フローリングの端材や未使用のシートベルトなど産業廃棄物を利用してバッグを生産するファッションブランドのMODECO(モデコ)。一見ユニークだが、環境保全を目的に行われているエコビジネスだ。代表を務めるのは商品のデザインも手掛ける水野浩行さん(34歳)。社会問題に直接関わる活動をしたいとミュージシャンから転身した若きクリエイターだ。(水野 恵美子)*名古屋発、新世代のエコブランド(前編)はこちら

LEXUS NEW TAKUMI PROJECTの企画で作成したアップサイクルのバッグ 全て自動車に関わる廃材だ

■音楽家から社会ビジネスへ

大須商店街 古さと新しさを併せ持つカラフルな街だ

MODECO本店は愛知県名古屋市大須の商店街にある。大須観音近くの商店街には各国の外国料理店や昔ながらの喫茶店、若手作家のギャラリーなど国籍や世代を越えて多彩な店が軒を連ねる。

水野さんがMODECOを立ち上げたのは25歳だった2010年。それまでは音楽とともに日々過ごしていた。1985年に名古屋市で生まれた水野さんはサッカーと並行して小学生でピアノ、中学生でギターを始め、バンド活動に流れて作詞作曲も手掛るようになった。

好きなミュージシャンの一人が、社会にも影響を与えたボブ・ディランだという。

水野「あのタイミング(1960年代のアメリカ公民権運動の時代)で『ライク・ア・ローリングストーン』なのか『風に吹かれて』なのか、彼が歌ったことで多くのフォークシンガーを焚きつけたというか、心を動かされたんです。ミュージシャンに限らずそういう人たちはリスペクトしますね。」

水野さんの転機となったのは、18歳当時に起こったイラク戦争(2003年)。「自分は音楽を通じて何ができるのか」?この先も音楽活動を続けるべきか迷いながら、同時に社会問題にも関心を持つようになっていった。

■人生を決定づけた2007年

この頃、世界は環境問題の取り組みに向けて大きく動き出す。1995年、気候変動枠組条約締約国会議いわゆる「COP」の初会議が行われ、97年のCOP3で温室効果ガスの削減を目指す「京都議定書」が採決された。同年、自動車業界ではトヨタが世界初の量産ハイブリッド専用車「プリウス」を発表した。

京都議定書の採決から10年後の2007年。世界は先進国を中心にCO2を目標数値に下げようと本腰を入れ始めた。

「京都議定書の期間に入ったのが大きいですね。よーいドン!で。『エコロジー』というキーワードをサブカルチャー的にでなく時代的に本当に考えた社会形成をしていこうというタイミングとマッチしたんです」(水野)

同年、音楽活動をやめる決断をし、翌年、知人の環境コンサルタント会社の社長に連れられて、さまざまな企業の倉庫を回った。そこで目にしたのは大量の未使用の廃棄物。水野さんはその真新しい廃材に着目した。

■MODECO立ち上げへ

ある時、電子機器に使われている不良品のウレタン板を見て「何かに利用できるのでは?」と考え、美容師のハサミを収納するシザーキャップを作ってみた。のちのバッグ作りにつながるクラフトメイキングの原体験だ。

2010年にはMODECOの活動をスタートさせるが、バッグを作る職人を探すときは電話帳を開いて300軒片っ端から電話をかけた。話を聞いてくれたのはわずか数軒。ただ一人の知人の紹介した会社社長が関心を示してくれた。

水野さんの行動力と柔軟性が協力の輪を呼び込み、インテリア会社のサンゲツが最初に廃材の提供を申し出てくれた。MODECOの活動が県内に広まると、徐々に協力企業は増えていった。

■自動車産業の愛知をアピール

タイヤチューブのバッグを手にするMODECO 代表・水野浩行さん

2017年水野さんは、全国各地域の特色を活かした新しいモノづくりに取り組む若者をサポートする「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の愛知県代表に選ばれた。このプロジェクトでシートベルトやタイヤチューブの廃材を利用したバッグ、さらにはガズーレーシングのレーシングスーツを素材にしたボストンバッグも製作した。そこには愛知の主要産業ともいえる自動車を文化的にも発信していきたいという水野さんの願いが込められている。

水野「愛知県の地域性って結局何?って言われたときにやっぱり自動車の産業だろうと。ガズーレーシングのユニフォームをファッションバッグにすることで自動車の工業的魅力、愛知の格好良さにつながるというか最終的には街のアイデンティティになっていくといいなと思います。1年や2年の話ではないですけど」

ボストンバッグの素材となったガズーレーシングのレーシングスーツ 自動車会社の協力で実現した

さらに同じ愛知県でから登場した世界的なエコカー「プリウス」も意識している。

水野「プリウス自体がもたらした“ハイブリッド”という一つのライフスタイルへの移行を実現させたことのイメージ感が大きかったんです。トヨタの存在する街で生まれ育ってきた人間としてはそういうものを引き継いでみんなが愛してくれるコンセプト…ハッピーになるものを作り出したいですね。」

「大切なのは、時代にとって必然的なものをきちっと表現してるかどうか。」ボブ・ディランの話をした時に水野さんが口にした言葉だ。社会と向き合いながら活動を続けるMODECOのコンセプトはこれからも新しい時代をけん引していくだろう。

MODECO公式サイト 
LEXUS NEW TAKUMI PROJECT


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