欧米ではアニマルウェルフェア(以下AW)に対応することが、企業にとっては重要な経営課題の一つだ。230兆円を運用する機関投資家が動物福祉に関する宣言に署名し、畜産のあり方を問題提起する投資家のイニシアチブも生まれた。この流れは日本にも波及するだろう。(オルタナS編集長=池田 真隆)
フリマアプリを運営するメルカリは昨年11月、象牙製品の取引を禁止すると発表した。同社は国際的に象牙市場を閉鎖する動きに配慮して、この決断を下した。
この背景には、NGO TRAFFIC(トラフィック)から、日本のインターネットでの象牙取引の実態調査の共有と意見交換の依頼があり、同社が応じたことにある。
同社のリーガルグループ・上村篤氏は、「象牙に関する実態調査の内容や他社の対応などを聞き、グローバルスタンダードに対応していくことが必要だと経営陣が判断した」と話す。
動物を適正に取り扱うことを科学的に定めたAWを推進する動きが世界では続々と起きている。国際獣疫事務局は乳牛・肉牛などに関する基準を策定した。
国際連合食糧農業機関(FAO)は昨年10月に発表した持続可能な農業開発に関する勧告案にAWを組み入れた。経営上の課題にもなっており、230兆円を運用する機関投資家が食品分野へ投資する際、畜産動物への愛護を求める宣言文書に署名した。
英国のN G O World animal protectionは世界の動物福祉レベルを比較している。その結果、英国などが最も評価が高いAランクで、ブラジルなどがBランク、日本はDランクだった。
■認証事業者は4カ所のみ
一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会は日本で唯一AWに特化した認証制度を2016年夏につくった。乳牛が対象だが、現時点で認証制度を持つ事業所は全国で4カ所のみ。
同団体の滝川康治監査は、「大手スーパーなどで見分けることは難しい。生産者の顔が見える道の駅や直接生産者に飼育方法を問い合わせて購入するしかない」と話す。
欧米がAWに積極的な要因は、消費者の安全性への意識の高さがあると、NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋氏は言う。AWに配慮した畜産方法だと、動物にストレスを与えず、薬物や農薬の使用量が低い。
一方、劣悪な飼育環境で育てられた動物は病弱な身体になりやすい。抗生物質やワクチンなどを多量に投与される。それらの畜産動物を摂取することで、抗生物質などが効かない薬剤耐性菌に感染してしまう危険性がある。
岡田氏は、「AWは抽象的な概念ではなく、動物の適正な扱い方を科学的に定めたものである。企業はしっかりと認識すべき」と話した。代替手段やノウハウは開発されており、「後は投資するだけ」(岡田氏)と強調した。