昔から、人間と共存しながら同じ地球上で生きてきた野生動物たち。彼らが生きる場所は、決してジャングルや未開の土地に限ったことではありません。私たちが暮らす足元にも、息づく小さないのちがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
都会では、その存在を感じることは少ないかもしれません。しかし、人間中心の街の中で、傷ついたり命を落としてしまう生き物たちがいます。沖縄で、絶滅の危機にある野鳥「ヤンバルクイナ」を守りながら、野生動物の救護活動にあたっているNPOを紹介します。
■年間150以上の野生動物を保護
沖縄で活動する「どうぶつたちの病院 沖縄」。琉球弧(沖縄の島々)に生息する希少な野生動物を守るため、年間150を超える傷ついた野生動物を受け入れて治療やリハビリを行うほか、野生動物と人間が共存できる島を目指し、啓発や研究活動、政策提言を行うNPO法人です。
「沖縄には固有の野生動物が多く、さらに北の繁殖地と南の越冬地を行き来する多くの渡り鳥が中継地として飛来する。一方で、島であるために哺乳類の数は少なく、救護するのは野鳥が7割」
そう語るのは、「どうぶつたちの病院 沖縄」代表の長嶺隆(ながみね・たかし)先生(55)。獣医師として、これまでたくさんの傷ついた野生動物の救護にあたってきました。一体どんなことが原因で野生動物が傷つき、先生のもとへ運ばれてくるのかを尋ねると、次のような答えが返ってきました。
「多くは、人為的な影響によって傷ついた動物たち。交通事故や側溝への転落、電線やガラスへの衝突、農薬による中毒で命を落としたり、森や街の中で犬や猫に襲われたり、建物の窓ガラスに誤って衝突して翼を骨折する野鳥も少なくない。また、釣り人が放置した釣り針を飲み込んだり、ルアーにひっかかって釣り糸が巻きついたり、ネズミを捕獲する『ネズミ捕りモチ』にひっかかって自力で逃げられなくなる動物もいる」
■人間が、意図せず野生動物を傷つけている現実
「人間にとって生きやすい環境が、野生動物にとってもそうかというと、決してそうではない」と長嶺先生は指摘します。
「たとえば、私たちが保護に力を入れている、沖縄だけに生息する絶滅危惧種の野鳥『ヤンバルクイナ』は、日本で唯一の飛べない鳥。ヤンバルクイナが生息する『やんばるの森』にはキツネやイタチのような肉食の哺乳類が存在せず、やさしい森の生態系の中でのんびりと過ごすことができたため、彼らは飛ばないという進化を選んだ」
ところが、人間がハブ退治のために放ったマングースや捨てられた猫などによって捕食され、その数はどんどん減少していった。2005年には生息数はおよそ700羽にまで減り、いよいよ絶滅の危機に陥った。持ち込まれた外来種によって生態系のバランスが崩れ、次第に姿を消していったヤンバルクイナ。当時、最悪のシナリオでは「2020年にはヤンバルクイナは絶滅する」と言われていたといいます。
■目の前で失われていった自然
長嶺先生が小学生だった1972年、沖縄が日本に返還されました。それに伴って地域の開発が進み、徐々に沖縄の海が自然の姿を失っていく姿を、当時まだ幼かった長嶺先生は目の当たりにしていました。
「干潟がどんどん埋め立てられ、毎年そこを訪れていた数千羽の鳥たちは居場所を失っていった。目の前の自然が失われ、それと共に海鳥たちも視界から姿を消した。有名な場所があるわけでも、有名な野生動物がいるわけでもないけれど、僕にとってはかけがえの無い場所で、本当に素晴らしい自然がそこには広がっていた。この自然を失ったことは、深い悲しみだった」。そう当時を振り返ります。
獣医師になり、沖縄を離れて仕事をしていましたが、2001年に沖縄に戻って来た時、「ヤンバルクイナが絶滅の危機に瀕している」という話を聞き、これを他人事として受け止めることができなかったといいます。
「子どもの頃、目の前で失われてしまった自然と野生動物の記憶が、絶滅の危機にあるヤンバルクイナの姿と重なった。このままだと、あの時と同じことが起きてしまう。右も左もわからない中でなんとかしようと動き出したのが、活動の原点」と振り返ります。
■排除ではなく、共存できる道を
ヤンバルクイナの生息数が減少している理由のひとつは、猫でした。ヤンバルクイナが暮らす「やんばるの森」には、もともと猫は生息していません。捨てられたペットの猫が繁殖し、ヤンバルクイナを捕食していたのです。
「猫は繁殖力の高い生き物。暖かい沖縄では年間3回も出産することもある。飼い主が避妊手術や去勢手術をしないで放し飼いすると、数がどんどん増えて森に捨てられる猫が増え、結果的にヤンバルクイナの命が危険にさらされることになる」と長嶺先生。「捨てられた猫に罪はない」と、森にいた猫たち保護して里親を探す活動を続け、2004年から現在まで保護した猫の数は1,100頭に上ります。
保護活動を続けながら見えてきたのは、人間の身勝手な行動でした。やんばるの海に訪れたついでに、ゴミと一緒に犬猫をポンとその辺に捨てて帰っていく人たち。この行動が、犬猫だけでなくその地域に生息する野生動物の減少につながっている現実──。
怒りにも似た思いを抱いた長嶺先生はある時、やんばるの森に囲まれた国頭村(くにがみそん)安田(あだ)の地元住民たちに「よその人たちを、もうここのビーチに入れないでおこうよ」と提案したことがあるといいます。
地元住民たちから返ってきたのは、意外な言葉でした。「海は自分たちだけのものではない。みんなのものだ」。彼らは、そう言ったのです。
「安田の人たちは、他人のことを言う前に、まずは自分たちがペットを正しく飼えているのだろうか、胸を張ってきちんとしていると言えるのかと自らに問うた。そして『集落の猫は、飼い主が責任を持とう』と、ペットの猫の避妊・去勢を徹底し、また飼い猫には1センチ×1ミリほどの小さなマイクロチップを埋め込んで、飼育登録を義務付けるなど管理を徹底した。排除することが正解ではないんだということを、安田の人たちから教えられた」と振り返ります。
■野生動物との「共存」を目指して
ヤンバルクイナは、残された時間があまりありません。絶滅から守るために、引き続き保護していく必要がありますが、「何もヤンバルクイナに限った話ではない」と長嶺先生は警鐘を鳴らします。
「街の中にいる野生のコウモリやスズメも、ヤンバルクイナと同じ運命をたどる可能性が無いとはいえない。人間は誰も、身近に存在する小さな生き物たち──タナゴやミミズ、モグラを殺しているつもりもないし、裏切っているつもりはないかもしれない。けれど『こんな生き物、どこにでもいるじゃないか』という過信が、いろんな地域で面で広がっていった時、それはその生き物が絶滅へと向かっていくことを意味する」
「僕たちは、この地球で共存している。僕たちもここに暮らしているけれど、野生動物が居てはいけない理由はどこにもない。棲み分けも含め、人間と野生動物たちが共存できる世界が広がっていくことを願っている。生き物にも子どもたちにも、地球の自然を享受する権利がある。これは、野生動物たちとの約束であり、次世代を生きる人間との約束。この約束を、僕たちは果たして守れているだろうか?」
「生き物を失うことは、次世代のチャンスを失うこと。実はすでに僕たちは、野生動物の声や姿、しぐさに救われているけれど、僕たちが彼らの声に耳を傾け、手を貸す時、必ず彼らも僕たちを助けてくれる。何年か先の未来で、私たちが野生動物に救われるタイミングが、きっと来る」
■野生動物の救護を支援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「どうぶつたちの病院 沖縄」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
1アイテム購入につき700円が「どうぶつたちの病院 沖縄」へとチャリティーされ、保護した野生動物の手術や薬、餌代として、治療やリハビリのための資金になります。
JAMMINがデザインしたチャリティーアイテムに描かれているのは、沖縄に生息する「ヤンバルクイナ」「イリオモテヤマネコ」「オオコウモリ」「ケナガネズミ」「リュウキュウヤマガメ」「ノグチゲラ」の6種類の野生動物。
「地球の上には人間だけが存在するのではなく、野生動物と共に生き、そしてまた私たちは、彼らに生かされているんだよ」というメッセージと、つながりの中で生きる地球上の生き物の姿を描くために、曼荼羅のような深い世界観を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、4月16日〜4月22日までの1週間。JAMMINホームページより購入できます。
特集ページでは、動物をこよなく愛する長嶺先生のより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・野生動物の命を救え!野生動物と人間が安心して「共存」できる地域を目指して〜どうぶつたちの病院 沖縄
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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