日本は医療先進国ではありますが、医療的ケアが必要な0〜19歳の子ども(医療的ケア児)は、約1万7千人いるとされています(2016年厚生労働省研究班調べ)。医療的ケア児とその家族は、旅行はおろか、外出することすら容易ではありません。医療的ケア児とその家族がリフレッシュできるよう、彼らの「一時休息」をサポートするNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「人と人とのつながり」で、家族の負担を軽くする

「親子はねやすめ」が開催する「親子レスパイト旅行」での一コマ。「お友達ね!」と隣の少年に話しかけるお母さん。「お友達だ!」と、左側に視線を向けるお手伝いをする「親子はねやすめ」代表の宮地浩太さん(右)

東京を拠点に活動する「NPO法人親子はねやすめ」。代表の宮地浩太(みやち・こうた)さんは(54)は、福祉や医療とは縁遠い人でした。しかし、ふとしたきっかけから医療的ケア児とその家族と関わるようになり、団体設立へと至りました。

「医療に関しては、僕は全くの門外漢。でも『人と人とのつながり』という観点で、疲弊しやすい生活環境にある家族の負担を少しでも軽くできたら」と宮地さん。

「親子はねやすめ」代表の宮地さん(右)

「親子はねやすめ」は、重い病気や障がいのため医療的ケアが必要な子どもとその家族を対象に、一時的に医療ボランティアによりケアを代替し、リフレッシュを図ってもらう「レスパイト(休息)ケア」活動を行っています。

「医療的ケア児は全国に約1万7千人いると言われているが、私たちだけでこれらすべての対象児とその家族をサポートすることはできない。同様のサポートをする団体が全国に増えてくれることを願い、今後より多くのご家族や医療者と携わりながら活動を広げていければ」と宮地さんは話します。

「医療的ケア児」とは

医療的ケア児にとっては、旅行中も医療機器は必須。その搬出・搬入や管理も重要な仕事。人工呼吸器や酸素ボンベ、その他医療的ケアに必要な機器を積んだバギー

聞きなれない言葉ですが、医療的ケア児とは何なのか。その定義を聞いてみました。

「経管栄養(チューブで流動食を投与すること)や痰の吸引、カテーテルでの導尿や人工呼吸器の呼吸管理など、家族が自宅で日常的に介護して行うもので、病院で医療・看護のもと行われる『医療行為』に対して『医療的ケア』という言葉が使われる。この『医療的ケア』が必要な子どもが『医療的ケア児』と呼ばれている」

「親子レスパイト旅行」での一コマ。医療的ケア児の表情を笑顔で見守る家族。「この子がここに来た時から笑ってくれる。こんなに笑ってくれることなんて今までなかった…」と話す

そして、医療的ケア児の家族の負担について宮地さんは次のように指摘します。「医療機器がないと生きていけない子どもが多く、必然的に一緒に暮らす家族の負担も大きくなる。常に医療機器に異常がないか確認したり、痰を吸引したり…、命と向き合い強い緊張感のもと24時間体制で見守る必要がある」

医療的ケア児の数はこの10年で2倍に。見えてくる新たな課題

「親子レスパイト旅行」には、専門の知識を持った医療ボランティア必ず同行する。2018年8月、長野県筑北村で行われた親子レスパイト旅行にて、夕食会場で対象のお子さんたちの医療的ケアを行っているところ

「医療的ケア児の数は、この10年ほどで2倍近く増えている」と宮地さん。救える命が増える一方で、新たな課題の存在を指摘します。

「日本の医療は発展し、世界一子どもの命を救える国になった。NICU(新生児集中治療室)で治療を受け、命のレベルが保たれるコンディションまで回復すると、子どもは自宅に戻ることになる」

「子どもが家族の元で生活することは理想だが、ケアにあたる家族の負担は少なくない。介護に追われ、まとまって4〜5時間眠れる暇さえない。夫婦の連携がとれず、離婚や別居状態にある夫婦も少なくないと言われている。救われた命、それは喜ばしいことだが、その子を支える家族を含めたサポートがないと、家族全員が疲弊してしまう」

「国も法制度を整えたり、専門の医療機関もさまざまなサポートをしたりとがんばっているが、ケアが行き届いていない部分があるのもまた事実。障がいについては福祉関係者などその専門家が、病気については医療者などそれぞれの専門家がサポートするが、しかしそれだけでは本人の生活の質、そして家族の思いや生活をサポートしきれない部分がある」

民間人だから、できること

旅行中の一コマ。親御さんに代わって医療的ケアをほどこす医療ボランティア

そんな中で、福祉の専門家でも医療の専門家でもない民間人だからこそ、できることがあると宮地さんはいいます。

「僕たちは医療や福祉に関しては全く専門外、その専門性を持たないただの民間人。しかし、医療的ケア児とその家族が多くの人たちと接し、様々なつながり、関係を持つ機会を得ることができたら、またそれを社会が提供することができたら、ご家族の疲弊の度合いを下げることができるのではないだろうか」

「職業や専門的な知識は抜きにして、ご家族が元気でいることができれば、病気や障害と闘っている子どもたちもまた、大きな何物にも代えがたい安心という心の支えを得て、元気になれると思う」

「皆で一つの部屋で眠れて、嬉しかった」

長野県安曇野市「いわさきちひろ美術館」を訪れ、子どもたちに紙芝居を読み聞かせ。皆の顔から笑顔が溢れる

これまでに8回、医療的ケア児・者とその家族を対象に、皆で一緒に旅行に出かける「親子レスパイト旅行」を実施してきた「親子はねやすめ」。2018年の夏に主催した旅行では、4家族を2泊3日の長野旅行へと案内しました。

「親御さんにもゆっくりと休んでほしいと思っているので、一人ひとりの医療的ケア児の症状をよく知る医療ボランティアはもちろん、炊事を担当する地域のボランティアや、きょうだいと遊ぶ学生ボランティアなど、1日だけの参加者も含めると総勢約70名ものボランティアが参加して、家族の旅行をサポートした」と宮地さん。

「親子レスパイト旅行」のプログラムの中には、地元の野菜の収穫も。2018年の旅行ではズッキーニやプチトマトを収穫し、皆でおいしくいただいた

「こんなに食べて、こんなに笑ってびっくりしている」「こんなにたくさんの人たちが私たちのために…感謝している」「初めての家族で外出、心配だったけれど、我が子が笑ってくれた」――。

参加した親御さんからは、このような声がたくさん聞かれるそうですが、宮地さんが「こんな些細なことでも喜んでもらえるのか」と感じたのは「家族皆で一つの部屋で眠れてうれしかった」「きょうだいが川の字になって寝ているのを見て幸せだった」という感想だといいます。

「人工呼吸器など医療機器をいくつもつけて生活している医療的ケア児は、常にコンセントが5つも6つも必要な状態。近い年頃のきょうだいがいると、好奇心旺盛な年頃なので、お兄ちゃんやお姉ちゃん、妹や弟がつながれているピカピカ光ったり、ピッピッと音が鳴る機器を見て、ついボタンを押してみたくなるし、管を引っ張ってみたくなる」

いつもはベッドで寝ている弟と、一緒に眠ることになったお兄ちゃんたち。部屋ではずっと興奮気味だったそう

「しかし、もしボタンを押してしまったら、対象児のレベルによっては取り返しのつかないことになってしまう。そんな不安から、対象児とそのきょうだいを別々の部屋で寝かせるという選択をする親御さんも少なくない。また家族によっては、親御さんのどちらかが対象児と一緒に寝て、もう片方が睡眠を確保するために別の部屋で寝るという声もある。だから、家族皆で一つの部屋で寝るという経験自体が貴重に感じられるようだ」

日常から離れ、明日からの生きる力をチャージする

「親子レスパイト旅行」毎年恒例のクラリネットコンサート「親子はねやすめライブ」。普段気を張って生活している親御さんたちの中には、演奏を聴いて涙を流す人も

旅行に参加した親御さんからは、他にも「きょうだいがのびのびと遊ぶ姿を見てほっとした」「障がいをもったきょうだいがいることを嫌だと思っているのではないかと思っていたけれど、大事にしているんだと気付いた」といった、きょうだい児への声もあるといいます。

「重度の障がいで、我々には表情が読み取りにくい子どももいる。でも、親御さんが『子どもがずっと笑ってる』『ずっと笑いっぱなしだ』と教えてくれる。病気のお子さんの顔を覗き込んでは、家族がすごく喜んでいる姿を見ると、来て良かったんだな、喜んでもらえたんだな、とこちらも嬉しくなる」

旅行の最後の集合の場で「ここまで自分たちで来ることはできなかった。はねやすめのスタッフさんが運転してくれて、初めての家族旅行だった」と涙ながらに旅行を振り返るお母さん

「親御さんの中には『健康に産んであげられなかった』と自分を責めてしまうお母さんや、子どもの病気を認められないというお母さんもいる。医療機器の音を聞いていると苦しくなり、パニックに陥ってしまうお母さんもいる。それぐらい、普段の生活で心身共に追い詰められている」

「普段の絶え間ない介護や強い緊張から一旦離れてゆっくり食事をしたり、お風呂に入ったり、子どもが遊ぶ姿を見たり…、そうして、また明日からの生きる力をチャージして欲しい」

遊びに行く楽しさを得られない家庭が存在することは、社会の問題でもある

「旅行なんて無理。そう思っていた」という親御さんの心配をよそに、旅行中お母さんに抱かれて笑顔を見せた子ども。「様々な可能性を見守る親御さんに応えたかのような笑顔。これからの社会はこうありたい、と私たち大人に感じさせる笑顔でもあるのではないでしょうか」(宮地さん)

「外出ができない、遊びに行く楽しさを得られない家庭があるのは家族だけの問題ではなく、社会の問題でもあると考えている」と宮地さんはいいます。

「我々が発信力をつけて、重い障がいや病気であっても、ボランティアとして専門職である医療者や福祉の手をお借りしながら、問題なく家族で宿泊ができるような社会風土を作っていけたら。限りなく近い未来は、それは当たり前のことであってほしい。そんな日本であって欲しい」と話します。

そのために「親子レスパイト旅行」では、止まる場所や施設を固定せず、あえて病児や障がい児のための専門施設ではない、民間の宿泊施設を利用しているといいます。

「いつも決まった施設に行って帰ってくるだけだと、一般の人たちと触れ合う機会も多くない。医療的ケア児とその家族が集まって休息できる場所は特別な場所だが、ともすると、それが『特殊な場所』になってしまう可能性がある」

「よりたくさんの一般の人に関わってほしいし、互いに気づきを得て欲しい。だから、『特殊な場所』は作りたくない。『どこでも、一般の場所で開催する』いうことを念頭に置いて活動している。たくさんの人数で宿泊することは宿泊施設やその地域にとってビジネス的にもプラスだし、病児やその家族が利用することで、宿泊施設側にも新たな気づきが生まれる。これも旅行を開催する一つの意義」

家族の一時休息を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「親子はねやすめ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×親子はねやすめ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、親子はねやすめが実施する医療的ケア児の家族ときょうだいを対象に開催されるイベントに、新たに参加者を受け入れるための資金となります。

旅行中、お母さんと二人きりで遊ぶきょうだい児。「今日はママをひとりじめ」そんな声が聞こえてきそう

「親御さんが医療的ケアの必要なお子さんにつきっきりになってしまうことが多く、きょうだい児は外で遊ぶ機会が多くない。しかし彼らにも、遊ぶことで得る学びや経験・体験が必要。医療的ケア児にとっては、彼らは生涯のパートナー。しっかりとたくさんの人とかかわって大きく成長して欲しいと願って開催している」(宮地さん)

「JAMMIN×親子はねやすめ」1週間限定のチャリティーアイテム。ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込)。写真は、今の季節にぴったりな七分袖Tシャツ(3,724円(チャリティー・税込))。他にキッズ用Tシャツやマルシェバッグなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、「ホッと一息」の象徴であるコーヒー。コーヒーカップの中には、キラキラと輝く宇宙が広がっています。「休息が、明日への可能性を広げてくれる」。そんなメッセージを込めました。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月8日~10月14日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、宮地さんがこの活動をするに至ったきっかけや、「親子はねやすめ」の活動について、宮地さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてくださいね!

明日のために、元気に休む。医療的ケアが必要な子どもとその家族に、一時の休息を〜NPO法人親子はねやすめ

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!

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