「日本の看板の7割は違反・無許可で取り付けられている。長期間、定期メンテナンスもされていない」――。こう話すのは、静岡市にある看板製作業者アオイネオンの荻野隆・CSR統括マネージャー。看板の多くは1980年代後半のバブル期に建てられ、強風や台風など天候の荒れによって劣化が加速。「看板下を歩くことはかなり危険だ」と強く警告する荻野氏に意外と知られていない看板の問題を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■外観はきれいだが、鉄骨はボロボロ
日本で看板を取り付けるためには、広告主が守らなければいけない法律がいくつかある。建築基準法では、看板の高さが4メートルを超える場合は、「工作物確認申請」という構造の審査を必須としている。
突出看板で、敷地外に突き出た場合は、「道路占用許可申請」の届出を出さなければいけない。さらに、各自治体が定めた屋外広告物条例・都市景観条例では、届出の義務とともに看板の色合いや大きさを制限しているため、それらを遵守して看板を製作しなければいけない。このようにして許可を得た看板は、2~~3年ごとに許可更新の手続きと共に安全点検の報告を提出しなければならない。
公益社団法人日本サイン協会によると、これらの法令を遵守している看板はわずか3割程度とする。
なぜ全国的に違反が蔓延しているのか。その理由は、違反を取り締まる「行政」、看板を製作する「看板業者」、看板を掲出する「広告主」にそれぞれある。行政としては、人手不足が原因で取り締まることができていない。一部の違法看板業者は、取り締まりがほとんど実施されていないため、違反を「やり得」とみなしている。多くの広告主は自身の違反に気づいていないという実態があるという。
広告主は法に則り各種の届出を出すと製作費のほかに数十万円の費用が掛かる場合もあり、更に安全点検の費用も負担しなければいけない。
「大きさや色合いを制限された上で、それらのコストを支払うことを嫌がる広告主は少なくない。無許可で取り付けてくれる看板業者に乗り換えることもある」(荻野氏)
多くの看板は1980年代後半のバブル期に取り付けられたという。看板の中は空洞であり、雨水が貯まりやすい。老朽化した看板は悪天候によってサビつき、落下しやすい。
荻野氏は、落下するのは、「施工の時点で安全基準を満たしていないこと」「管理をせずに放置されていること」の2つが大きな原因だと指摘。
2020年にオリンピック・パラリンピックを控える東京では、多くの外国人が来ることが予想されている。都は建物の耐震性には気を配るが、荻野氏は「看板のほうがよっぽど危険。看板の確認をせずに安全な都市にはなれない」と強調する。
■安全・順法・景観守るイニシアチブ発足を目指す
一方で、看板の安全化へ向けた取り組みも起きている。日本サイン協会では、広告主が看板の安全や法律、景観を守ることを宣言し、それを自治体の首長が認定するというイニシアチブの立ち上げを模索中。「サステナブル・リーガル・サイン」と名付け実現に向け協力者を募っている。
荻野氏が働くアオイネオン社でも、CSR(企業の社会対応力)活動として、看板内部を内視鏡カメラで検査するサービス「看板ドクター」などを10年前から行う。
継続するのは、看板製作業者として絶対に違反を犯したくないという経営者のモラルと、その事業の公共性の高さにある。10年掛けて、8000件以上を検診し、その内814の危険な看板を見つけ出した。この状況を変えるためには、荻野氏は業界全体で意識を変えていくことが必要と考える。
取材中、荻野氏は看板の危険性を再三指摘した。「安全に取り付けられていると思い込んでしまうのは間違い。看板下が小学生の通学路になっていることもある。意外と知られていない看板の問題を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と訴えた。