「『なぜ学生の電力切り替えは進まないのか』をテーマに対談をお願いしたい」――。今年の始め、自然エネルギーを推進する新電力会社であるみんな電力(東京・世田谷)宛てに、こんなメールが届いた。送り主は関西に住む大学生からだ。対談は今春に都内で実現し、自然エネルギーの機運を高める方法について話し合われた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

対談を行ったメンバー。左から、坂本さん、大石社長、清水さん、綿野さん=都内にあるみんな電力で

メールの送り主である、坂本祐太さん(立命館大学経営学部4年)は複数の肩書を持つ大学生だ。気候変動に取り組む青年環境NGO Climate Youth Japanに所属し、電力自由化を若者へ訴求していく学生団体Hope to Hopeの代表でもある。さらに、京都府や京都市といった自治体との地球温暖化対策関連プロジェクトにおいても活動をしている。

対談当日、坂本さんは、環境保護活動を行う2人の若者を連れて都内にあるみんな電力社を訪れた。坂本さんが連れてきたのは、学生と東京オリ・パラをつなぐ活動を行う学生団体おりがみ副代表の綿野知洋さん、化石燃料からのダイベストメントに取り組む350.org Japanの元フィールドオーガナイザーで、現在は「環境に関するクリエイティブチーム」NEWW でプランナーを務める、清水イアンさんの2人だ。

若者を迎えたのは、みんな電力の大石英司社長。同社は、自然エネルギーを推進する新電力会社だ。電源構成は自然エネルギーが7割で、電力各社の中で最も高い割合だ。電気の生産者と消費者をつなぐ「顔の見える」仕組みを構築した。

みんな電力のサービスの仕組み。図はみんな電力社のサイトから引用

今秋には、ブロックチェーン技術を活用して、消費する電源を特定できるようにする技術も開発する予定だ。対談時間は2時間を予定していたが、3時間以上に渡って議論は続いた。

学生と電気の接点はどこにある?

まず始めに議論されたのは、自然エネルギーに対する若者の反応だ。2016年4月に電力自由化が始まり、電力市場が緩和された。これまで電力市場を独占していた10社の大手電力会社(東京電力や関西電力など)以外でも新規参入が可能となったのだ。

新規参入した電力会社は、「新電力会社」と呼ばれ、みんな電力もその一社だ。新電力会社は価格や電源構成比率で大手電力会社と差別化を図るが、経済産業省資源エネルギー庁の調べでは2018年1月時点で、全販売電力量に占める新電力のシェアは約12%だ。

「電気を切り替える」というと、大掛かりな工事が必要で、供給が不安定になるかもしれないと想像する人は少なくないだろう。実際は、書類にサインをするだけで済む。電気の供給の安定性も変わらない。送電網を管理しているのは、各地域の大手電力会社のままだからである。

新電力に切り替えても安定性は変わらない。万が一、新電力会社からの供給がストップしたら、各地域の大手電力会社が代わりに供給する仕組みになっている。図はみんな電力社のサイトから引用

しかし、電気が送られてくる「コンセントの向こう側」を意識する人は少ない。若者たちからも、「大学の友人と話していても、電力切り替えの話はほとんど出てこない。たまに情報番組から知るくらいで、学生が知る機会はほとんどない」という声がでた。

若者の自然エネルギーに対する理解はどうしたら進むのか。坂本さんは普段の活動で知り得た電力に関する情報を自身のSNSなどで投稿している。友人や親から「いいね」をもらうようになったが、「切り替えまでは進んでいない。どのようなタイミングで具体的な行動を起こすのか見ている。社会実験をしている感覚。まだまだ電力が商品であるとの認知が消費者には欠けている」と話す。

清水さんは、若者が電力に関心を持てない要因として、「環境を自分事化できてないことがある」と指摘した。そこで、環境を自分事化する第一ステップとして、「身近な人を通して環境を意識することが大切」と考える。

「電力を切り替えることで、自分の出身地で作られた電気を購入することができる。電気に付加価値を付けて若者へ訴求していくアプローチが必要だと思う。多くの人が共感できる、クリエティブな形での発信に力を入れることが大切だと思う」

電気選びで、つながり生まれる

若者へのアプローチ策について話が盛り上がっていると、大石社長から、「不純な動機で広めてもいいのではないか」とツッコミが入った。「地球温暖化や気候変動などの大義名分を掲げても、真面目な話になってしまい大衆には響かない」と述べた。以前、大学で講義したことがあり、この感覚を、身を持って体験したという。

対談では大学生向けのベーシックインカム制度についても議論された

続けて、みんな電力を立ち上げた経緯について話し出した。「電車に乗っていたとき、目の前に汗まみれのおっさんと若い美人な女の子がいた。仮にこの二人が電気の生産者だとしたら、価格に関係なく、女の子から買うと思った。そこから、顔の見える電気を販売する仕組みを思いついた」。

大石社長は、顔の見える電気を買う仮想のワークショップを提案した。参加者全員が電気の生産者になり、各自が販売価格とメリットをプレゼンする。全員の話を聞いた上で、誰から電気を買うのか選ぶ。ワークショップを通して、コンセントの向こう側を意識させることを狙った。

このアイデアには、若者たちも共感し、「電気を選ぶことで、つながりができそう。楽しそうだから、やってみたい」という声が挙がった。

坂本さんと綿野さんは、東京オリ・パラを契機に若者から様々な参画プロジェクトを生み出すためのプラットフォーム事業「Project Y-ELL 2020」の実行委員会に所属しており、今後オリ・パラとサステナビリティをテーマにしたプロジェクトも構想している。

「どこから電気を買っているのか。2020年の五輪で使う電気を通して、関心を持ってもらいたい」と意気込む。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、主要7会場に太陽光発電設備を導入し、4会場に太陽熱利用設備を入れる計画を発表している。

対談の終わり、大石社長は若者の可能性について言及した。「大学生が就職先の企業を選ぶときに、使用している電気も判断軸に入れれば、企業は急速に切り替えを始めるはず。切り替えていないことを恥ずかしいとさえ思うだろう。学生には時間と体力だけではなく、企業に強烈なプレッシャーを与える力がある」と伝えた。

近年、社会課題を事業で解決するCSV(Creating Shared Value)が盛り上がりを見せる。米国の経済学者マイケル・ポーターの論文で広まった概念だが、ポーターがCSVを考えた背景の一つに、大学生の声もあった。米国では、社会性を持った企業や団体で働くことを希望する学生が増えたことを受けて、CSVのポテンシャルを感じたという。

普段、なかなか意識することがない「コンセントの向こう側」。これを機に一度、自分が使っている電気は誰がどこで、どのように作っているのか思いを馳せてみてはいかがだろうか。


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