とある昼下がり。東京都内のある貸教室には、流れる音に身を委ねて、感情の赴くままに踊りで表現する中年男性が集まっていました。このダンスチームは、代表を除くメンバー全員が、路上生活者もしくは元路上生活者。彼らはなぜ踊るのか。(JAMMIN=山本 めぐみ)
■9.11アメリカ同時多発テロが活動のきっかけ
「ホームレス」という社会の枠から一旦はみ出た者たちが、肉体を解放し、魂の赴くままに踊るダンス。
無骨だけれど、ハッとするほど純粋。ありのままをさらけ出すような、むき出しのダンスを目の当たりにしながら、「自分はこんなにむき出しに、ありのままに生きられているのだろうか」と、ふとそんなことを感じていました。
踊っているのは、ダンスカンパニー「新人Hソケリッサ!」のメンバーの皆さん。39歳~70歳の方たちが、週に1~2回集まって練習を重ねています。
主宰するのは、プロダンサーであり振付師のアオキ裕キさん(49)。2001年9月11日、ダンサーとして、さらなるスキルアップを目指して訪れていたアメリカ・ニューヨークで、アメリカ同時多発テロ事件に遭遇します。
「人々の怒りや悲しみを目前にして、自分の踊りに対する意識がどこか表面的だと感じた。もっと内面から湧き出るダンス、誰かの内側に関与できるようなダンスを追求したいと感じた」と話すアオキさん。帰国後、路上でお尻を半分出して寝ていたおじさんの姿に、ふと響くものがあったといいます。
「誰も見向きもしないおじさん。路上生活者として、その人の持っている肉体の記憶で踊りを踊ったら、どんな世界が広がるんだろうと感じた」
アオキさんは、ホームレス支援を行う非営利団体「ビッグイシュー基金」の協力を得て、路上生活者に声をかけながら徐々に活動をはじめます。そして2007年に「ソケリッサ」を結成しました。
■野ざらしの生活をするおじさんたちの肉体に価値を感じた
なぜ、路上生活者と踊ろうと思ったのか。素朴な疑問を投げかけると、アオキさんから次のような答えが返ってきました。
「住む場所がなく、日々の生活の中で『お腹が空いた』『寒い』『こわい』…、否応なく『生きる』こと、『生きる』ための感情と向き合わざるを得ないおじさんたち。何かを捨てた彼らの肉体に、強さを感じた」
「多くの人たちは人生の中で何かをかき集めては取り込んで、それを『価値がある』と思って生きている。競争、さまざまな制約…、社会から取り溢れないように必死で生きる中で、逆に生きづらさや不自由を感じている人はたくさんいるのではないか」
「それが現代の人たちが求めている本当の生き方なのか。本来『生』とは、もっと自由なものなのではないか。生きること、その強さを感じてほしい。おじさんたちと踊ることで、そんなメッセージを発信したいという思いもあった」
■生きるように踊る
「ソケリッサ」の一員として振付を指導し、踊ることについて、アオキさんは次のように話します。
「ダンスのかたちから入った僕の体は、やはりどこか何かを捨てきれない。踊っている時、無意識にどこかで『このかたちが良いんじゃないか』『こうしたほうがいいんじゃないか』と技術で見せたい部分がある」
「でも、おじさんたちは表現者として、ごまかしがない。感じたことを、ありのままに体一つで表現している。自分の体より、ずっとリアルに近い存在、肉体だと感じる」
「人間は、たとえば笑っていてもお腹が空いていたり、深い悲しみがあったり、いろんなものが複雑に絡み合った内面を抱えている。その複雑な内面を喜びも、悲しみや憎しみも、また『うまく見せたい』という欲望やごまかしさえも、内から出てくるものをすべてありのまま認めて、さらけ出せるような踊りを表現したい」
「そのために、振付は細かく指導せず、メンバー一人ひとりの中にある生き生きとした躍動が体を通じ、踊りとして通り抜けられるような指導を心がけているといいます」
「『今の自分を、いかにすべてさらけ出せるか』。自分自身をごまかすと、踊りにもそれが露呈されてしまう。創造性を持って、感覚が自由に出入りするように、感じたことがそのまま肉体を通じて通り抜けるように。止まらない生の鼓動、ずっと動き続けていく感情、『生きること』そのものを表現したい」
■どんな生き方にも、どんな体にも、必ず価値がある
「社会的な感覚でいえば『ホームレス=失敗』と一括されるかもしれない」とアオキさん。「しかし、ホームレスに至った理由が、一人ひとりにある」と指摘します。
「どんな生き方にも、どんな肉体にも、価値がある。生きてきた証がある。そしてそれを世の中に還元できれば、決してその人の人生は、失敗ではないのだということ。僕たちの踊りを通じて、それを感じてくれたら嬉しい」
「人前で踊った後、頭を下げて拍手を貰う時、ちらっとメンバーの顔をのぞくと、喜びにあふれた顔をしている。ふだんは、人から目を背けられる存在の彼らが、人前に立って踊った時は、拍手をもらい輝いている」
「『ホームレスのおじさんたちが、誰かに何かをしてもらっている』というかたちに収めたくない。『路上生活者が踊るから』ではなく、ダンスとして、一つの表現として、僕たちの価値を認めてもらえたら」と今後の目標を語ります。
■踊ることは「人間性を取り戻していくような感覚」
「ソケリッサ」のメンバーの方にも、お話をお伺いしました。
「路上生活に至る過程で、まっとうな人間性が欠落していく感覚がある」と語るのは、メンバーの横内真人(よこうち・まさと)さん(55)。「ソケリッサ」が活動を開始して間もない頃から参加している古株のメンバーです。
横内さんは親兄弟、知人や友人との関係を一切断ち切って路上生活者になりました。しかし、「ソケリッサ」で踊るようになり、少しずつ心の変化を感じるようになったといいます。
「『ソケリッサ』で踊るようになり、公演の際などに尽力してくださる方々、応援の言葉をくださる方々を目の当たりにして、少なくともこれらの方々は絶対裏切れないというような感覚、感情が戻ってきていると感じる」
「自分たちにはテクニックもないし、美しさもない。でも、真剣さはある。そこを見てもらえた時に、喜びがある」
もう一人、メンバー最年長の小磯松美(コイソ・マツヨシ)さん(70)。2010年から、現在も路上で生活しています。
「家を出て、収入がなく路上生活者になった。『ソケリッサ』は、自分にとって没頭できる空間。それまで夢中だったギャンブルにも熱くならなくなった。踊るようになり、人生で初めて、積み重ねをしている気がする。今後は歌にも挑戦してみたい」
■路上生活者のダンスツアーを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「ソケリッサ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×新人Hソケリッサ!」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、ダンスツアープロジェクト「日々荒野」を開催するための資金となります。
「活動開始から10周年を迎える2017年から、東京近郊の公演や路上などを中心に廻るダンスツアープロジェクト『日々荒野』を開催している。会場によってはミュージシャンや芸術家など様々な方ともコラボレーションしながら、広く一般の方に僕たちの踊りを見ていただく機会にしたいとスタートしたツアーだが、開催資金を集めるのは容易でなく、現在は持ち出しで開催している状況」とアオキさん。
1公演にかかる費用は、場所代や照明代、メンバーの支払いなども含めて15万円ほど。今回のチャリティーで、1公演開催のための資金を集めるのが目標です。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、原始時代の壁画を思わせる風景。人間が自然と共に生きていた時代、大自然の愛に包まれながら、そこへの感謝や願い、祈りを踊りに込めて表現していた人間たち。
支配することなく、自然と輪を成し、ありのままの姿で宇宙と繋がっていた当時の人々の姿に、「ソケリッサ」の活動を重ねました。
チャリティーアイテムの販売期間は、7月30日~8月5日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。
JAMMINの特集ページでは、ここでは紹介しきれなかった、「ソケリッサ」の他のメンバーの皆さんへのインタビューや、これまでの公演風景を紹介中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・どんな生き方にも、どんな体にも、価値がある。魂の底から、溢れるダンスを。路上生活者の肉体表現~「新人Hソケリッサ!(一般社団法人アオキカク)」
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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