北海道十勝地方にある大樹町、この街にも他の地方自治体のように人手不足や人口減少が起きていた。そんな中、大樹町役場はユニークな移住・定住促進を行っていた。キーワードは、「宇宙の町に人を集めろ」だ。(武蔵大学松本ゼミ支局=小保方 紀瑛・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
宇宙関連の実験を積極的に誘致し、「宇宙のまちづくり」を標榜する大樹町。町に入った瞬間から、「宇宙」の文字がたくさん目に飛び込んできた。しかし、そんな特色のある町にも人口減少の波は押し寄せていた。そしてそれは十勝地方で盛んに行われている酪農の担い手不足にもつながっている。
このなかで大樹町では、都市部の若手芸術家を迎え入れ生活してもらう「若手芸術家地域担い手育成事業」を始めた。これは美大などを卒業した者のなかなか芸術家としてのキャリアを生かせない都市部の若者と、後継者や人手不足で休みも取りづらくなってしまっている地方の産業界をマッチさせたものだ。
この事業では、若手芸術家地域担い手育成連絡協議会を形成し、酪農のヘルパーや畑作、肉牛などの飼育などや商工業などにマッチングをする。そのなかで、若手芸術家は、休日や仕事の合間に創作活動を行う。
まちからも、児童館などの遊休施設を提供し、1年後に展覧会を支援するなどのサポートを受けることができる。この事業で来た芸術家が絵画教室を行うなど、都心部に比べて芸術と触れ合う機会がなかった大樹町がアートで彩られるようになったという。
大樹町はワークステイプログラムも行っている。地方で暮らす決断をすることは、なかなか難しい。そのような人のために気軽に地方での暮らしを体験してもらうというのがこのプログラムだ。毎年様々な人がこの制度を利用し、地方での暮らしをテレワークで働きながら体験している。
宇宙を軸に特色のあるまちづくりを行う大樹町が、移住・定住という面でも特色のある取り組みを行っていることが分かった。しかも、それは大樹町の人口減少を食い止めるということだけではない。
「若手芸術家地域担い手事業」では、都市部で活躍の場がない若手芸術家に、活躍の場を提供でき、大樹町のもともといた住民も芸術に触れる機会を得られる。ワークステイプログラムでも参加者は、完全に移住を決める前に短期間でも住んでみることができる。
大樹町としても、都市で働いていたITスキルを持った人の力を借りることができる。両者に利のある移住定住政策だ。地方と人口減少は、もはやセットともいえるような問題の一つではあるが、大樹町の移住・定住政策は、それを食い止めるお手本になるかもしれない。