選択的シングルマザー(※SMCと略す)への注目が高まっている。2015年5月にオルタナSに掲載した記事『「幸せは人それぞれ」――選択的シングルマザーという生き方』は反響を呼び、その後はテレビなどでも大きく取り上げられるようになった。しかし、SMCの実態を正確に伝えているメディアは少なく、誤った理解が拡がっているのが実情だ。そこで、日本で唯一のSMCを研究・情報提供している「SMCネット」を運営する「女性と子育て研究所」による連載をスタートする。同団体が連載を受入れたのは初であり、複数回に渡ってSMCについて解説する。

こんにちは。女性と子育て研究所代表兼SMCネット主宰の高田真里です。前回は日本の出生率や、選択的シングルマザーの定義などを解説しました。2回目となる今回は実際に選択的シングルマザーを選んだ女性(SMC)と、選択的シングルマザーを希望する女性(SMC Thinker)について、いくつかのケースを紹介したいと思います。

都内で行われたSMCネットのオフ会風景(2018年3月)

【ケース1・SMC/A子さん】
(出産年齢30代後半 恋人との性交渉 会社経営 大学院卒 年収1000万 児童扶養手当受給なし)

A子さんは5年ほど交際していた同い年の恋人がいましたが、お互いに真剣な交際ながらも結婚願望はありませんでした。

そのような中、学生時代の友人が亡くなったのをきっかけに、自分の人生を見つめ直し、「子どもを産みたい」と強く考えるようになりました。しかし、同い年の恋人は離婚歴があって再婚には消極的だったことや、もし結婚するならば「専業主婦」になることが条件だったことから、仕事を辞めて結婚という選択は難しかったそうです。

そこで、2年近く時間をかけて2人で将来を話し合った結果、非婚で子どもを持つという結論に至り、その後、妊娠・出産をしました。出産後は仕事を続け、育児は母親やベビーシッターにサポートしてもらったそうです。

子どもの父親とは出産から数年後に恋人関係を解消しましたが、妊娠前に様々なことを話し合っていたこともあり、特に揉めることはありませんでした。

【ケース2・SMC/B子さん】
(出産年齢30代後半 精子バンク利用 外資系企業勤務 大学卒 年収800万 児童扶養手当受給なし)

B子さんは10年近く遠距離恋愛をしていて、年齢的にもそろそろ結婚の時期かもと考え始めた矢先に失恋。しかし、これから婚活するのでは、出産のタイムミットに間に合わなくなると感じてSMCになることを決意。

妊娠にあたっては精子バンクを利用することを選びました。外資系企業に勤務していたことから本社のあるアメリカに出張した時の休日を利用して精子バンクへ。ここの精子バンクでは人種や身長、IQや学歴等、細かい指定をするほど費用が加算されるシステムでした。

B子さんは日系人のドナー(精子提供者)を希望しましたが、精子バンクに登録している日系人が少なかったことから、あまり細かい指定まではしなかったそうです。そして精子提供による人工授精を行い、1度目はうまくいかずに2度目で成功。

妊娠に至るまでに新車一台分くらいの費用がかかったそうですが、念願の子どもを授かることができて幸せだと言います。そして、現在も妊娠前と同じ外資系企業に勤務しながら子育てをしています。

【ケース3・SMC Thinker/ C子さん】 
(30代前半 教員 大学卒 年収500万)

C子さんは幼少期に厳格で支配的な父親の顔色に怯えながら暮らしていました。父親は母親に暴力をふるうこともあり、専業主婦だった母親は「離婚したら子どもを育てられないから我慢するしかない」といつも言っていたそうです。

そのような環境で育ったせいか、中学生や高校生になっても男子を好きになることはなく、嫌悪感も感じていました。これまで一度も男性と交際したことはなく、このようなことから心療内科でカウンセリングを受けたこともありますが、男性に対する恐怖心や嫌悪感を克服することはできなかったそうです。

C子さんは結婚を諦めていますが、家族は欲しいと考えており、里親や養子縁組を検討。しかし、いまの日本ではシングルの女性が里親や養親になることができないことから、精子提供を受けて出産したいと考えています。

【ケース4・SMC Thinker/D子さん】
(30代前半 会社員 大学卒 年収800万)

D子さんは、これまでに結婚したいと思うような男性に巡り会ったことがなく、好きになる人と結婚したい人がなかなか一致しないことに悩んでいます。

現在、お付き合いしている男性はいるものの、結婚は考えられないそうです。D子さんは結婚しても仕事は続けたいと考えていますが、全国転勤のある職場のため、結局は夫婦別々に暮らすことになりそうだと思っています。

そうすると結婚する意味があるのかと考えてしまうそうです。しかし、30代になり、出産と子育てを考えると年齢的な猶予はあまりありません。現在の職場は福利厚生も整っていてシングルマザーも多いので、もしSMCになっても1人で育てる不安はないとのこと。現在、いろいろな選択肢を視野に入れながら、精子バンクの情報を集めています。

休日に娘と料理をする執筆者の高田

上記で紹介したのは一部のケースですが、この他には、男性にも女性にも恋愛感情を持たないアセクシャル(無性愛者=他者に対して恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かない)で、海外の精子バンクを利用して出産したE子さんや、恋人との間で体外受精を利用して出産に至ったF子さんなど、様々なケースがあります。

仕事が多忙で男性との出会いの機会がなく、結婚を諦めていたSMC Thinkerの方もいたのですが、この方は情報収集をするためにSMCネットのオフ会に参加した数ヶ月後に電撃的な恋に落ちて結婚しました。現在は充実した毎日を送っているそうです。

このように、SMCを選んだ女性にもSMC Thinkerの女性にも様々な背景や思いがあります。SMCネットではこれまでにネット上のコミュニティ運営の他、不定期でオフ会を開催してきました。そして、交流を通じてたくさんのSMCやSMC Thinkerの声を聞いてきました。

その中には、男性恐怖症のC子さんやアセクシャルのE子さんのように、特別な事情からSMCを選ぶ方もいましたが、私が知るSMCやSMC Thinkerの多くが、一般的な恋愛をしてきた女性です。

決して「結婚はしたくないけれど子どもだけは欲しい」という思いからSMCを選ぶのではなく、タイミングや状況が違えば結婚という選択肢もあったと考えている女性が大半です。

そして、その女性たちに共通しているのは、自分の人生に対して真摯に向き合い、長い時間をかけて結論を出していることです。SMCになることを考え始めてから、数年をかけて検討している人ばかりなのです。それほど、SMCという選択は簡単にできるものではなく、相当な覚悟と計画性が必要なものだと言えます。(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)


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