京都市街の中心地、四条烏丸のオフィスビルの最上階に、社会起業家やソーシャル・イノベーションの推進者が集まるユニークなシェアスペースがある。場所の名前は「とびら」。2018年4月に開設して以来、NPOや社会課題に関心の高い経営者など30名以上が会員となり、互いの価値を高め合う場所として利用が広がっている。(オルタナS関西支局=立藤 慶子)
西アフリカの最貧国・トーゴ共和国で、障がい者や女性など社会的に弱い立場に置かれた人の雇用創出を目指す中須俊治さんは、9月のある日、「とびら」に足を運んだ。月一回定期開催されている「起業家支援ワークショップ」に参加するためだ。
「起業家支援ワークショップ」は、起業や複業、社会課題解決のための事業に関心のある人たちが集まり、互いの状況を共有し、意見交換を行うワークショップだ。
中須さんの起業のきっかけは6年前の学生時代、トーゴ共和国に3ヶ月間滞在したこと。滞在中、「アフリカの笑顔」と称されるほどの現地の温かさに感銘を受けた一方で、障がい者や女性に対する差別や冷酷な対応を目の当たりにしたという中須さん。現地でできた友人がダウン症で、リンチを受ける現場も目にしてきた。
そんな中、その友人を、体を張って守ろうとする別の友人が語った夢―「俺は、障がいのある人もない人も、みんなが笑って過ごせる世界をつくる」に衝撃を受けた中須さんは、「その世界を一緒に作ろう」と約束。
帰国後は地元の金融機関に就職し、法人営業を担当。4年勤めた後、今年7月に退職し、約束を果たすために起業したという。トーゴ共和国に広く普及しているアフリカ布を商材に、障がい者とともに働く場をつくろうとしている。
この日の「起業家支援ワークショップ」には、中須さんのほか、病児保育事業の立ち上げを考えている女性や、オフィスで働く人に健康的な食事を提供する事業を考えている女性など7名が集った。互いに情報を共有し、個々人の持つ課題について意見交換する貴重な時間だ。
このワークショップの主催者であり、「とびら」を運営する夢びと(京都市)代表、税理士でもある中田俊さんは、「世の中には社会課題が山積しているが、その解決のためには、人と人がつながることが大切」と話す。
「当社では、従業員を大切にする経営者や、社会貢献に熱心な経営者、NPOなどを招いた勉強会などを、3年前から実施してきた。その過程でいろいろな社会課題に出会い、自分の価値観も変わり、世界で起きている貧困や環境問題などにも目が向くようになった。その経験から、多くの社会課題に接する機会が大切だと感じている。また、本業の税理士業務を通じていろいろな起業を見てきたが、自分の世界にこもりがちな人は事業にも失敗しやすい。『分断→孤立→社会課題の増加(事業の失敗)』ではなく、『つながる→可能性が開く→いい社会・地球を残す』に変化するための場として、『とびら』を活用していきたい」(中田さん)。
トーゴで起業を目指す中須さんは現在、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で、事業のための資金獲得に挑戦中だ。「とびら」も全面的に支援している。興味のある人はぜひチェックして、「とびら」から生まれる社会的起業を応援してはいかがだろうか。
CAMPFIRE クラウドファンディングページ
アフリカ布に織り込む京都の伝統技術!~元バンカーの挑戦~