千葉県南房総に、一風変わった道の駅がある。廃校した小学校をリノベーションしたものだが、二宮金次郎像や表彰台、チャイム音などは当時のまま残っている。ノスタルジックなその施設は地域コミュニティーの核として機能している。(武蔵大学松本ゼミ支局=鈴木 美紅・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
近年、少子化による児童生徒数の減少、市町村合併などの影響によって多くの廃校が相次いでいる。その数は過去20年間で6.800以上に及ぶ。
千葉県鋸南町でも農林水産業に携る人々の高齢化及び後継者不足が進み、地域の力が低下。地域コミュニティーの核となってきた保田小学校が、2014年3月に廃校となった。
しかし、廃校から翌年の2015年12月、新たな「コミュニティーの核となる施設」としての再生をはかった。「思い出のたくさん詰まった校舎を残したい」「違う形で活用したい」という地域住民の想いから廃校をリノベーションして、都市交流施設「道の駅 保田小学校」として生まれ変わったのだ。
体育館をそのまま利用した巨大なマルシェ「きょなん楽市」の直売所には農家が毎日笑顔で作った野菜を持ってくる。大切に育てた野菜を観光客や地元の人に届けられることが喜びとなり、この施設を起点にコミュニティーが生まれていく。
「道の駅 保田小学校」の校長(駅長)である大塚克也さんは、「鋸南という地名、そして保田という名前が全国に知れ渡った。覚えてもらえたことはお金には変えられない意味のあるものだと考えている」と話す。
保田小学校の面白いところは、随所に残された小学校感。各店舗は校舎のなかにあり、当時の雰囲気そのままの体育館や教室に入ることができる。二宮金次郎像や、運動会の表彰台、時間を知らせるチャイムの音、毎朝の校旗掲揚は欠かさない。
観光客だけでなく地元の人たちが集まっているコミュニティーの場には、かつて子どもたちが遊んだり学んだりした保田小学校の面影を見ることができる。
「まちのギャラリー」や「音楽室」は町内外問わず一般貸出されているためイベントで利用することができ、校舎の2階廊下は「まちの縁側」として、自由にくつろげるスペースになっている。
道の駅の利益だけを考えると、到底省いてしまうような部分も交流スペースとして活用し、来てもらった観光客や地元の人にここでしかできない体験を提供する。
そこには「商業施設」ではなく「都市交流施設」としての「道の駅 保田小学校」があるのだ。
友達と笑いあい、学び合い、時には怒ったり泣いたり。懐かしい思い出がたくさん詰まった学校が形を変えて、新しい思い出を残していく。新しい出会い、ドキドキとワクワクがそこにはある。都市交流施設「道の駅 保田小学校」のユニークで画期的な取り組みに今後も注目していきたい。