さん)

近年、イベントを主催するなどして「ペットと防災」に関する啓発活動にも力を入れる。「災害が起きた時、大切なペットと避難所で一緒に生活するために必要になるのは、しつけや飼い主との信頼関係。本当に大切なペットだからこそ、何かあった時のことを考えておいてほしい」と湯浅さん

「『犬ごときに何ができるんだ』という批判も受けてきたが、私たちは決して中途半端な気持ちでこの活動をしていないし、犬を通じて笑顔になったり、活力を得たりする人たちをこれまでたくさん見てきた。

犬だからこそ心の機微に触れ、癒しを担える部分があると信じているし、皆さんが笑顔になることで、私たちもいつも元気をもらっている」(松岡さん)

■「ありのままを受け入れる」犬の力を、子ども向けプログラムにも

京都医療少年院にて「動物介在授業」をセラピードッグと共に担当している

最近では、老人ホームやホスピスだけでなく、行政から依頼を受けて京都医療少年院を訪問したり、小学生向けにいのちの大切さを教える授業を実施したりしているアンビシャス。

「犬と一緒にいると、子どもたちがリラックスして落ち着いた、年相応の顔になる」と子どもを指導する大人たちが驚くことがあるといいます。

「人間は、どこかで人を色眼鏡で見てしまうようなところがあるけれど、犬はその人の見た目や属性、経歴などは一切気にせずに、ただ純粋に“その人”を受け入れてくれる。そのことが、大人だけでなく子どもにも、どこか心安らぐ瞬間を与えているのではないか」と松岡さんは話します。

セラピードッグとふれあう子ども。初めはおっかなびっくりでも、徐々に視線を合わせてふれあうようになる

「最近の子どもたちは、ゲームなどの影響で、いのちの大切さを感じる機会が極端に減っている。小学生たちと一緒に犬の心音を聞くと『わあ、本当に動いてる』や『生きてる!』という反応が返ってくる。自分より小さないのちの存在を目の当たりにして、いのちの尊さや重さを感じてほしい」と湯浅さん。セラピードッグを通じて、いのちの大切さを子どもたちが実感できる場を提供していきたいと話します。

■セラピードッグの活躍を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)はアンビシャスと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

1アイテム購入につき700円がアンビシャスへとチャリティーされ、今後セラピードッグとして活躍できる犬を増やしたり、活動の質を高めていくために、セラピードッグ育成のための資金となります。

「JAMMIN×アンビシャス」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなどもあり)

JAMMINがデザインしたチャリティーアイテムに描かれているのは、ネクタイやリボン、カバンを身につけた愛らしくたくましいセラピードッグの姿。犬が人間と同様に、社会に必要な役割を担っている姿を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、4月2日〜4月8日までの1週間。JAMMIホームページから購入できます。

特集ページでは、訪問した老人ホームでのドッグセラピーの様子や活動について、より詳しく掲載中!
こちらあわせてチェックしてみてくださいね。

「犬だから、できること」。セラピードッグを通じ、人間と犬が共に豊かに生きられる社会を目指す〜NPO法人アンビシャス

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

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