世間はワールドカップ開催の真っ最中。日本代表の試合観戦で今日は寝不足、なんて方も多いのではないでしょうか。世界中のファンを熱狂させるサッカーですが、今回ご紹介するのは、少し変わったサッカーです。目が見えない状態でプレーするサッカー、その名も「ブラインドサッカー」。2020年に東京で開催されるパラリンピックの種目の一つで、日本国内での注目も高まっています。ブラインドサッカーの魅力に迫りました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■見えない分、イメージをフル活用

ブラインドサッカーの試合の様子。ゴールキーパーを除く選手はアイマスクを着用し、目が見えない状態でのプレーを義務付けられる。まさに感覚だけが頼りだ

「NPO法人日本ブラインドサッカー協会」(東京)は、日本の視覚障がい者サッカーを統括する団体です。協会スタッフの高橋めぐみさん(25)によると、アイマスクを着用し、目が見えない状態でプレーするため、試合には「聴覚」が大きなカギになるといいます。

フェンス際の競り合いが、ブラインドサッカーの見所の一つ。昨年3月、品川区で開催された「ワールドグランプリ」で、日本VSトルコの試合の一コマ

もうひとつ、試合を進めるカギは「イメージ」。ブラインドサッカー選手で、日本代表選手にも選出された寺西一さん(28)は、次のように語ります。

「試合中の展開はめまぐるしく変化する。目が見えない分、今の状況を把握した上で『敵はこう来るんじゃないか』とか『こう動くだろうな』と相手の先の動きを予測しながらプレーすることも重要」

■試合中は黙って観戦がマナー。ただし、ゴールが入った瞬間は別

左から、ブラインドサッカーチームで監督を務める土屋由奈さん、ブラインドサッカー選手の寺西一さん、日本ブラインドサッカー協会の高橋めぐみさん

では、観客にはブラインドサッカーの試合はどう映るのでしょうか。ブラインドサッカーの魅力にとりつかれ、現在は資格を取ってブラインドサッカーチームの監督も務める土屋由奈さん(25)は、初めてブラインドサッカーを見たときの感動を次のように語ります。

「目の見えない中でどうやってサッカーができるのか、最初は衝撃だった。見えないのに選手間でパスが通ったり、点が入ったりするのが、すごく新鮮に映った」

所属するブラインドサッカーチーム「松戸・乃木坂ユナイテッド」(千葉・東京で活動)でプレーする寺崎さん。スピード感と試合会場の緊迫した雰囲気は、サッカーに引けをとらない

高橋さんによると、試合中は選手同士や5人いるプレーヤーの中で唯一目が見えるゴールキーパー、「ガイド」と呼ばれるゴールまでの距離や角度を伝える役割の人が声を掛け合い、選手たちに今いる位置や指示を伝えます。こうすることで、目が見えない状態であっても、選手たちはコート内を自由に動くことができます。

観客の声援によってこの掛け声がかき消されてしまうため、試合中、原則として観客は声を出さないで観戦するのがマナーです。

「ただし、点が入った瞬間だけは別。わーっ!とファンも声を出して一緒に喜びを分かち合う。これがすごくいい」(土屋さん)

観客席の様子。プレーが切れた瞬間が応援のチャンス!

「試合中声援がない分、観客の方は選手同士がどんな掛け声を出しているのかがダイレクトに聞こえる。観客は黙っている一方で、コートの中はめちゃくちゃうるさい(笑)。どんな声を出していて、選手たちがどの声を拾ってどう動くのか。よりリアルな、白熱した雰囲気を楽しんでもらえるのでは」(寺西さん)

■音のなるボール、ガイドの存在…ブラインドサッカーの特徴

ブラインドサッカーは、フットサル(5人制サッカー)をもとにルールが作られています。試合時間は、前半20分、後半20分の計40分。ゴールキーパー以外のフィールドプレーヤーは全盲の選手、もしくはアイマスクをつけた状態で、晴眼者(視覚に障がいのない者)もプレーできますが、世界大会などの国際的な大会では、フィールドプレーヤーは視覚障がい者であることが参加の条件となります。

ブラインドサッカーのルール(「日本ブラインドサッカー協会」ホームページから)

視覚障がい者、晴眼者もアイマスクを着用し、まったく目が見えない状態でプレーするため、試合には以下の3つの大きな特徴があります。

一つめは、「音の鳴るボール」。ボールの位置や転がりをプレーヤーが把握できるよう、転がると音がなるボールを使用します。

二つめは、「ガイド(コーラー)」と呼ばれる「晴眼者の協力」。攻めの場面で、ゴールまでの位置や距離、シュートまでの角度やタイミングを声で伝え、正確なシュートをサポートします。

自らも盲学校のブラインドサッカーチーム「free bird mejirodai」に所属し、ガイドとして活躍する高橋さん。ゴール横から、選手たちに的確な指示を出す

三つ目は、「Voy(ボイ)!」という掛け声。これはスペイン語で「行く」という意味で、フィールドで戦う選手がボールを持った相手に向かって行く時、自らの存在を相手の選手に声を出して知らせ、危険な衝突を避けるために必要となります。このルールを破ると、ファウルを取られてしまいます。

■「自由に動ける」。初めてプレーした時に感じたこと

今年3月に品川区天王洲で開催されたワールドグランプリで、日本代表選手に選出されDF(ディフェンス)として活躍する寺西さん。対戦国はフランス

ブラインドサッカー日本代表にも選出された寺西さんがブラインドサッカーを始めたのは、中学2年の頃。視覚障がい者の学校の寮で生活していた寺西さんは、そこでブラインドサッカーチームと出会います。

「最初に話を聞いたときは、見えない状態でサッカーができるなんて、信じられないと思った。どんなものかまったく想像もつかなかったので、試しにやってみようと軽い気持ちでやってたら、とにかく『動ける!』と感じた。サッカーは初心者だったが、他のブラインドスポーツと比べて圧倒的に自由に動けるという感覚があった」

「視覚障がい者向けのバレーボールやテニス、卓球などネット型のスポーツは、ネットにぶつかったりもしてしまうので、動きが制限されてしまうところがある。ブラインドサッカーにはそれがなかった。自由度が高いと感じた」と当時を振り返ります。

■ブラインドサッカーを通じて、世界が広がった

こうしてブラインドサッカーと運命的な出会いを果たした寺西さんですが、そのチームは学校の部活動ではなく有志のチームだったため、途中でなくなってしまいます。

小学生にブラインドサッカーの指導をする寺西さん。「障がいのあるなしにとどまらず、コミュニケーションをとりながら相手のことを知り、理解することは必ず役に立つはず」と語る

「ブラインドサッカーを続けるためには、遠出して練習に参加する必要が出てきた。それまでは学校の中だけで完結していたのが、1人で電車に乗って練習場所へ行ったり、年上の人に出会ったり、ブラインドサッカーを続けることで学校の外の世界を知った」

「『人に会わなきゃいけない』とか『外に出なきゃいけない』という意識ではなく、大好きなブラインドサッカーを続けていたら、自然と世界が広がっていった。僕が経験した、“世界は広がる”ということを、視覚障がいのある子どもたちや目が見えなくなって間もないない人たちにも知ってほしい。そして夢を与えたい」(寺西さん)

■障がいの有無に関係なく相手を知り、理解し、分かち合える

学生時代、サッカー部のマネージャーをしていたという日本ブラインドサッカー協会の高橋さん。現在は、ブラインドサッカーチームにガイドとして所属もしています。

「ブラインドサッカーは、視覚障がいのある人もない人も、一緒になって楽しめるスポーツ。チームメイトの関係やロッカールームの雰囲気は、普通のサッカーチームの雰囲気と何も変わらない。他愛ない話で盛り上がったり、『目が見えないから、友達の誕生日プレゼント一緒に選んでよ!』といわれてプレゼントを買いにいったり。スポーツを通じて共に喜んだり悔しんだり、同じように分かち合うことに、障がいのあるなしは特に関係ないと感じさせてくれるのも、ブラインドサッカーの大きな魅力」と語ります。

一人の選手として活躍しながら、ブラインドサッカーの普及に務める寺西さん。その理由を、次のように語ってくれました。

「そんなに障がいを抱えなくても、みんなで支えて、分かち合って生きていけるということを、ブラインドサッカーを通じて知ってほしい。これこそ僕が、ブラインドサッカーの発展に携わる大きな理由」

■ブラインドサッカーを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「日本ブラインドサッカー協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×日本ブラインドサッカー協会」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、子ども用のブラインドサッカー専用ボール開発のための資金となります。

こちらがブラインドサッカーのボール。転がると音が鳴る仕組みだ

「現在、ブラインドサッカーで使用するボールは1サイズのみだが、小学生がブラインドサッカーを始めるにはサイズが少し大きい。また、音が鳴る仕組みになっているためボールの表面が通常のサッカーボールより固くなっていて、当たると痛いのも難点。ブラインドサッカーをもっと身近に、小さな子どもたちも始められるようにするため、子ども用のサイズの小さいボールの開発を進めている。そのための資金に使いたい」(高橋さん)

「JAMMIN×日本ブラインドサッカー協会」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなども販売)

JAMMINがデザインしたコラボアイテムには、サッカーボールを水の雫に見立て、水面に落ちる一粒の雫と、そこを起点に描かれる放射線を描かれています。感性を研ぎ澄まさなければ感じられない雫の滴り。ブラインドサッカーに通じる集中力と繊細さを表現すると同時に、この雫は「ここを起点に、世界が広がる」、ブラインドサッカーの魅力をも表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、7月2日~7月8日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。

JAMMINの特集ページでは、ブラインドサッカーの魅力、現在開催中の日本選手権「アクサブレイブカップ」に関する情報も紹介しています。こちらもあわせて、チェックしてくださいね!

感性を研ぎ澄ませ、自分とチームメイトを信じて一歩を踏み出す。「ブラインドサッカー」の魅力〜日本ブラインドサッカー協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

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