夏といえば祭、祭といえば屋台です。たこ焼き、ベビーカステラ、りんご飴――。目の前に広がる光景にワクワクしたことを覚えています。しかし、食物アレルギーの子どもたちにとっては、それらの楽しいはずのイベントが、我慢の場になっています。そんな事実を目の当たりにした一人の母親が「食物アレルギーの子もそうでない子どもも一緒に楽しめる場所を作りたい」と立ち上がりました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
■アレルギーフリーのたこ焼きに、皆が笑顔
7月中旬、京都市内のオフィス街にある「NPO法人FaSoLabo京都」(ふぁそらぼきょうと、旧「NPO法人アレルギーネットワーク京都 ぴいちゃんねっと」)の交流スペースにお伺いしました。
この日は、祇園祭の季節に合わせ、食物アレルギーの子どもたちでも安心して美味しく食べられるアレルギーフリーのたこ焼き作りの実習が開催されていました。
講師を務める栄養士の伴亜紀(ばん・あき)さんが手順を一つずつ丁寧に教える間、お母さんたちは熱心にメモをとったり、質問をしたり。子どもたちは目をキラキラさせて、ソワソワと完成を待っています。
小麦粉や卵を一切使わず、米粉や片栗粉、白玉粉を使ったたこ焼きは、手でボール型に丸め、油でカリッと揚げて出来上がり。本物のたこ焼きさながら、舟皿に盛って完成です。
「…おいしい!」「毎日食べたい!」「最高!」、満面の笑みで、たこ焼きを頬張る子どもたち。どこにでもある普通の光景のはずですが、なかにはたこ焼きを初めて食べたという子どももいます。
その声に、食物アレルギーの子どもたちが、普段食べる物を制限されているのだということにハッと気づかされます。
■皆で同じものを一緒に食べられる喜び
私も、できたてのたこ焼きを一つ味見させてもらいました。
外はカリカリ、噛むとジュワッとタコの香りが広がります。中のフワッとした食感は、まさにたこ焼き…むしろ、一般のたこ焼きよりも風味が豊かな気がします。「これがアレルギーフリー?!」と目からウロコの思いでした。
レシピを考案した講師の伴さんに、話を聞いてみました。
「お祭やクリスマスなどのイベント事も、卵や小麦、牛乳などにアレルギーのある子どもたちは、出てきた食べ物を我慢しないとダメだったり、一人だけ別に用意されたものを食べないといけなかったりします。すると、子どもにとって本来楽しいはずのイベントが、彼らにとっては修行の場になってしまう。みんなで同じものを、一緒に食べられたら良いなという思いから、アレルギーフリーかつ、皆が美味しく食べられるレシピを考案しています」
■「自分も息子もしんどくて、誰かに助けてほしかった」
ここからは、このイベントを主催した「FaSoLabo京都」事務局長の小谷智恵(おだに・ともえ)さん(51)にお話をお伺いしました。小谷さんは、現在は大学生になる息子が重度の食物アレルギーを抱えていたことから、彼が小学校へ上がると同時に「食物アレルギーの人もそうでない人も共に楽しめる場」を増やすため、現在の活動をスタートしたといいます。
「当時、息子が食べられるのは、ごはんとじゃがいも、キャベツぐらいでした。今とは治療法も異なり、食べられるものが本当に少なかった。自分の体調が悪くてもどんな時でも絶対に子どものご飯は自分が作らないといけない、子どもと一緒に外食もできないし、旅行にも行けない。周りからは『お母さんだからがんばりなさい』といわれるばかりでしたし、食物アレルギーがあるからという理由で保育園の入園も断られてしまうような状況でした」
「仕事が大好きで、育児休暇をとった後は職場復帰するつもりでいましたが、息子の重い食物アレルギーで、それもかなわぬ思いとなりました。生活の中にいろんな制約があり、治療も本当にしんどかった。私も息子もとてもつらくて、誰かに助けてほしい!と思っていました」と当時を振り返ります。
そんな中で出会ったのが、食物アレルギーの子どもたちが多く通う保育園でした。先生たちから「これまでよくがんばったね」「がんばらなくて良いよ」と初めて声をかけられ、元気を取り戻したといいます。
■治療に、子どもの声は届いているのか
息子の治療を進める中で、徐々に「治療の選択を子ども自身ができているのか。子どもの声は医師や親に届いているのか」ということに疑問を持ち始めたという小谷さん。きっかけは、小学校5年生になった息子の言動だったといいます。
「息子は牛乳アレルギーでした。牛乳を飲めないと周りからいじめに遭うのではないかという不安から、小学校入学前は一生懸命、負荷試験(※食物アレルギーの原因と疑われる食品を単回〜何回かに分けて摂取し、症状が現れるかどうかを確認する検査)のために通院していました。しかしある日、ショック症状を起こしたことが原因で『もう牛乳が飲めなくてもいい』と諦めて治療を止めていました」
「息子が小学5年生になった時、おばあちゃん経由で『本人がもう一度牛乳にチャレンジしたいと言っている』と聞きました。その時、これまで子どもの声に耳を傾けず、親の気持ちだけ食物アレルギーと向き合ってきたのではないか、と感じたんです」
「食物アレルギーの子どもの親御さんの中には『食べられるようにさせてあげたい』という親心で、一生懸命がんばっている方たちがいる」と小谷さん。
「小麦アレルギーの子どもに、毎日3mmずつとか、本当に細かく測ってうどんを食べさせていたりします。子どもに『毎日これを食べるくらいなら、小麦アレルギーが治らなくても良い』と言われたと悩む保護者の姿も見てきました」
「本来は楽しいはずの食事の時間が、毎日同じものを食べさせられて、治療の時間に変わっている。子どもにも親にも、それはあまりにもつらいと感じたんです」
■「皆が食べられるものを選択する」という発想を増やしたい
「食物アレルギーのことを理解し、配慮について考えられる人が増えれば、地域社会での生活のしづらさが無くなり、食物アレルギーが治らなくても平気だと思えるのではないか」と小谷さん。
「食物アレルギーであるがゆえに、皆と同じものが食べられない。でも、たこ焼きもパンも小麦が当たり前ではなく、こっちのお店は小麦で、こっちのお店は米粉で…、といろんな選択肢があったら、食物アレルギーはなくならなくてもいいのではないでしょうか」
「多文化共生ではないですが、『これを食べられる人もいるし、食べられない人もいる。だから、お互いに理解し合おう』という意識が広まれば、食物アレルギーの子どもたちが疎外感を感じたり我慢したりすることなく、一緒に楽しい思い出が作っていけると思うんです」
「今の現実は、どうしても『食物アレルギーの子だけ別の食べ物にする』という意識がスタートラインにあると思う。そうではなく、食物アレルギーの子もそうではない子も、みんな一緒においしいものを食べるという選択肢もあるのだということを知って欲しいし、そこがスタートラインになっていけば。私たちは、食物アレルギーの子どもとそうではない子どもの『交差点』でありたい」
■食物アレルギーを広く多くの人に知ってもらう活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「FaSoLabo京都」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×FaSoLabo京都」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「FaSoLabo京都」が毎年開催する食物アレルギーの子どもや家族の生活を広く社会に知ってもらうイベント「オープンキャンパス」の開催資金を集めます。
「食物アレルギーの子もそうではない子も誰でも参加できるイベントです。普段は制約の中で限られたものしか選べない生活ですが、この日は、たくさんある種類から、好き放題に選べる。みんな目をキラキラさせて楽しんでくれます」(小谷さん)
JAMMINが作成したコラボデザインに描かれているのは、大きなパンケーキを一緒に食べる動物や子どもの姿。「皆が食べたいものを、一緒に楽しく、美味しく食べる」というメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、8月20日~8月26日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、アレルギーフリーのたこ焼き作りの様子や、小谷さんへのインタビュー詳細を掲載中!あわせてチェックしてくださいね。
・食物アレルギーの子もそうではない子も、皆一緒に美味しいものを楽しく食べられる世の中に〜NPO法人FaSoLabo京都
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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