国土の多くを森林に囲まれた日本。一見自然とはかけ離れているように見える都市部の生活もまた、農山村地域に頼っているという事実があります。過疎化が進む農山村と都市とを結び、森や地域の自然を守る活動を行うNPOに、都市と農山村の関係のあり方について話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
都市と農山村地域を結ぶ「きっかけ」づくり
「認定NPO法人JUON(樹恩)NETWORK」は、都市と農山村が支え合うネットワークを森林などをめぐる体験・交流・応援の活動によってひろげ、持続可能な社会を創造する活動をしています。
「全国にある700以上の大学のうち、200校にある大学生協の連合会が中心となり、呼びかけて設立された団体で、18〜40歳を対象に、森林ボランティア青年リーダー養成講座を開催し、森づくり活動の担い手を養成しているほか、森を守るために間伐材や国産材を使ったオリジナルの割り箸を作ったり、農家のお手伝いをしたりといったプロジェクトも多数開催している。まずは関わって、農山村の抱える課題を知ってもらいたい」と話すのは、JUON(樹恩)NETWORK事務局長の鹿住貴之(かすみ・たかゆき)さん(46)。
「過疎化を防ぐために、移住して集落や地域を守るということがもちろん良いが、全員が最初から定住する必要はない。普段は都市部で暮らしながら、週末は農山村地域に通うとか、年に1〜2回通うとか、関わり方のスタンスはいろいろあっていいよね、という意識がここ最近浸透してきているのではないかと思う」と話します。
森がないと、人は生きていくことができない
「森林がないと私たち人間は生きていくことはできない」と鹿住さん。
「過去に栄えた多くの文明も、森が滅んでしまったために滅んでしまったといわれている。それほど人の生活には森が不可欠。たとえば水。雨が降った際、その雨をたっぷりと吸収する森林の土壌があるからこそ、雨が地下水になって川に流れ込み、私たちが利用することができるが、森林がなくなると、降った雨を吸収する土壌がなくなり、川の水も無くなってしまう」
「他にも、空気を浄化したり、土砂災害から私たちの生活を守ったりと、木材としての役割以外の多面的な公益的機能を、森林は担ってくれている。一見関係ないようで、都市部に暮らす人たちにとっても、森林は非常に大きな役割を果たしている」
過疎化、担い手不足…
農山村地域が抱える課題
一方で、過疎化や担い手不足により管理が放棄されてしまう森林が問題になっています。
「日本は、都市部よりも農山村地域に森や畑などの自然がある。しかしこういった場所には仕事がなく、そのため農山村地域に暮らす人口がどんどん都市部へ流出してしまう」
「国内の森林の割合は67%を占めるが、全国の耕作放棄地は、すべてを合わせると滋賀県や埼玉県と同じぐらいの面積があるといわれている。一方で海外から安い木材や食料が輸入されるため、日本の森林や田畑がうまく活用されず、国内の林業や農業が成り立ちにくいという現状がある」
「『里地・里山』という言葉があるが、日本にある自然は、その多くが人の手が加えられたもの。そこを守っていくためには、人が手を加えながら世話をしていかなければならない。そのためには、やはりこういった場所に仕事をつくり、人が住むことができる状況をつくっていく必要がある」
間伐材を利用したオリジナルの「樹恩割り箸」
JUON(樹恩)NETWORKでは、森林の活用を考え、国内の間伐(かんばつ)材を利用したオリジナル割り箸「樹恩割り箸」を作っています。
「『樹恩割り箸』は、団体立ち上げ当初からずっと続いているプロジェクト。今は需要が減ってしまった間伐材を用いて、林業に仕事とお金が入っていく仕組み作りの一つ」と話します。
「林業は木を植えてから何十年後に収穫するまで、売り上げがほとんどない状態。以前は間伐材を売って収入の足しにしていたが、利用が減ってそれも難しくなっている。しかし、間引きをして整備しないと森林は荒れ土砂災害などの原因になってしまう。間引きされた木が活用される道があれば、そこにお金が入り森の手入れもできるようになる」
「大学生協はその多くが食堂を持っているが、そうすると割り箸が必要になるという点に着目したプロジェクト。ただ、中国産の割り箸に比べると価格は高い。1本あたり1〜2円の差でも、大きな大学の場合、年間で何百万円という差が出てしまうため、使わないという判断をする大学生協もあるが、身近なお箸というアイテムを通じ、大学生に森の現状を知ってもらいたいという思いがある」
若者たちが気軽に農山村と関われる
体験プログラムを実施
JUON(樹恩)NETWORKでは、地域の自治体や地元のNPO、大学等とタイアップして若い参加者を募り、森林ボランティア活動を行う「森林の楽校(もりのがっこう)」や、農家の果物栽培や米作りを手伝う「田畑の楽校(はたけのがっこう)」といったプロジェクトも積極的に開催しています。
「他の森づくり団体さんと比べて若い方が多く、参加者の1/3は学生や20代の方たち。日帰りから1〜2泊まであるが、『農山村に行ってみよう』という気軽に参加できる雰囲気を売りにしている。中にはリピートして何度も来てくださる方もいるが、参加した方の世界観が変わるような体験を生み出したいと思っている」
もう一つ力を入れているのが、継続的に森林ボランティア活動に参加する若いリーダーを育てる「森林ボランティア青年リーダー養成講座」。東京・関西・四国の三箇所で開催しており、今年で東京が20期、関西は12期を迎えるといいます。
「東京の開催では11月〜1月にかけて1泊2日の講習を3回実施し、間伐の仕方や道具の使い方、ロープの使い方など森を保全する知識や作業を学ぶ。また、農山村地域に移住した方の話を聞いたりしながら、森と人との継続的な関係を育むことにも力を入れている。今後の森づくり活動を引っ張って行ってくれる人材が育ってくれたら」(鹿住さん)
森と人との継続可能な関係を育むために
「今の日本の都市は、地方の農山漁村ではなく、海外とつながっていると感じる」と鹿住さん。
「日本の木材自給率は35%、食料自給率はカロリーベースで40%。海外の仕事づくりも必要だし、フェアトレードという考え方もあるが、国内の農山村地域を守るために、私たち消費者が国産のものを使い、農山村地域に仕事を見出していくことが必要ではないだろうか」と問いかけます。
「石油や石炭といった地下資源をベースにした現在の私たちの生活だが、石油はあと40年、石炭はあと200年すると無くなってしまう。持続不可能なものを中心に回っているという事実がある一方で、木は育てれば育てるほど無尽蔵に作ることができる。一旦切れてしまった都市と農山村とのつながりを取り戻し、再び循環させたい。都市部と農山村が支え合うことが、エネルギー的にも資源的にも、持続可能な社会をつくっていくカギになる」
「人は、自然がないと生きていけない。森や農山村地域がなければ、都市は成り立つことはできない。そこを利用していくことがないと、必要不可欠なものを守っていくことはできない」
「都市部にいると、実は森林や農山村地域の人が自分たちの生活を守ってくれているということを忘れがちで『森なんて放っておいたらいい』と思うかもしれない。自然は偉大なので、仮に整備をしなかったとしても、森自体は自然と長い年月をかけて良い状態へと変化していくが、その間に人間には良くないことが起きていく」
「都市部で暮らす人たちが農山村地域やそこで採れたものを積極的に使っていくことが農山村地域を支えるし、ひいては都市住民の暮らしを支えることにもつながっていく」
農山村地域を守る担い手の養成を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、JUON(樹恩)NETWORKと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×JUON(樹恩)NETWORK」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、JUON(樹恩)NETWORKが開催する青年リーダー養成講座のための資金になります。
「青年リーダー養成講座は、助成金を活用し参加者の方の参加費を安く抑えているが、昨年からスタートした四国での開催については助成金がなく、運営費は持ち出しとなっている状態」(鹿住さん)
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、雄大な大自然と、その水面越しに描かれた人が暮らす都市の姿。森や自然があることで、都市部の人たちの暮らしが成り立っていることを表現しています。
チャリティーアイテムの販売期間は、2月11日〜2月17日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、JUON(樹恩)NETWORKの活動について、より詳しいインタビュー記事を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・若い世代が森に触れるきっかけを作り、農山村地域と都市とをつなぐ〜NPO法人JUON(樹恩) NETWORK
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は2,900万円を突破しました。