恋人間で起きる暴力「デートDV」ご存知ですか?殴ったり蹴ったりといった身体的な暴力だけでなく、干渉や監視など行動の制限や精神的な暴力、高価なものを相手に買わせるといった経済的な暴力も含まれます。デートDVがエスカレートした時、やがては望まない妊娠やDV(家庭内暴力)、子どもへの虐待にも発展しかねません。交際経験のある10代のうち4割が被害経験を持つ「デートDV」とは。(JAMMIN=山本 めぐみ)
いじめや虐待、性暴力などをなくすために活動する「認定NPO法人エンパワメントかながわ」(神奈川)が2016年に行った調査によると、10代の交際経験がある男女のうち、これまでに何らかの「デートDV」被害を受けた経験が「ある」と答えた人は全体の37.9%(女性43.8%、男性26.7%)にも上ります。
交際経験のある10代の実に4割が「デートDV」被害の経験があるという事実。そもそも、「デートDV」とは何なのでしょうか?「エンパワメントかながわ」理事長の阿部真紀(あべ・まき)さん(56)に聞きました。
「『デートDV』を、私たちは『恋人同士の間で起きる暴力』と定義づけている。殴る蹴るといった身体的な暴力がわかりやすいが、それだけではなく、言葉の暴力もある」
「言葉をかけない、機嫌が悪くなって無視するといった態度の暴力もあるし、性的な暴力や、高価なものを無理矢理買わせるといった経済的な暴力もある。私たちエンパワメントかながわでは、身体的暴力・行動の制限・精神的暴力・経済的暴力・性的暴力の5つに分類している」
■エスカレートすると、様々な問題に発展
「『メールの返信が遅いとキレる』『相手のメールやアドレスをチェックしたりする』「人付き合いを制限する」といったことについては、「それが暴力にあたるとは知らなかった」という若者もいるが、こういったことがエスカレートして徐々に身体的暴力や精神的暴力につながっていく可能性がある」と阿部さんは指摘します。
「いつも暴力を振るうわけではなく、急に優しくなったり、二度としないと泣いて謝ったりした後、イライラしてまた怒りが爆発し、暴力を振るう…というサイクルが回るなかで、徐々に暴力の内容はエスカレートしていく。『お前が悪いから怒鳴ったんだ』『殴ったのはあなたのせいだ』といった加害者の言葉に、だんだん『自分は暴力を受けても仕方ない』と思い込まされ、被害が深刻化する可能性も。首を絞められたり骨を折られたりしても気づかない、というケースもある」と阿部さん。
「もしかしてこれはデートDVではないか」と当事者や周りの人が気づけるように、予防教育はとても重要だといいます。
「10代のうちにデートDVの被害に遭いながら、それを認識できなかったために思いがけない妊娠をし、そのことによって学校を退学、ひとり親家庭で子育てをするというケースもある。こういったケースは、経済的困窮や子どもへの虐待など、負の連鎖が続いて起こる可能性が高いという課題を抱えているのも事実」
■「対等な関係かどうか」が「デートDV」見極めのポイント
「デートDV」について、「誰でも加害者や被害者になり得る」ということをまず知って欲しいと阿部さん。
「どこからがデートDVなのか」という疑問もあると思うが、私たちが伝えていることは『対等な関係かどうか』で考えてほしいということ。恋人同士であっても、人権という視点においては対等。どちらかが強くて相手の言うことを聞かないといけないとか、嫌だと断っても相手に聞いてもらえない関係が、果たして対等なのかということを考えてほしい」と話します。
一方で、「デートDV」は、暴力を受けていても、そのことを当事者が自覚するのが難しいという特徴があるといいます。
「被害者が暴力を受けていても『相手に悪気はなかったんだ』『私がわるかったんだ』などと思ってしまう。周りが気づいて『別れなよ』『離れなよ』と強くアドバイスしたり、無理やり別れさせようとしたりすると、被害者は逆に『あの人はわるくない』『彼(彼女)のことをわるく言わないで』と距離を置くようになり、もっと孤立を深めてしまうという怖さもある」
「頭ごなしに関係を否定するのではなく、まずは被害者の気持ちに耳を傾け、受け止めることが大切。そして本人が少しずつ落ち着きを取り戻した時に、『あなたがそんな目に遭っていいわけはないんだよ』ということを伝え、『この先どうしていくか、自分に選ぶ権利があるんだ』という意識を本人が取り戻していくためのサポートをすることが重要」
■「自分を大切にする意識」が、「デートDV」防止につながる
エンパワメントかながわは、各地の中学や高校、大学で、オリジナルの「デートDV予防プログラム」を実施し、これまで30万人近くにワークショップを提供してきました。
「特徴は、決して『暴力はダメ』といわないこと。『暴力はダメ』といっても、世の中にはすでにそんなメッセージが溢れている。禁止することより、まずは暴力が身近にあることに気づくこと。そして『暴力を受けていい人はいない』という言い方で暴力防止を訴えている」
「生きるために必要なこと、例えば寝たり、食べたりといったことが当たり前に守られるのと同様に、暴力を受けていい人は一人もいないということ。だからこそ『自分を大切にしなさい』ではなく『自分を大切にしてもいいんだよ』ということを、プログラムを通じて伝えている」
「ワークショップの中では一人ひとりの意見を肯定する過程を入れ、肯定されることを生徒一人ひとりにあえて感じてもらうようにしている」と阿部さん。自分が大切な存在なのだと理解した時、周りの人たちのことも大切にしなければいけないということを、子どもはスッと理解できるのだといいます。
■10代〜20代の若者からの啓発がカギ
「エンパワメントかながわ」では、「デートDV」を予防するにあたり、10代20代の若者からの啓発を大切にしています。
「若者にとって親世代である私たちが、彼らの意見を聞かずして予防啓発はできない。だからこそ、私たちは若者から発信する『ユースプロジェクト』を大切にしている。これまでにも若者が作ったアンケートを拡散したり、プログラムを作る際に彼らの声を取り入れるなど工夫してきた」
「大人が一方的に『これをして』とお願いするのではなく、彼らが自発的に課題を考え、意見を発信することが重要。そこで彼らをエンパワメントし、サポートするのも、デートDVを予防する私たちの役目のひとつ」
■若者が「デートDV」を啓発するプロジェクトを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「エンパワメントかながわ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×エンパワメントかながわ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円が「エンパワメントかながわ」へチャリティーされ、「ユースプロジェクト」の活動資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、ベンチでくつろぐ2匹の猫。自分自身と相手を認め、互いが心地良く過ごすことができる関係やつながりを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、8月27日~9月2日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、「デートDV」について、阿部さんのより詳しいインビューを掲載中。こちらもあわせてチェックしてくださいね。
・「大切にされる」経験が、暴力の連鎖を断ち切る。恋人間で起こる暴力「デートDV」をなくすために〜NPO法人エンパワメントかながわ
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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