貧困や紛争、児童労働などで苦しむ子どもを守るために、世界各国の若者をつなげるキャンペーンが始まった。呼びかけ人は、ノーベル平和賞受賞者で子どもの権利活動家のカイラシュ・サティヤルティ氏。児童労働に取り組む若者たちを追った。(オルタナS編集長=池田 真隆)

認定NPO法人ACEが開いた「100Million Campaign」ローンチイベントには児童労働に関心を持つ中高生らが集まった=8月3日、都内で

■12歳も「NO!児童労働」

「長期的に自分の思いと向き合えることがやりがいです」――こう話すのは、児童労働に取り組む武田智生くん。ガーナのカカオ農園で働く子どもの実態を知り、友人に声をかけて団体を立ち上げた。若者層への啓発を行い、クラウドファンディングで資金を集めることも考えているという。

実は武田くんはまだ12歳。湘南学園に通う中学1年生だ。社会科の授業で、アフリカで起きている児童労働の現状を学んだことがきっかけで、行動を起こした。友人に声をかけて、任意団体「チョコプロ」を立ち上げた。

チョコプロを立ち上げた武田くん(右)とサーフィンが趣味の宮川くんも「100Million Campaign」ローンチイベントに参加

武田くんの呼びかけに30人ほどの生徒が集まった。6月から放課後に定期的にミーティングを重ね、活動内容を話し合ってきた。直近では、9月に開かれる学園祭で一室を借りて、児童労働を啓発するためのポスターなどを展示する予定だ。

湘南学園には1学年で約200人の生徒がいる。活動に巻き込めたのは6人に1人という割合だ。友人からは、「そんな面倒くさいことよくやるね」と言われることもあるが、「やりたいからやっている。その結果、誰かを助けることができたらうれしい」と話す。

武田くんの友人である宮川快晟くん(12)も「とにかくまずは現状を多くの人に伝えたい」と言う。活動に取り組む原動力は何か。「テレビやゲームなど日常生活に面白いことはたくさんあるけれど、この活動は長期的に自分の思いと向き合える。たぶん、それがやりがいだと思います」と武田くんは照れながら話した。

変革はニューデリーから

児童労働に関心を持つ若者は世界中に増えている。昨年9月、インド・ニューデリーに世界の若者が集まり、ある会議が開かれた。呼びかけたのは、8万人以上の子どもを救ってきた子どもの権利活動家のカイラシュ・サティヤルティ氏。会議の名称は、「100Million Campaign第1回若者会議」。

困難な状況にいる1億人の子どもを1億人の若者で支援するという意味を込めた。議題は、「児童労働をどうなくしていくか」。日本からは、児童労働に取り組む認定NPO法人ACE(エース、東京・台東)の学生インターン相良早苗さん(現、早稲田大学大学院1年)がその会議に参加しており、世界の若者と意見を交わした。

この会議がきっかけとなり、児童労働に苦しむ1億人の子どもを救う「100Million Campaign」が始まった。インド、バングラデシュ、ブラジル、チリ、英国など約10カ国で展開されており、2019年までに50カ国に広げることを目指す。

相良さんは帰国後に、友人でネパールの教育問題に取り組むNGO TAP-smile for Nepal-を学部1年生の時に立ち上げていた長尾海さん(現、東京大学大学院1年)に声を掛けた。

100Million Makers Youth Japanを立ち上げた相良さん(左)と長尾さん

こうして2人で、「100Million Makers Youth Japan」を立ち上げた。現在はメンバーを募集しており、活動内容のアイデアも募集中だ。啓発イベントや児童労働に反対する行進、加えて、各メンバーの母校での講演会などを考えている。若者の動きをACEがバックアップする。

相良さんと長尾さんは、安全と教育、そして自由の権利を子どもに与えることで、「若者が自分の力で人生を切り開ける世界をつくりたい」と意気込む。

■死亡事故で明らかになる児童労働

世界の若者たちが関心を持つ児童労働とは何か。日本では満15歳になるまでに働かされることと18歳未満で危険で有害な労働に従事することを指す。危険有害な労働には、人身取引、児童ポルノ、JKビジネス、援助交際、建設業などが含まれる。就労可能な年齢でも18歳未満を午後10時から翌日の午前5時まで働かせた場合は、児童労働とみなされる。

学校に通う時期に低賃金で長時間働かされることで、識字率が低下し、大人になって就ける職が限られるという問題につながる。

国際労働機関(ILO)は世界の児童労働者数を1億5200万人と推計し、世界の子どもの10人に1人に当たる。日本を含む高所得国にも約200万人が児童労働をしているとされている。

ACEは、「日本では児童労働者数について公的データは発表されておらず、その実態は明らかになっていない」とする。正確な現状は分からないが、日本では、死亡事故により児童労働が明らかになったケースもある。

昨年12月、茨木県古河市下大野の鉄工卸売会社「中央鋼材」古河工場で、アルバイトの秋山祐佳里さん(15)が屋根に設置された太陽光パネルの点検・清掃中に約13メートル下のコンクリート床に落ち、搬送先の病院で死亡した。

2012年には、栃木県の中学3年生の男子生徒(14歳)が夏休みのアルバイト中、群馬県の中学校体育館の解体工事現場で崩れた壁の下敷きとなって死亡した。

労働基準監督年報第68回(2015年)によると平成27年度には年少者の使用(児童労働)に関して297件の違反が報告された。この数字は、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ禁止法、風俗営業適正化法などの違反、および人身取引被害などで、児童労働が日本に存在することを証明したものだ。児童労働の主要な原因では子どもの貧困とされている。


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