千葉県木更津市に9万坪という広大な土地を利用した農場がある。2010年3月に音楽プロデューサーである小林武史氏が中心となって設立した「耕す 木更津農場」である。有機農業に取り組む数少ない農場の一つである。何故、有機農業なのか、どのような工夫、活動を行っているのか、農場長である伊藤雅史氏にお話を伺った。(武蔵大学松本ゼミ支局=中別府 亮太・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)

案内してくれた伊藤さん=耕す 木更津農場で

農場を設立する場所を探すにあたり東京から車で約1時間、数十年前には牧場として利用されていたその広大な土地は小林氏の感性に響いたという。この土地を「耕す 木更津農場」として再生することに決めたが、その当時はすでに2~30年間誰も手入れをしていなかったため、雑草で生い茂っていた。

9万坪という広大な土地

荒れてしまった土地を再生し、自然が循環する農場を作り上げたいという思いのもと、伊藤氏は有機農業に取り組んだ。自然、植物、動物、微生物との共生で長く続けられる農業を目指した。
 
始めたものはいいものの、9万坪という広大な土地を運営していくスタッフは、伊藤氏を含め4人しかいなかった。その上、農業に関する専門的な知識を持つのは1人だけという状況だった。

そこでまず始めに取り掛かったのが、有機農業の勉強だ。日本の農場の内、有機農場はわずか0.4%程。そのため、専門性の高い知識を周囲から得ることは難しかった。そこで伊藤氏は全国各地の有機農場を営む方に会いに行き、農場の運営の仕方や農作物の育て方を教えてもらった。

流通の仕組みも独自に考えた。日本の野菜はほとんどが農協産か市場で売り出されているが、有機農場で作られた野菜は農協や市場では取り扱ってもらえない。

そこで、有機野菜を求める人には自分たちで届ける必要があった。だが、その手法だとコストがかかりすぎるという欠点もある。

その欠点を解消するために選んだのが、市場や大手スーパーに向かうトラックの空いたスペースに有機野菜を積んで運んでもらうという方法だ。コストを抑え、流通の幅を広げた。

市場や大手スーパーにとっても今まで出回らなかった有機野菜を売り出すことができるようになり、まさにお互いの利益が循環する方法だった。

■1500羽を平飼い

「耕す 木更津農場」が行っているのは農業のみではない。実は9万坪という広大な土地の内、農場として使われているのはその10分の1程度。そのほかの土地では、ソーラーパネルが設置されていたり、農場の中心には雨水を溜める溜め池が存在していたりする。

後方には大規模な太陽光パネルが設置されている

その中で特に大規模なものが1500羽の鶏を平飼い養鶏という方法で育てる鶏舎である。1500羽もの鶏を育てる上でも国産の有機的な餌を与えるなどのこだわりがうかがえた。

鶏の卵は市販の卵と比べて白っぽい黄身が特徴だ。鶏の卵の黄身の色は食べて育ったものに影響される。できるだけ地元で取れたものを鶏の餌にするという考えのもと、千葉県で作られた資料米を与えてきた結果である。その白い卵を利用したロールケーキなどの開発も進んでいるようだ。

ここでは農業体験を行うことも可能だ。一般の方を招いて、ジャガイモ掘りや食育など実際に土に触れる経験をすることで、農家や農業に対する関心を高めている。

東京から1時間という好立地を生かしたこのようなツアーは今後も加速していくだろう。このツアーをきっかけに木更津市に宿泊をして、興味を持つ人も少なくないのではないだろうか。

そういう意味で今後、「耕す 木更津農場」は町おこしに大きく貢献していくことが予想される。

今年の秋には、牧場だった土地を活かして、牛の飼育を、来春には、ピザ屋の建設などを予定しているという。農場としてだけではなく、様々な側面を持つ「耕す 木更津農場」が今後どのような発展をするのか、非常に楽しみだ。

耕す 木更津農場

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