「防災士の資格を取りたい」――熊本県荒尾市に住む小学5年生の今村結麻ちゃんは防災士を目指して勉強中だ。きっかけは、「いつはな」と呼ばれるドキュメンタリー映画。影響を受けたのは結麻ちゃんだけではない。静岡県にある私立高校では上映を機に、校内ハザードマップをつくり、学校全体で防災力を強化。都内在住の大学生は防災情報を発信するためYouTubeチャンネルを開設した。(オルタナS編集長=池田 真隆)
このドキュメンタリー映画のタイトルは「いつか君の花明かりには」。「いつはな」という愛称で知られている。同作の中心となる舞台は、東日本大震災による津波被害を受けた岩手県陸前高田市。同市では、将来世代への防災普及啓発の一環として、津波の最高到達地点に桜を植える植樹活動が行なわれている。
同作では、この取り組みを主催している認定NPO法人桜ライン311代表の岡本翔馬さんや熊本県で「歌うママ防災士」という肩書で活動している柳原志保さん、徳島県で大人顔負けの防災に取り組む津田中学校防災学習倶楽部などを追った。草の根で活動する当事者だけでなく、防災の専門家や戸羽太・陸前高田市長も出演し、防災の大切さを訴える。
監督を務めたのは、インディーズ映画で異例の47都道府県上映を実施した小川光一さんと建築の知識を生かして家庭向けの防災啓発活動などを行う山崎光さん。
いつはなは、すでに21都道府県で上映されたが、すべて有志による「自主上映会」という形で公開された。主催団体は、防災に関心のある個人から学校、企業、自治体、NPOなどさまざまだ。基本プランは映画上映と監督講演のセットで5万円と交通費で受け付けている。
草の根で活動するキーパーソンを追った内容の映画だが、いつはなそのものも草の根で防災の輪を広げてきた。小学校5年生の今村結麻ちゃんは、熊本県荒尾市で開かれた上映会のスタッフとして、母親と参加した。
上映会を機に、防災に強い関心を持ち、地域で防災イベントがあると、お手伝いとして行くようになった。今の目標は、「防災士になること」。熊本県ではまだ小学生防災士は誕生したことがなく、もし小学生の内に防災士になれば、史上初となる。
■防災団体のメンバーが6倍に
静岡県にある暁秀中学校・高等学校でも防災の明かりが灯った。同校は、国際バカロレア資格認定校で、国語以外の科目を英語で行うコースもある。生徒会長を決める選挙で、防災研究会の立ち上げを公約に掲げた柏木結大くん(高校3年)が当選したことで、国語教師の一木綾さんがいつはなを校内で上映してはどうかと柏木くんに打診した。一木さんは沼津で開かれた上映会に参加しており、「この映画は若者の言葉で防災が語られているので、(生徒が)防災を自分ごと化しやすい」と考えていた。
上映会前は、防災研究会は5人で活動していたが、上映会後、生徒の防災意識が高まり、メンバーが6倍の30人に急増。後日、柏木くんは、監督の小川さんへ感謝の手紙を送ったが、そこには、「上映会を開いた日をこの学校の防災記念日にしたいくらい」といった内容が書かれていたという。
防災の普及啓発に力を入れる東京農業大学に通う小島真さんは、「ぼくが防災をやっているのは、いつはなのおかげ」と言い切る。小島さんは、「農大復耕支援隊」という復興支援団体に所属しながら、防災イベントやYouTubeでの発信を通して、啓発を行う。
小島さんは、「映画に出てくる徳島の中高生たちの言動に衝撃を受けた」と言う。東日本大震災の発生時は、小島さんは小学5年生。「何も活動を起こせていなかった」自分と、映画に出てくる中学生を対比させ、「いつはなを観るたびに、防災に力を入れる理由を思い出す。この映画は、ぼくにとって、防災の原点」と述べる。
■9月7日には、東京でチャリティ上映会
9月7日には、いつはなの製作実行委員会が新宿で、チャリティ上映会を開く。上映会後には、映画の出演者や監督による講演会、主題歌を書き下ろしたアーティスト「butterfly in the stomach」のライブも行う。定員は392人で、参加費は1000円。参加申し込みは公式サイトへ。
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