タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆埼玉問題
軽トラは清里を抜け山藤が紫に咲き乱れる街道を小海線の線路と平行に走ってからJRの最高地に位置する野辺山駅を過ぎると蒸気機関車の尻と灰色の煙が見えた。しばらく機関車の後を追ってから八ヶ岳に別れを告げて右に折れると広大な農場が広がった。
レタス畑の川上村だ。車は秩父山系を緩やかに登り始めた。緑したたる九十九折をよたよたとかれこれ2時間ほど登ると瓦礫混じりの山道はどんどん狭くなって下ったり登ったりの悪路が続く。急流が右になったり左になったりして眼下を走る。下り道だ。先方に軽トラでもやっと入れる真っ暗なトンネルが現れ、それを抜けるとすでに高度がかなり下がっていることが分かる。気圧で耳がおかしい。アクビをするように大口を開けると耳が通ったから軽トラの音がやたらうるさい。
熱くなってきた。麓の食堂でうどんを食べて秩父の街を縫ってまた山に入った。小さな川を幾つか渡って大きな川を渡ると平地が広がり埼玉らしい緑になった。
携帯電話で何回かやり取りをしながら、本山市に入り、コンビニの駐車場で待っていた杉山と会ってから現地に向かった。杉山は太っていた。啓介も太り気味で、末広はもっと太っているが、杉山は背が低く、太り方はなんだか穏やかだ。そして細い目がいつも笑っているように見える。二台の軽トラは連なって走り、学校を抜けて現地に着いた。畑は意外に手入れが整っていた。
「許可が出ないんですよ」
ため息をつきながら言葉を掃き出す杉山を見て「なんで出ないのですか?」こう言って啓介ははっとした。自分は農地法自体をなにも知らないじゃないか。
「なんでって、、、、」杉山は怪訝な顔になった。
「すみません」啓介は杉山の言葉が終わらない内に謝った。「なにも知らないんです。末広が直ぐ応援に行けって、、、声はお前の方がでかい、なんて言われて、、、すみません」
杉山は落胆したように微笑んだ「実は私もよくわかっていないんですよ。
農業委員会の人が色々相談に乗ってくれているのかと思っていたので、言われるままにしていたのです」杉山は言葉を切った。そして息を吸うと「だけど最近おかしいって思い出したのです。人を疑うのは良くないと思っていましたが、騙されているのではないかと思い始めて末広さんに電話をしたのです」杉山の語尾が震えた。杉山は眼鏡を取るとと目をこすった。
「農学博士の杉山さんがなぜ騙されたのですか」
「私は農作物の専門家です。自分の理想とする農業をしたいのでこの本山市に来ました。しかし農業に関する規則の事には興味がなかったので、農業委員会の事務員の言うままにしたのがよくなかたのでしょう」
と言ってから杉山は「何かこの不許可には裏があると思うのです」
■この続きは4月23日に更新いたします。